微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

「AIに聞くからいいです」と言われないためのコミュニケーション論【カウンセリング編】

 

精神科医、臨床心理士、公認心理師等の専門家によるカウンセリング、

あるいは私たちが日々応じ、応じられる「ふつう」の悩み相談は、人と人が対峙し、介入する行為です。

 

しかし、昨今、

「生身の人間に相談するより、生成AIに相談した方がよい」と

感じる人も増えているようです。

 

その気持ちは、よくわかります。

生成AIは、いつでも応答し、否定せず、丁寧な言葉で返してくれます。

人間に相談すると、「迷惑ではないか」「説教されるのではないか」

「ちゃんと分かってもらえないのではないか」と不安になることがあります。

だからこそ、「AIに聞くからいいです」と感じる場面が生まれるのでしょう。

 

生成AIはネガティブ感情を緩和させ、人は孤独感を癒す

 

実際、AIが相談者の気分を軽くする可能性はあります。

大学新入生を対象に孤独感の影響を検討したLiら(2026)の研究では、

296名の学生を、①共感的に設計されたAIチャットボットとの会話条件、

②無作為に組み合わされた学生同士のネットを通じた会話条件、

③日記記入条件に分け、14日間続けてもらいました。

 

その結果、AIと会話した条件ではネガティブな気分が和らぎました。

しかし、孤独感が低下したのは、人間同士で会話した条件のみでした。

AI条件と日記条件の間には、孤独感の低下に差は見られませんでした。

 

この結果は、

「共感的な言葉」と「人とつながっている感覚」は

同じではないことを示しているように思います。

 

悩み相談で大切なのは、ただ優しい言葉を返すことだけではありません。

相談者が何を求めているのかを読むことが重要です。

 

今は、ただ共感してもらえれば十分なのか。

考えを整理してほしいのか。

具体的な解決策がほしいのか。

それとも、本当は自分でも分かっている答えを、誰かに言ってほしいのか。

 

このニーズを見誤ると、どれほど正しいアドバイスでも届きません。

共感してほしい人に解決策ばかり示せば、「分かってもらえなかった」と感じるでしょう。

反対に、具体的な解決策を求めている人に共感だけを返し続ければ、

「結局、何も進まない」とフラストレーションがたまるでしょう。

 

感情の機微が交錯するコミュニケーション

 

人間には、この機微を読みながら関わる力があります。

相手の眉間にしわが寄れば立ち止まる。沈黙が続けば待つ。

怒りが見えれば言い方を変える。不安が強ければ安心を与える。

言葉だけでなく、表情、声、姿勢、間合いを通じて、

相手が今どの状態にあるのかを感じ取ろうとします。

 

さらに、これは一方的な作用ではありません。

聞き手もまた、心配し、考え、戸惑い、ときに言葉に詰まります。

その反応を通じて、相談者は「自分の言葉が相手に届いている」と感じることができます。

相手が限られた時間や労力を自分のために使ってくれている。

その事実が、言葉に重みを与えます。

 

もちろん、人間はAIほど無限には付き合えません。

長いやり取りや、堂々巡りのような悩み相談では、聞き手が疲弊し、

共感を発揮し続けることが難しくなることもあります。雑な対応になれば、

「やはりAIの方がよい」と思われても仕方がありません。

 

だからこそ、人間に求められるのは、AIより多くの情報を返すことではありません。

相談者の状態を読み、今この人には何が必要なのかを見極めることです。

 

ときには摩擦を恐れないことも必要です。

相談者の気持ちに共感し、肯定しながらも、その人の成長や変化のために、

「それは違うと思う」「今のままでは苦しくなると思う」と伝えなければならない場面があります。

 

相手に嫌われるかもしれない。関係性が危うくなるかもしれない。

それでも、相手のために必要なことを言葉にする。

これは、単なる情報提供ではなく、人間的な介入です。

 

コスパ・タイパ人間の行先

 

生成AIに悩みを相談すること自体は、その特性を理解して使う限り、問題ないでしょう。

気持ちを言葉にする入口として、考えを整理する相手として、AIは有効です。

 

しかし、人間の相談は、言葉を返すだけでは終わりません。

身体を共に置き、時間と空間を共有し、相手の反応を見ながら関わり方を変える。

そして、必要なときには、優しさだけでなく厳しさも示す。

 

「AIに聞くからいいです」と言われないために必要なのは、

AIのように振る舞うことではなく、

目の前の人が、今、何を求め、何を受け取れる状態にあるのかを読むこと。

そして、その人の変化に責任をもって関わること。

 

そこに、生成AIには代替しにくい、

身体的で相互的なカウンセリングの価値があるのだと思います。

 

