微表情という言葉が広がりつつあることに嬉しさを覚えると同時に微表情の意味を即断し、微表情=ウソとナイーブに結び付けてしまう言説が散見されるようになってきました。
そこで本日は微表情をウソ検知に利用する際の注意点について書かせて頂こうと思います。
まずはこちらの動画をご覧下さい。
どちらかの女性が指輪を盗んだのに盗んでいないとウソをついています。なお1:15に答えがわかってしまいますので、ご自分で答えを出したい方は、1:14あたりで動画を止め、何度も見返して下さい。
さて、動画に登場した微表情について解説します。➡は清水が面接者だったら心の中で何を考えるかを示しています。
面接者:指輪を盗みましたか?
回答者1:いいえ。
➡(0:46秒)眉が中央に引き寄せられ、鼻孔が開いた。怒りの微表情。何に対する怒りだろうか?無実なら普通の反応である。
面接者:あなたが盗んでいるところを目撃した人がいるということはありえますか?
回答者1:ないと思います。
➡(0:51秒)眉が中央に引き寄せられると同時に、下唇が引き上げられている。熟考の微表情。(0:52秒)鼻のまわりのしわ。嫌悪の微表情。この質問に対して、一瞬考え、嫌な質問だと思った。しかし、その理由は何だろうか?
面接者:指輪を盗みましたか?
回答者2:いいえ。
➡(1:04秒)口角が引き下げられ、下唇が引き上げられている。悲しみか熟考の微表情。熟考ならば、答えるのに簡単な質問に対する反応として、違和感を抱く。しかし、悲しみなら無実の人間の反応として普通の反応。
面接者:あなたが盗んでいるところを目撃した人がいるということはありえますか?
回答者2:ないと思います。ケイシーが私をそこで私を見ていたので、ケイシーが保証してくれると思います。
➡(1:29秒)肩が引き上げられると同時に唇がプレスされる。自信がないことを意味する微動作と熟考の微表情。言動が一致していない。ケイシーが保証してくれるかどうか自信がないのだろう。ケイシーに後でコンタクトを取り、回答者2をどこでいつ見たかを聴いてみよう。
Norah博士が1:15に答えを述べてしまっているので、もう結果はわかっているのですが、答えがわからないとして続けてみます。
博士は、ウソ検知において証拠を利用する重要性を説いています。博士は、特定の犯罪や出来事について知っていなければ、知りえない情報のことを証拠と定義づけています。そこでここから映像では、指輪の窃盗が起きた場所においておいた特別な人形を証拠にして、ウソ検知を試みています。この人形は特別に作られたものなので、指輪を盗んだ場所にいなければ見ることが出来ない人形のようです。
面接者:見せたいものがあります。この人形を見たことがありますか?
回答者1:いえ。
面接者:その根拠はありますか?
回答者1:だって見たことないんですもの。
➡(2:28秒)自信がない言動が一致している。特に問題はない。
面接者:見せたいものがあります。この人形を見たことがありますか?
回答者2:はい。そのへんで見ましたよ。机のあたりで。
➡(2:48秒)口角が引き下げられ、下唇が引き上げられる。熟考の微表情。何に対する熟考だろうか?イラストレーターが出ており、視線が上を向いていることから、どこかで見たのだが、そこがどこか自信がないのかも知れない。口を滑らせてしまったのか、あるいはどこかで似た人形を見ただけかも知れない。どこでいつ見たか、深堀して質問していく必要がある。
面接者:その根拠はありますか?
回答者2:わかりません。だって本当なんですもの。
➡(3:15秒)唇がプレスされると同時に口角が下がり、下唇が引き挙げられている。熟考の微表情。人形を見たけど、やはりどこで見たのか自信がないようだ。認知面接のテクニックを用いて、記憶を呼び起こしてもらえるように質問を続けよう。
この映像のテーマは、言語・非言語だけでなく、証拠を戦略的に使ってウソを検知しようというものですが、微表情の意味を解釈するプロセスを説明する上で好例なので使わせて頂きました(証拠を戦略的に使ってウソ検知する方法を以前にブログで書いたかどうか忘れました。またいつかブログで書くかもしれませんが、本日は触れません)。
結果としては、回答者2が指輪を盗んでいます。「➡」以下を見て頂いておわかりのように、微表情の意味を解釈するときは、即断はぜずに(とは言え、清水もときどき判断しようとしてしまいますが、あくまでも疑わしきは罰せず、もしくは違和感レベルで止めます)、保留し、深堀質問をすることでその意味を明確にしようとすることが重要です。回答者1と2を比べると、2の回答内容の方が微表情の数―特に熟考の微表情―が多く、より慎重に深堀して質問する必要がある、質問を多くする必要があることがわかります。そんなときは、面接者(質問者・捜査官)側が勝手に回答者の微表情の意味を決めつけず、忍耐強くあらゆる角度から質問し、その意味を明らかにしていくことが大切です。その過程で、アリバイが崩れたり、自ら罪を告白してくれることもあるでしょう。もしくは正確な記憶が呼び起こされ、論理的でクリアな言説となり、無罪が証明されるかも知れません。
今回のブログ記事を通じて、微表情はウソの証拠として使うのではなく、深堀質問をするために使うキッカケだということを、今一度、注意喚起させて頂ければ幸いです。
清水建二