微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

埋め込まれた情動の記憶

 

感情経験は進化生物学的な基盤を持ち、感情経験に伴って表出される表情筋の動きは、先天的なものであるとされています。

 

本日はこのことを示してくれる興味深い実験(Dimbergら,2002)をご紹介したいと思います。

 

実験参加者らに、笑顔もしくは怒り表情の写真を見せます。笑顔写真を見たら眉を下げ、怒り写真を見たら両方の口角を上げてもらうように指示します。眉が下がるのは怒りのときです。両方の口角が上がるのは笑顔のときです。つまり実験参加者らに自らが見ている表情写真とは異なった表情、笑顔写真に対しては怒り表情、怒り写真に対しては幸福表情、をしてもらいます。

 

実験の結果、笑顔写真を見せられた実験参加者らは、眉を下げる動きだけでなく、両方の口角が上がる筋肉の動きも示し、一方で、怒り写真を見せられた実験参加者らは、両方の口角を上げるだけでなく、眉が下がる筋肉の動きも示しました。

 

この実験結果を踏まえ、次に行われた実験では、実験参加者らに笑顔写真を見た場合、両口角を上げないように意識してもらい、怒り写真を見た場合、眉が下がらないように意識してもらいました。

 

しかし、それでもなお、笑顔写真を見た実験参加者の両口角の筋肉は反応し、怒り写真を見た実験参加者の眉が下がる筋肉は反応していることがわかりました。

 

この一連の実験を、笑顔写真を花の写真に、怒り写真をヘビの写真に変えて、行ってみても同様の結果が見出されました。

 

私たちの表情の動きは感情に即応した形で自動的にかつ無意識に動いてしまう、ということが言えます。

 

こうしたメカニズムは微表情の表出にも関連してくるのですね。

 

埋め込まれた情動の記憶に従うのか、あらがうのか、はたまたどう活かすべきなのか、興味は尽きません。

 

 

清水建二

参考文献

Ulf Dimberg, Monika Thunberg & Sara Grunedal. (2002). Facial reactions to emotional stimuli: Automatically controlled emotional responses. Cognition and Emotion Volume 16, Issue 4, 449-471.