コスパ・タイパを追求する生き方には、

失敗から得られる教訓や感情を経験するチャンス、

それに伴い醸成される、人に寄り添う能力を喪失させるでしょう。

 

言葉だけの共感はAIにも出来ますが、

身体経験を伴う共感は人間にしか出来ません。

身体経験を短縮した生き方の先にあるのは、人間のAI化。

個々人にカスタマイズされた心地よい言葉を生成AIは、いつでもどこでも届けてくれる。

そんな世にコスパ・タイパ人間の居場所はあるのでしょうか。

 

 

参考文献

Li, Ruo-Ning, Folk, Dunigan, Singh, Abhay, Ungar, Lyle, & Dunn, Elizabeth. (2026). Is a Random Human Peer Better than a Highly Supportive Chatbot In Reducing Loneliness Over Time? https://doi.org/10.31234/osf.io/hfcn7_v3

「AIに聞くからいいです」と言われないためのコミュニケーション論【接客編】

 

昨今、「店員さんに聞く前に、まずAIに聞く」という行動が広がり始めています。

 

宿研の調査では、2025年夏に国内旅行を終えた1,000人のうち、

32.6%が宿泊先探しに生成AIを活用していたことがわかっています。

JTB総合研究所の調査でも、週1回以上生成AIを使う人の77.8%が、

旅行関連で生成AIを使った経験があり、今後使いたい用途には

「旅行先のグルメ情報検索」が含まれていることもわかっています。

 

つまり、ホテルのフロントやレストランのスタッフに

「おすすめはありますか?」と聞く前に、

すでにAIから候補を受け取っているお客様が増えつつあるのです。

 

それでは、AI時代の接客において、人間の役割は何でしょうか。

 

具体的な場面から考えてみましょう。

 

チェックイン時や荷物預かり時の一コマです。

ホテルスタッフ:今日は、どちらへ行かれる予定ですか?

お客様:このコースで回ろうと思っています。AIが提案してくれました。

ホテルスタッフ:素敵なコースですね。

 

さて、ここからどんな対応を続けられるでしょうか?

 

お客様が急いでいる、コミュニケーションを望まれていないような場合は、

笑顔とともにお送りすればよいでしょう。

 

「今・ここ」の微調整と経験を共有する接客

 

一方、少しお話ができそうな場合は、

その地域にいるからこその情報を提案するとよいでしょう。

お客様が関心を示せば、そこに自身の経験を共有するのもよいと思います。

 

営業時間、人気メニュー、人気観光地などの情報は、ネット検索やAIで十分です。

こうした情報提供型の接客は、AIに代替されやすいでしょう。

 

一方、その日の天気、混雑、移動の疲れ、お客様の表情、同行者の年齢、

荷物の量、服装、時間的余裕などを含めた「今・ここ」の調整は、人間の強みを活かせます。

 

たとえば、

「素敵なコースですね。ただ、今日はこの時間帯だけ混みやすいので、

先にこちらへ行くと楽かもしれません」といった提案です。

 

お客様が選択したAI提案のコースを現場の情報と身体感覚で微調整する。

ここに人間接客の価値があります。

 

さらに、お客様に興味・関心表情が浮かぶようでしたら、

「私も以前、ここを訪れたのですが……」

と自身の経験を共有すると、心が通った接客になるでしょう。

 

自分の経験と感情を添える。

ここにも、人間接客の価値があります。

 

生成AIに代替できない感情労働

 

ただし、善意の提案でも何らかのトラブルが生じ、

クレームに発展することもあるかも知れません。

 

昨今、人件費や人間の感情労働のコストを下げることを目的として、

AIがお客様相談窓口でクレーム対応を担う場面も増えています。

しかし、その活用には注意が必要です。

 

AIが感情に寄り添おうとするほど、かえって反発を招く場合があるからです。

 

Han, Yin, and Zhang(2026)は、サービス失敗後のカスタマーサービス場面で、

チャットボットが顧客のネガティブ感情を認識し、それに共感的に応答した場合の反応を検討しています。

実験の結果、チャットボットの共感的応答(例:「お客様のお気持ち、お察しします」)は、

顧客を落ち着かせるどころか、心理的リアクタンス、つまり「自分の感情領域に踏み込まれた」

「コントロールを奪われた」と感じる反発を引き起こす場合があることが示されました。

 

 

身体を持たないAIに、

「お気持ち、お察しします」

と言われても、白々しく感じられてしまうでしょう。

 

AIは疲れません。痛みも感じません。イライラや喪失感を体験することもありません。

だからこそ、お客様の怒りや不満が強い場面では、AIによる共感表現が、

かえって「わかったように言わないでほしい」という反発につながることがあるのです。

 

特にクレーム場面では、お客様は単に答えが欲しいのではありません。

「自分の不快感を軽く扱われたくない」「責任の所在を曖昧にされたくない」

「形式的な謝罪で流されたくない」「人として扱われたい」

そう感じていると考えられます。

 

