前回のブログをまだお読みになっていない方は、是非お読みください。お読み頂いた方が、本ブログ読後の納得感が違うと思います。
では、改めまして。以下に保安員とあなたの会話を展開します。保安員の質問に真実条件とウソ条件でそれぞれ答えてみて下さい。全ての質問に回答後、回答をそれぞれの条件間で比べてみて下さい。
それではスタート。
あなたが入国審査を受けるための列に並んでいると、一人の空港職員があなたに声をかけてきました。
保安員:こんにちは。今日は風が強いですね。飛行機での移動はどうでしたか?
あなた:( )。
保安員:そうですか。それは○○でしたね。私は空港の保安職員です。保安検査のために少しお時間を下さい。いくつか質問をさせて頂きますので、あなたのことについて教えて下さい。
あなた:はい。
保安員:最終学歴について教えて下さい。
あなた:( )。
保安員:その学校の先生の名前を教えて下さい。
あなた:( )。
保安員:ありがとうございます。パスポートを拝見させて下さい。(パスポートを見ながら)色々なところに旅行に行っているんですね。
あなた:はい。
保安員:滞在時どこに行かれますか?
あなた:( )。
保安員:そこは空港からどのくらい時間がかかりますか?
あなた:( )。
保安員:そこに行くための交通手段を教えて下さい。
あなた:( )。
保安員:そうすると、そんなに遠くないですね。次の質問です。あなたのご職業は何ですか?
あなた:( )。
保安員:本社はどこですか?
あなた:( )。
保安員:社長はどなたですか?
あなた:( )。
保安員:わかりました。これで質問は終わりです。ありがとうございました。どうぞ入国審査にお進みください。
いかがでしたでしょうか?ウソ条件で真実条件と同じように回答することは難しかったと思います。保安員の質問ロジックや質問例を具体的にここで説明することは避けますが、端的に説明すれば、普通、空港で質問されるとは考えられないものの、真実ならば答えるのが難しくない時間・空間・関係者に関わる質問をしています。そして回答の真実性は、ウソの言語・非言語サインや一般的な旅行者の行動パターンとの乖離・逸脱度合い…等々を考慮しながら推定していきます。
真実条件に関しては全ての質問におそらく簡単に答えられたと思いますが、ウソ条件だと上記の質問に対する答えを用意していなかったと思われます。
本物の空港の入国審査の列に犯罪者役の実験参加者を紛れ込ませて、そこに勤務する保安員がその犯罪者役を見抜けるか否かを調査した研究によると、非言語観察トレーニングしか受けていない保安員に比べ、上記の質問法+言語観察法のトレーニングも受けた保安員の方が、犯罪者役を見抜く精度が高かったことがわかっています。具体的な検知率としては、66%です。それほど高い数値だとは思えないかも知れませんが、これは犯罪者役の実験参加者のモチベーションと本物の犯罪者のモチベーションに起因するところがあると思います。本当の犯罪者ならばウソがばれることによって失うものが大きいので、この検知率はさらに高くなると予想されます。
ウソ検知の科学は、非言語だけ、言語だけ、質問法だけ、という単体ではなく、統合型へと、科学者及び実務家の検討が日々重ねられながら、進歩しています。今後も最新のウソ検知の科学をレポートさせて頂きたいと思います。
清水建二
参考文献
Ormerod TC, Dando CJ. Finding a needle in a haystack: Toward a psychologically informed method for aviation security screening. Journal of Experimental Psychology: General. 2015; 144(1):76.