表情分析のプロになるには、一般書を読むだけでなく、専門書や学術論文を読み、より詳細な専門知識を習得することが必須だと考えます。とは言え、いきなり(日本語・英語問わず)学術論文を一人で読むことは大変だと思います。そこで本シリーズ、「学術論文を読もう」では、表情を始めとする非言語コミュニケーション及びウソ検知に関する珠玉の学術論文を題材に、内容の要約を提示しながら、論文を読んでいるときの私の思考の道筋を見える化し、学術論文を読むためのサポートをさせて頂こうと思います。
一人でも多くの表情分析官が育ちますように。
さて、第一回の課題学術論文は、
Matsumoto, D., Hwang, H. S., Harrington, N., Olsen, R., & King, M. (2011). Facial behaviors and emotional reactions in consumer research. Acta de Investigacion Psicologica (Psychological Research Records), 1(3), 441-453
です。
本論文のロジック、内容の要約及び私のコメントを➡で書かせて頂きます。
要約
消費者研究において消費者の感情を計測することは重要なことであるが、これまでの研究では消費者の自己報告に基づき感情を計測しており、信頼性に疑いが残る。そこで本研究では、消費者の表情から感情を計測することにした。研究の結果、嫌悪と社会的微笑が多く、真の微笑が生じることはまれであることがわかった。また表情筋の動きは弱く、短い間しか発現しないことがわかった。
➡なるほど。消費者動向というか、満足度などをこれまでは質問紙などの自己報告で測っていたものを、表情から計測しようとする試みなのね。面白い。言葉よりも表情の方が正直な場合が多いし。どんな研究手法で計測したのかな?
導入
第①パラグラフ
消費者研究において感情を計測することは重要である。感情は、商品そのものや購入行動・意思、購買価値と関連があることが知られている。現在の消費者研究は、質問紙などを用いた消費者の自己報告に基づくものが主流である。
第②パラグラフ
しかし、こうした自己報告に基づく計測法には限界がある。感情は瞬時に変化するものなので、こうした計測法で消費者の複雑な感情反応を正確に計測できているか疑問である。
➡確かに。紙やwebで満足度アンケートやっても全部「大変満足」とか自分はしてしまうし。そもそもそんなに真剣にアンケートに答えないことが多いし。
第③パラグラフ
こうした限界を乗り越える一つの方法として、消費者の中枢神経系や自律神経系を計測する方法がある。
第④パラグラフ
しかしこの手法にも限界がある。自律神経系の活動はポジティブ・ネガティブ感情を超えて、個別感情の測定が出来ることを示すデータがない。また脳の活動から感情を計測することは可能だが、特別な機器を用いて消費者を寝た状態にして、計測する必要があり、不自然である。
➡ウソを検知する研究でも似たような問題があったな。脳波からウソをついている人間を驚くべきほど正確に測定する装置があるのだけど、大規模な機械の中に人を入れる必要があるとか。でも最近の研究で顔の表面温度からウソを検知できる、録画画像でも可、とか開発された気が…。おっと、余計なことを考えすぎた。論に戻らないと。
第⑤パラグラフ
こうしたアプローチの代替策が、消費者の表情を計測するという方法である。消費者の自己報告に頼らず消費者の個別感情を客観的に計測することが出来るのである。
➡なるほど。
第⑥パラグラフ
表情から感情を計測する手法は、感情の質を詳細に計測できる点でも有効である。ネガティブ感情と一くくりにされる怒り・恐怖・悲しみには、それぞれ独自の発生原因、物理的・行動的関連性、社会的意味があるのである。
➡確かに。ネガティブ感情には様々な種類があるし、機能もそれぞれ違うのでちゃんと区別することは重要だろう。
第⑦パラグラフ
さらに表情筋の動きを客観的に計測することによって、様々な幸福表情を区別することが出来る。特に真実の微笑と社会的微笑を区別することが出来るのである。
➡微笑の種類を区別しない研究で、愛想笑い(本論で言うところの社会的微笑)を本当に喜んでいるって誤判断している可能性がある疑わしいものがあったな。確か。
第⑧パラグラフ
いくつかの表情を計測するためのシステムがあるが、FACSは最も包括的に顔の動きを計測できるシステムとして広く認知されている。
➡そうそうFACS。視認可能な顔の筋肉の動きを包括的に記述できるシステム。
第⑨パラグラフ
消費者の表情を計測し、消費者の感情を把握しようとした研究がこれまでに2つ提示されている。しかし、二つには方法論的な問題がある。一つの研究は、表情の測定者が認定FACSコーダーでもなければ、他の表情分析の手法をマスターしていないものによって計測されている。表情はとても複雑な現象なので、無資格の測定者による測定には、多くの見落としや測定ミスがあると考えられる。
➡研究の世界でもこうした問題があるのね。ビジネスの世界ではもっとあるな。表情分析する資格を持っていない人が表情を分析して、解説してる…。
第⑩パラグラフ
もう一つの研究は、子どもの味覚を表情から測定しようとした研究であるが、この研究にも方法論上の問題がある。単独のFACSコーダーによってしか計測されていない点とAUに対する感情のラベル付けに理論的根拠がない点である。
➡そうそう、AUと感情とを結び付けるのに膨大な論文を読む必要がある。これまでの研究で結構、AUと感情との関連性が明らかになってきたけど、まだ研究で明らかになっていないAUコンビネーションの意味とかあるんだよな。
第⑪パラグラフ
我々はこうした限界を正し、表情が消費者の変化する感情を把握するためのマーカーとして利用できる可能性を模索するために記述的な研究を行う。
➡どんな方法で研究して、どんな結果が見出されるのか、楽しみだな。
次回の本シリーズは一ヶ月前後に更新します。論文の方法論・結果を解説します。本論文の復習・予習を念入りにお願いします。
清水建二