ですので、誠心誠意の謝罪は、身体を持つ人間が必要なのです。

人間は身体を持っています。だからこそ、心の痛みに共感できます。

だからこそ、謝罪を表情に示す、深く頭を下げる、声を落とす、

一歩引く、黙って待つ、といった身体的なふるまいを通じて、

言葉以上の誠意を伝えることができるのです。

 

クレーム対応で求められるのは、共感的な言葉を並べることだけではありません。

お客様の表情、声の強さ、沈黙、視線、姿勢、距離感を見ながら、

今は謝るべきか、説明すべきか、待つべきか、責任者につなぐべきかを判断することです。

 

AI時代の接客係は、AIより多くを知っている人ではありません。

お客様の状態を見て、情報・感情・場の空気を整えられる人です。

 

AIが答えを出す時代だからこそ、人間の接客には、

その答えを「今・ここ」のお客様に合う体験へと変える力が求められているのだと思います。

 

 

参考文献

株式会社宿研(2025)「生成AIで宿探し、旅行者『3人に1人(32.6%)』│2025年夏旅行の最新実態調査」2025年9月25日。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000042.000019164.html

JTB総合研究所(2025)「生成AIの利用と旅行についての調査・研究レポート」2025年8月19日。
https://www.tourism.jp/tourism-database/survey/2025/08/tourism-ai/

Han, E., Yin, D., & Zhang, H. (2026). Bots with empathy: Reactance against emotion-aware AI agents in customer service. MIS Quarterly. doi:10.25300/MISQ/2026/18683 

「AIに聞くからいいです」と言われないためのコミュニケーション論【教育・養護編】

 

宿題に取り組む子どもに、
「AI、使ってもいい?」
と聞かれたことはあるでしょうか。

 

全国の小学3年生から小学6年生とその保護者

1,032組を対象にしたベネッセコーポレーションの2025年調査では、

生成AIを利用している小学3〜6年生の約6割が、

「分からない時にまずAIに聞く」と回答しています。

生成AIは、子どもにとっても身近な相談相手になりつつあります。

 

保護者や先生に質問するのではなく、
「AIに聞くからいいや」「AIに聞くからいいです」
と思う子どもとどう接したらよいでしょうか?

 

具体的な場面から考えてみましょう。

 

夏休みの宿題として、読書感想文が出されました。

子ども:何を書けばいいかわからない。何も感想が出てこない。
親:本、ちゃんと読んだの?
子ども:ちゃんと読んだよ。
親:もう一度、読んでみなさい。
子ども:……。

 

この「……」のとき、子どもの唇に、僅かな力みが一瞬だけ浮かんだとします。

この子どもに、どんな言葉をかけるでしょうか。

 

このまま放置していたら、子どもは、
「AIに聞いちゃおう」「AIに書いてもらおう」
と思ってしまうかも知れません。

 

子どもの気持ちを受け止め、自身の体験を語る

 

生成AIは、答えを返すことはできます。

しかし、目の前の子どもの表情の変化に気づき、

その反応を受けて、こちらの言葉や態度を変えることはできません。

身体を持つ人間同士だからこそ、互いに反応し合いながら、

気持ちを受け止め、考える方向へ導くことができます。

 

唇の僅かな力みは、怒りや不満を示す微表情である可能性があります。

「ちゃんと読んだよ!」「読んだのに、わからないんだよ!」

そう声を大にして訴えたい気持ちが、表情に表れているものと推測します。

 

このとき大切なのは、まず子どもの言葉を疑うのではなく、気持ちを受け止めることです。

「疑うように聞こえたらごめんね。ちゃんと読んだのよね」
「読んだのに書けないのは、つらいよね」

このように、まずは子どもの立場に立って言葉を返します。

 

そのうえで、ご自身が子ども時代に読書感想文で苦労した経験や、

どうやって書いたかという工夫を伝えるとよいでしょう。

 

やり方のコツを少し教えるのも有効です。

たとえば、本のいくつかの場面を一緒に読み返しながら、

場面ごとに子どもがどんな気持ちになったかを尋ねます。

「この場面、どう思った?」
「悲しかった? 怒った? それとも、少し安心した?」
「どうしてそう思ったの?」

同じ場面を読んでも、抱く感情は子どもによって違います。

そして、なぜその感情を抱いたのかを一緒に深めていく。
この繰り返しによって、その子だけの感想文が少しずつ形になっていきます。

 

生成AIは子どもの自己肯定感を低下させるか?

