TBS日曜劇場『VIVANT』第17話(2026年9月6日放送)に、
ジャミーンが人物の写真から「善悪」を区別するシーンが描かれています。
彼女は、人間の「善悪」を感覚的に見抜けるサヴァン症候群という設定です。
ジャミーン役の本間さえさんが「悪人」を見たとき、
その程度に応じて嫌悪の表情を浮かべる演技がなかなか素敵です。
ちなみに、このシーン、私は監修しておりませんが。
それはさておき、人の「善悪」は顔や表情からわかるのか。
こんな研究を思い出しました。
微表情から悪意を検知する
模擬犯罪を実行する前の実験参加者の微表情から
悪意を読み取れるか否か検証したMatsumoto & Hwang(2018)の実験です。
実験の結果、犯罪を企図して(実行前)嘘をつく参加者では、
真実を話す参加者より0.4~0.5秒以下のネガティブ表情が多く見られ、
こうした表情の有無から、0.4秒以下では63.2%、
0.5秒以下では68.4%の割合で両者を正しく分類でき、
1秒以下の表情まで含めると正分類率は77.6%まで上昇することがわかっています。
しかし、ジャミーンが見ていたのは、
一瞬の表情変化ではありません。
「真顔の写真」です。
AIが分類した犯罪歴のある顔とない顔
真顔から犯罪者か否かを区別しようとした
研究として思い出されるのが、Wu & Zhang(2016)の研究です。
研究者らは、中国人男性1,856名の顔写真をAIに学習させ、
犯罪歴のある人物とない人物を分類させました。
CNNと呼ばれる手法を用い、およそ9割という高い分類成績が報告されています。
興味深いのが、両群の顔の「ばらつき」です。
研究者らは、犯罪者群の顔は非犯罪者群よりも個人間のばらつきが大きく、
非犯罪者群の方が互いに似た顔貌をしていると報告しました。
この結果を見ると、いくつもの仮説が頭に浮かびます。
犯罪や、それに至るまでの生活経験、ストレスなどが
長い年月をかけて顔貌に何らかの影響を与えたのでしょうか。
反対に、平均的な顔貌から離れた特徴を持つ人が、
周囲から異なる扱いを受けたり、生きづらさを経験したりすることで、
その後の人生経路に影響が生じる可能性はあるのでしょうか。
あるいは、もっと単純に、犯罪者群と非犯罪者群の選ばれ方や社会経済的背景、
写真の条件など、顔とは別の要因がこの違いを生み出しただけなのかもしれません。
もちろん、Wu & Zhangの研究だけから、この問いに答えることはできません。
彼ら自身も、その後の批判に対する回答の中で、この研究は相関から因果関係を
論じたものではないこと、また社会経済的地位を統制できていなかったことを認めています。
人間が顔から読み取れること
人間が顔から「信頼できそうか」を判断する研究を見ても、話はそう単純ではありません。
Ruleら(2013)は、企業犯罪者と一般企業の幹部、
軍犯罪者と軍の英雄の顔を比較しましたが、
「信頼できそう」という評価に明確な差は見いだせませんでした。
さらにFooら(2022)のメタ分析では、
顔から判断した「信頼できそう」という印象と、
その人物の実際の信頼性との間には、
統計的には有意ながらも小さな関連しかないことが示されています。
つまり、私たちは顔を見れば、「この人は善人そう」「何となく怖そう」と感じます。
しかし、そう感じることと、本当にその人が善人・悪人であることは別問題のようです。
悪人だから「悪人顔」になるのか。
「悪人顔」に見えることで、その人の人生が変わるのか。
それとも「悪人顔」というものは存在せず、
見る側である私たちの判断が作り出しているだけなのか。
ジャミーンは一枚の写真から「善悪」を見抜きます。
現実の私たちは、ジャミーンほど簡単にはいきません。
だからこそ、顔や表情を「答え」として見るのではなく、
その人についてもう少し知るための「手がかり」として見る。
『VIVANT』のジャミーンを見ながら、そんなことを考えていました。
追伸:
17話では、ディープフェイク技術を用いた人物偽装も描かれていましたね。
表情研究・実務者として興味深い描写が満載でした。
参考文献:
Matsumoto, D., & Hwang, H. C. (2018). Microexpressions differentiate truths from lies about future malicious intent. Frontiers in Psychology, 9, 2545. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.02545
Wu, X., & Zhang, X. (2016). Automated inference on criminality using face images. arXiv:1611.04135.
Rule, N. O., Krendl, A. C., Ivcevic, Z., & Ambady, N. (2013). Accuracy and consensus in judgments of trustworthiness from faces: Behavioral and neural correlates. Journal of Personality and Social Psychology, 104(3), 409–426. https://doi.org/10.1037/a0031050
Foo, Y. Z., Sutherland, C. A. M., Burton, N. S., Nakagawa, S., & Rhodes, G. (2022). Accuracy in facial trustworthiness impressions: Kernel of truth or modern physiognomy? A meta-analysis. Personality and Social Psychology Bulletin, 48(11), 1580–1596. https://doi.org/10.1177/01461672211048110