ウソ検知をするには、言語・非言語サインの観察及び情報収集アプローチ、ラポート形成、戦略的証拠提示法などあらゆる戦略を駆使する必要があります。表情の観察ポイントだけ挙げたとしても、ウソに関連する表情や認知的負担や感情抑制を示す表情、微表情などがあり、観察すべきことは多岐にわたります。
ウソ検知の専門家・実務家は、あらゆる観察ポイントを注視し、戦略的に質問を重ねていきます。そのためウソを見抜くスキルの習得は一朝一夕にはいかず、そのスキルを取得したとしてもウソ検知の現場では高度な集中力が常に求められます。そうであるからこそウソ検知のスキルがあやふやなまま色々なウソを見抜くテクニックを乱用することはウソを見抜けないばかりか、冤罪や誤解を引き起こしかねないのです。
そうあやふやなまま色々なテクニックを乱用してしまうと…。
前置きが長くなりました。
ウソを見抜く専門家でない人々にとっては、色々観察するより観察ポイントを絞る方がウソ検知の精度が高まるという研究があるのです。
実験参加者の女性の半数に、ある女性が他人のバックを見ているシーンが記録されているビデオを観てもらいます。残りの半数の女性には、ある女性が他人のバックを見た後、そのバックの中から何かを盗み出しているシーンが記録されているビデオを観てもらいます。
そのビデオを観た実験参加者の女性全員が、ビデオの内容について尋問を受けます。尋問を受ける際、女性全員が「女性はバックから何も盗んでいない」と目撃証言するように実験の設定がなされています。つまり半分の女性は真実を話し、半分がウソをついていることになります。
また尋問を受ける女性の服装は3つに分類され、二カーブ(目だけしか見えないスカーフ)を身に着けるか、ヒジャブ(顔は見え頭が隠れたスカーフ)を身に着けるか、顔と頭部に何も身に着けていない状態で尋問を受けてもらいます。なお女性の胴体は同じ布で覆われています。
尋問では様々なオープン質問がなされます。
この尋問の様子がビデオに記録され、そのビデオから実験参加者の目撃証言のどれが真実かウソかを、ウソ検知の訓練を受けていない素人の判定者たちに判断してもらう実験がなされました。
実験の結果、顔と頭部に何も身に着けていない女性によってなされた目撃証言と比べて、ニカーブやヒジャブを身に着けている女性によってなされた目撃証言の方からの方が、ウソを正確に見抜けるということがわかりました。
前フリにつなげますと、つまりはウソ検知の専門知やスキルがない・あやふやな状態ならば、色々なところを観察するより、一点、本実験の場合、おそらくは目や顔に注目した方が、ウソ検知の精度は上がるだろうということなのです。
清水建二
参考文献
Leach AM, Ammar N, England DN, Remigio LM, Kleinberg B, & Verschuere BJ (2016). Less is more? Detecting lies in veiled witnesses. Law and Human Behavior, 40 (4), 401-10 PMID: 27348716