 

もちろん、子どもが
「どうしてAIを使っちゃいけないの?」
と聞くこともあるでしょう。

 

適切な使い方を示せるなら、生成AIを使うこと自体は否定しなくてもよいと思います。

ただし、AIに丸投げしてしまうことの危険性は、きちんと説明する必要があります。

AIの回答には誤りが含まれることがあります。いわゆるハルシネーションの問題です。

しかし、私がより根源的に問題だと感じるのは、子どもの記憶や達成感、

自己肯定感に関わることです。

 

Gardellaら(2026)の研究では、AIを使うと作業は速く進む一方で、

学習内容が記憶に残りにくくなる可能性が示されています。

この研究は、大学生のプログラミング課題を対象にしたものです。

ですから、小学生の読書感想文にそのまま当てはめることはできません。

それでも、AIに答えを出してもらうことで、考える過程や

試行錯誤の経験が薄くなる可能性は十分に考えられます。

 

AIに宿題をさせてしまうと、自分の記憶に残らない。
「自分で考えて、書き上げた」という達成感が得られない。
自己肯定感を積み上げる機会を失ってしまう。

 

そんなことが起こり得るのではないでしょうか。

 

子どもが本当に言いたかったのは、
「ちゃんと読んだよ」「読んだのに、わからないんだよ」
ということ。

 

その気持ちを受け止めること。
大人自身の経験を通じて、困難さに共感すること。
同時に、「楽をしたい」「苦痛から逃れたい」という気持ちに安易に流されないこと。

 

AIを禁止するかどうかだけが問題なのではありません。

子どもがつまずいたとき、AIに向かう前に、人間である大人がどのように関わるか。

そこに、これからの教育・養護のコミュニケーションの大切な役割があると思います。

 

 

参考文献

ベネッセコーポレーション(2025)「ベネッセ『生成AIの利用に関する意識調査』小学生の『生成AI』認知率74.7%、2023年から約26ポイント上昇」2025年11月21日。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001417.000000120.html

Gardella, N., Prather, J., Leinonen, J., Denny, P., Pettit, R., & Riggs, S. L. (2026).    Fast and forgettable: A controlled study of novices’ performance, learning, workload, and emotion in AI-assisted and human pair programming paradigms [Preprint]. arXiv. https://doi.org/10.48550/arXiv.2604.18538

「AIに聞くからいいです」と言われないためのコミュニケーション論【リーダー編】

 

部下とのコミュニケーションに気を遣う上司の声をよく見聞きします。

生成AIとのコミュニケーションが当たり前になりつつある今日、

「AIに聞くからいいです」と思われたり、言われてしまったりすることも。

 

20代の若手社員595名を対象にした

レバレジーズ/ハタラクティブの2026年調査では、

キャリア相談の本音を話せる相手として、

「直属の上司よりも生成AIを信頼する」と26.5%が回答しています。

また、プロフェッショナルバンクの2024年調査では、

生成AI利用者346名のうち27%が、

業務上の相談相手として「上司・同僚よりも生成AIのほうが適している」と答えています。

 

では、生成AI時代の上司やリーダー、教育に携わる人は、どうすればよいのでしょうか。

 

「AIに聞くからいいです」ポイントはどこにある?

 

具体的な場面から考えてみましょう。

 

ある日の上司と部下の会話です。

部下:プレゼンが苦手なんですよね。

上司:この動画講座、知っていますか?

見やすいパワポ資料の作り方だけでなく、振る舞い方も教えてくれるので、おすすめですよ。

部下:う~ん……ありがとうございます。後で観てみます。

 

このとき、部下の「う~ん」という言葉と同時に、嫌悪の微表情が浮かんでいたとします。

 

あなたが上司なら、どう対応するでしょうか。

 

もし嫌悪の微表情に気づかず、「う~ん」という言葉だけを聞いていれば、

「部下は検討している」と受け取ってしまうかも知れません。

丁寧な上司ほど、さらに資料や情報を渡そうとするでしょう。

 

「AIに聞くからいいです」ポイント発動です。

 

部下の気持ちは嫌悪なのです。

アドバイスを受け入れられないのです。

ですので、まずは、嫌悪微表情に気づくことが重要です。

「他のアドバイスをする」という部下の気持ちに沿ったアプローチが適当です。

 

しかし!ここでも「AIに聞くからいいです」ポイントが発動しかねません。

 

相手の希望に沿って別のアドバイスを出すだけなら、生成AIにも出来るからです。

しかもAIは膨大な情報をもとに、本人が納得する答えが出るまで何度でも提案してくれます。

 

AIに聞けるのは「わからない」と自覚していることだけ

 

一方で、生成AIにも弱点があります。

ユーザーに肯定的に応答しすぎることで、本人の視点をそのまま強化してしまいます。

また、本人が「わからない」「できない」と自覚していることしか質問しないため、

アドバイスの範囲も限定されがちです。

 

ここに、人間の役割があります。

 

人間の上司は、日々の観察を通じて、

部下自身がまだ気づいていない癖、強み、課題に触れることができます。

たとえば、「資料作りよりも、話し始める前の不安が大きそうだね」

「内容は悪くないけれど、聞き手の反応を見る余裕がまだ少ないかも知れない」

といったアドバイスは、日々の観察があるからこそ可能です。

 

さらに、人間には身体を通じた経験があります。

 

「私もプレゼンが苦手で、上手くなるまで時間がかかった」

「人前で話すのは大変だけれど、少しずつ慣れていこう」

 

そうした言葉を、表情や声の調子を伴って伝えることで、

単なる情報提供ではなく、共感と励ましになります。

 

部下の無自覚を自覚に変えること。

自分自身の経験や身体感覚を背景に、相手の感情に触れながら成長を促すこと。

これは、生成AIには代替しにくい、人間のリーダーならではのコミュニケーションです。

 

「AIに聞くからいいです」と言われないために必要なのは、

AIより多くの情報を持つことではありません。

相手の言葉にならない感情に気づき、

本人がまだ気づいていない可能性に働きかけることです。

 

生成AI時代だからこそ、私たちは改めて、

人間にしかできないコミュニケーションを考え続ける必要があるのです。

 

参考文献

レバレジーズ株式会社(2026)「相談相手は“否定されないAI”へ、若手社員の約4人に1人が『上司より生成AI』を信頼」2026年3月24日。
https://leverages.jp/news/2026/0324/5851/ 

株式会社プロフェッショナルバンク(2024)「生成AIのビジネス活用状況に関するアンケート調査」2024年3月4日。
https://www.pro-bank.co.jp/news/20240304_4817/   

AI時代に求められる「観察・共感・伝達」とはーいま、対人コミュニケーションに起きている変化

 

「AIに聞くから、大丈夫です」

「人間に相談するより、生成AIに聞いた方が心地よいな」

「私の気持ちに向かって対応してくれていないな」

 

――そんなふうに言われたり、ご自身で思ったりしたことはないでしょうか。

 

生成AIは、私たちの仕事や学びを大きく変えました。

 

質問すれば、すぐに答えてくれる。

ぶっきらぼうに聞いても、丁寧に返してくれる。

悩みを打ち明ければ、温かく、共感的に応答してくれる。

 

人間よりも話しやすい、と感じることもあるでしょう。

 

しかし、その便利さに慣れすぎると、人間同士のコミュニケーションにおいて、

知らず知らずのうちに変化が起きるかも知れません。

 

相手の返答を待てない。

相手の立場や状況を考えない。

相手の反応を見ない。

 

そんな一方通行のコミュニケーションに陥ってしまう可能性です。

 

AIにはない、人間同士の「やり取り」

 

人間同士のコミュニケーションは、言葉だけで成り立っているわけではありません。

視線、表情のわずかな変化、姿勢、声の調子、沈黙の長さ。

私たちは、こうした非言語の手がかりから、

言葉の重みや、言葉とは少し異なる本音を受けとっています。

そして、相手の反応を見ながら、内容や言い方を少しずつ調整しています。

 

ときには、意見の違いや葛藤に向き合う必要もあります。

相手の気持ちを受けとめつつ、自分の考えも伝える必要があります。

互いの希望や不安をすり合わせる必要があります。

 

こうした相互的なやり取りがあって、人との信頼関係は築かれていきます。

 

過剰な肯定をするAI(※1)や

共感的な対応と正確性がトレードオフになり得るAI現象(※2)から、

AIとのコミュニケーションからは、人間とのそれにあるような

互いの気持ちや要望を綱引きするようなやり取りは生まれ得ません。

 

身体のないAIと、身体のある人間の違い

 

もう一つ、大きな違いがあります。

AIには身体がありません。

 

人間には、感情を抱き、疲れや痛みを感じる身体があります。

時間を割く。

何度も足を運ぶ。

相手のために予定を調整する。

忙しい中で、言葉を選んで返事をする。

 

こうした行動には、身体を持つ人間同士だからこその重みがあります。

 

たとえば、サービス上のトラブルで何度も手続きをやり直さなくてはいけない。

そんな場面を想像してみてください。このとき、AIに「お気持ちはよくわかります」と言われても、

かえってイライラが高まってしまいます(※3)。

 

なぜでしょうか。

 

それは、「あなたには、この大変さはわからないでしょう」と感じるからではないでしょうか。

疲れた身体、失われた時間、何度も説明し直す負担。

そうした現実を持たない相手から共感の言葉を受けると、

共感されているというより、定型的に処理されているように感じてしまうことがあります。

 

また、AIとの会話が一時的な孤独や不安を和らげることが知られています(※4)。

この価値を否定しません。しかし、人間からのメッセージには、AIとは異なる重みがあります。

 

相手が時間を使ってくれた。

自分のために考えてくれた。

疲れているかも知れない中で、応答してくれた。

 

そこには、身体を持つ人間同士だからこそ感じられる意味があります。

 

AI時代だからこそ、人間らしいコミュニケーションを学ぶ

 

AIとのコミュニケーションが当たり前になる時代だからこそ、

私たちは改めて、人間同士のコミュニケーションの価値を見直す必要があります。

 

「ちゃんと見てくれている」

「わかろうとしてくれている」

「自分に向かって言葉を届けてくれている」

 

そう感じられるコミュニケーションの価値は、これからますます高まっていくでしょう。

 

AI時代に必要なのは、AIと競うことではなく、

本質的にAIにはでき得ない、

人間同士の観察・共感・伝達を、より意識的に磨くことだと私は考えます。

 

関連講座のお知らせ

2026年7月18日(土)より、

「【2026年度版】表情・しぐさ分析12時間速習コース

―生成AIに代替されない観察・共感・伝達の技術―」を開講します。

 

本コースでは、表情・しぐさ・姿勢・視線などの非言語サインを手がかりに、

相手の反応を観察し、感情に気づき、よりよい伝え方へつなげるための実践的な視点を学びます。

AI時代にこそ必要な、人間同士のコミュニケーション力を磨きたい方は、ぜひ共に学びましょう。

 

詳細は次の画像をクリックし、ご覧ください。

 

※1 Cheng, M., Lee, C., Khadpe, P., Yu, S., Han, D., & Jurafsky, D. (2026). Sycophantic AI decreases prosocial intentions and promotes dependence. Science (New York, N.Y.)391(6792), eaec8352. https://doi.org/10.1126/science.aec8352

※2 Ibrahim, L., Hafner, F. S., & Rocher, L. (2026). Training language models to be warm can reduce accuracy and increase sycophancy. Nature652(8112), 1159–1165. https://doi.org/10.1038/s41586-026-10410-0 

※3 Han, E., Yin, D., & Zhang, H. (2026).Bots with Empathy: Reactance Against Emotion-Aware AI Agents in Customer Service. MIS Quarterly 2026; https://doi.org/10.25300/MISQ/2026/18683

※4 Ruo-Ning Li, Dunigan Folk, Abhay Singh, Lyle Ungar, Elizabeth Dunn, Is a random human peer better than a highly supportive chatbot in reducing loneliness over time?, Journal of Experimental Social Psychology, Volume 125, 2026, 104911, ISSN 0022-1031, https://doi.org/10.1016/j.jesp.2026.104911. (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022103126000417)

反対意見を見えなくしたくなるとき――書店での一場面から考えた、AI時代の「自分が正しい」感覚


ある日、書店で新刊を眺めていると、

書店には少し似つかわしくない、不穏な声が聞こえてきました。

 

60代くらいの女性(以下、女性):なんでこの本が平積みなのか知りたいの。
書店員:新刊で売れそうな書籍は、このように並べております。
女性:高市政権の怖さをみんな知らないから、置けるのよ。
書店員:政権を応援する書籍も批判する書籍も、
関連書籍として同じ所にまとめて並べておりますので、政治的な意図はございません。
女性:私が見た本屋で、こんな平積みで売っていたところは、

ここと○○書店しかなかった。ジュンク堂では平積みじゃなかったわ。

 

こんなやりとりを耳にしました。

 

声を荒げているわけではありませんでした。怒鳴っているわけでもありません。
けれども、怒りを抑えながら、冷たく抗議しているようでした。

 

私が覚えた静かな恐怖

 

その女性が何を背景にそうした発言をしたのかはわかりません。
政治的な問題意識を持つこと自体は自由です。高市政権を批判することも、
政権を応援する本に違和感を持つことも、当然、自由です。

 

しかし、ある言説を
「目立たないようにしてほしい」「人目に触れにくくしてほしい」と
働きかけることには、慎重であるべきです。

 

これは、高市政権を支持するか否かの話ではありません。
どの政権であれ、賛成本も批判本も、
同じ空間に存在できることが、民主社会の前提だと思うのです。

 

表現の自由という言葉が浮かびます。

 

近年、政治家の講演を阻止しようとする脅迫事案が起こりました。
過激な言動をとる政治家が襲撃された事件もありました。

 

自分とは正反対の意見であっても、その表明の自由は尊重する。
嫌いな意見であっても、それが書店に並ぶ自由は認める。
その上で、批判したければ、批判する。

 

この順番が崩れると、自由な討論の土台そのものが崩れ去ってしまいます。

 

自分の経験を「社会の真実」にしてしまうとき

 

書店で出会った女性の発言のなかで、もう一つ気になったことがあります。

 

「ここと○○書店しかなかった。ジュンク堂では平積みじゃなかったわ」

 

という言葉です。

 

もちろん、自分の足で見て回ること自体は大切です。

現場を見ることには意味があります。

しかし、自分が見た範囲だけで社会全体の傾向を判断してしまうと、

世界の見え方は簡単に歪みます。自分の経験は大切ですが、

自分の経験が世界の代表であるとは限りません。

 

これは、政治の問題に限りません。

 

フェイク情報が人々の行動を左右する現代において、
私たちはしばしば「自分が見たもの」「自分の周囲で共有されているもの」を、
社会全体の真実のように感じてしまいます。

 

SNSで拡散されたフェイク情報に影響されるのは、

若者に限定されると思われるかも知れません。しかし、
山口真一氏は『嘘で満ちていく社会 データで読み解くフェイク時代の構造』

のなかで、年代を問わず、フェイク情報を真実だと誤解してしまう現状を

指摘しています。

 

「自分はわかっている」
「相手はわかっていない」

 

この感覚は、とても強い力を持ちます。

 

そして、ここにAIの問題が重なります。

 

AI時代における「自分は正しい」感覚との付き合い方

 

最新の11種類のAIモデルを調べたMyra Chengら(2026)の研究によれば、
AIは人間よりも平均で約50%多くユーザーの行動や判断を肯定する傾向がありました。
しかもその傾向は、操作的、欺瞞的、あるいは対人関係に害を及ぼしうる相談内容でも
見られたと報告されています。

 

さらに、事前登録済みの実験では、肯定的・同調的なAIに接した参加者は、
「自分が正しい」という確信を強める一方で、謝罪や関係修復に向けた

行動意欲が低下しました。それにもかかわらず、参加者はそのようなAIの応答を

「質が高い」「信頼できる」と評価し、再利用したいとも感じていました。

 

ここに、AI時代の危うさがあります。

 

人間同士の会話では、相手は必ずしも自分に同調してくれません。
反論されたり、表情や声の変化から違和感を抱いたりするなかで、

私たちは自分の考えを見直します。

 

しかし、AIはユーザーに心地よく応答する傾向があります。
それは便利ですが、「自分は正しい」という感覚を強めてしまう危険もあります。

 

書店で見た女性がAIに影響されていたと言いたいわけではありません。
ただ、その一場面は、現代の私たちが抱える問題を象徴しているように

感じられました。

 

自分と異なる意見に出会ったとき、私たちは批判や反論をすることはできます。
しかし、その意見を見えない場所へ追いやろうとすると、対話は失われます。

 

誰にも思想や信念はあります。しかし、それに修正の余地がないと思い込んだとき、
反対意見は検討すべき対象ではなく、排除すべきものに見えてしまいます。

 

AIをはじめとするコミュニケーション技術が発達する時代だからこそ、
自分の正しさを確信するだけでなく、不快な異論と向き合う力が
ますます重要になっているのではないでしょうか。

 

 

参考文献
山口真一(2026)『嘘で満ちていく社会――データで読み解くフェイク時代の構造』朝日新聞出版
Cheng, M., Lee, C., Khadpe, P., Yu, S., Han, D., & Jurafsky, D. (2026). Sycophantic AI decreases prosocial intentions and promotes dependence. Science, 391(6792), eaec8352. https://doi.org/10.1126/science.aec8352

表情分析に関わる資格には何があるか?―目的別に見る学び方の選択肢


 表情分析や微表情検知を学びたい方から、「表情分析の資格はありますか?」「どの資格を取ればよいですか?」と質問を受けることがあります。表情分析に関わる資格やトレーニングはいくつかありますが、それぞれ目的や内容が異なります。ここでは、表情や微表情の検知・分析に関心のある方に向けて、代表的な学習ルートを紹介します。

 

顔面筋の動きを精緻に分析したい

 

 まず、表情を最も客観的・専門的に分析したい方には、FACS(ファクス)の学習が有力な選択肢です。FACSとは、Facial Action Coding Systemの略で、日本語では顔面動作符号化システムなどと訳されます。表情を「怒り」「悲しみ」「喜び」といった感情名で見るのではなく、眉、まぶた、鼻、口などの筋肉の動きを、アクションユニット(略:AU)として記録する方法です。研究、映像分析、感情認識AIの評価、演技やアニメーションの表情設計など、顔の動きを精密に分析したい方に向いています。FACS認定は、表情を筋肉運動として客観的に観察・符号化する技能を示すものと考えるとよいでしょう。試験に合格すると、認定FACSコーダを名乗れるようになります(たとえば、学術論文等に分析者として記載されるとき、記名がA Trained FACS CoderーFACSを学んだ者ーなのか、A Certified FACS CoderーFACSを学び認定試験に受かった者ーなのかは、分析の信頼度や妥当性において大きく異なる評価を受けます)。

 

FACSを学びたい方は、是非、弊社のコースをご検討ください(6月13日開講、アーカイブあり)。

https://peatix.com/event/5008052/view

 

微表情をリアルタイムで検知するスキルを獲得したい

 

 次に、微表情や感情表出の読み取りを学びたい方には、ポール・エクマン博士に関連するトレーニングがあります。エクマン博士は、基本感情や微表情研究で知られる心理学者です。エクマン系のトレーニングでは、短時間で現れる表情変化を見分ける力や、感情と表情の関係を学ぶことができます。微表情検知を中心に学びたい方、表情から感情の手がかりを読み取る訓練をしたい方に適しています。トレーニング後のポストテストで一定のレベル(トレーニングの種類によります)をクリアすると、認定証が発行されます。

 

エクマンの微表情検知トレーニングについては、こちらを参照ください。

www.paulekman.com

 

 Humintellのトレーニングも、表情分析や微表情検知を学ぶ選択肢の一つです。Humintellは、感情表出、微表情、表情認識に関する教材やオンライン・トレーニングを提供しています。各種講義や実際の表情映像を用いた練習などもあり、微細な表情変化を識別する力を高められる点が特徴です(なお、Humitellの教材は、エクマン博士の弟子にあたるDavid Mastumoto博士が中心となり開発された最新のトレーニングです)。エクマンのトレーニング同様、英語教材に抵抗がなく、海外のトレーニングで表情・微表情検知を学びたい方に向いています。こちらもトレーニング後のポストテストで一定のレベル(トレーニングの種類によります)をクリアすると、認定証が発行されます。

 

Humintellの微表情検知トレーニングについては、こちらを参照ください。

www.humintell.com

 

弊社では、一部日本語で出来るHumintell社製のトレーニングを扱っています(現在、受注販売のみの提供)。

microexpressions.jp

 

文脈の中にある微表情を読み、アプローチ法まで考えたい

 

 日本語で、表情分析や微表情検知を実務に活かしたい方には、私、監修の交渉協会提供、表情分析プラクティショナー資格も選択肢になります。表情や微表情を観察し、相手の感情変化を読み取るための実践的なトレーニングとして位置づけられます。FACSのように顔面動作を細かく符号化するというより、表情変化を検知し、営業・商談、接客、採用、組織マネジメント等の対人場面で活用することを目的とする方に向いています。講義受講後、認定テストを受験し、100点満点中80点で資格が発行されます(なお、弊社主催4月or9月開講の「表情・しぐさ分析総合コース」とPPA Academy提供「清水建二の微表情学」も同様の学習目的で開催・開講しておりますが、資格は発行しておりません)。

 

交渉協会提供の「表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」については、こちらを参照ください。

nego-analyst.jp

 

講師の専門性を見定め、安易なスキル・目的獲得を煽る資格・講座に注意する

 

 まとめますと、精緻に顔面筋の動きを分析し、心理分析等の土台にしたいなら「FACS」、微表情を素早く検知するスキルを獲得したいなら「エクマン or Humitell社の微表情検知トレーニング」、表情・微表情変化を実務場面で活用する力を養いたいなら「表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」ということになります。

 

 もちろん、ここで紹介したもの以外にも、表情分析や微表情検知に関する資格・講座はあります。結論を言えば、表情分析の世界には、国家資格のように法律で定められた資格は存在しません。一方、FACSが代表的ですが、専門的な訓練を受けたことを示す民間資格や修了証、国際的に知られた認定制度は存在します。大切なのは、「資格があるかないか」だけで判断するのではなく、その資格が何を測り、どの程度の技能を保証しているのかを見極めることです。資格は勲章ではないのです。

 

 表情分析の資格やトレーニングは、相手の心を決めつけるためのものではなく、表情という手がかりをより正確に観察するための学びです。目的に合った学習ルートを選ぶことで、表情・微表情を読み取る力は、より確かな技能として身についていきます。

 

 最後に注意点を挙げるならば、「表情だけですべての本音がわかる」「嘘を確実に見抜ける」「売り上げが急増する」「悩みが即解決する」といった過度な宣伝には注意が必要です。資格名の印象だけで判断せず、何を学べるのか、実際の表情映像を使った訓練があるのか、講師の専門性は十分か、科学的知見に基づいているか、実務経験は伴っているか等を確認することが大切です。

 

弊社コース・研修に関するご相談は、下記メールアドレスまで遠慮なくお問い合わせ下さい。
弊社メールアドレス:info▲microexpressions.jp(▲を@に変えて下さい)

 

清水