ドゥシェンヌ・スマイルという言葉を表情の勉強をされている方なら聞いたことがあると思います。平たく言えば、目が笑っている笑顔のことです。厳密に言えば、口角が引き上げられ(AU12)、かつ頬が引き上げられる(AU6)、場合によってはまぶたに力が入れられる(AU7)動きを伴った表情のことです。表情の見た目から説明すれば、口角が引き上げられ、目じりにしわが生じる笑顔ということになります。この目じりのしわのことを、カラスの足あとと呼んだり、この動きを発見したフランスの学者の名にちなんで、ドシェンヌ・マーカーなんて呼んだりします。
ダーウィンは、このドシェンヌ・マーカーを幸福感情と悲しみ感情の強さの表れだと仮定しており、この仮定は、幸福感情についてはその後(と言っても現代の)研究によって支持されています。しかし、悲しみ感情においては確かめられていませんでした。
そこでMattsonらは、親と遊んでいる赤ちゃんの幸福表情と親が突然真顔で反応したときの赤ちゃんの悲しみ表情を分析することで、ダーウィンの仮説を検証しました。結果、強い幸福及び悲しみ感情にはドゥシェンヌ・マーカー、つまり目じりにしわが生じることがわかりました。
赤ちゃんは、目じりにしわをよせ、わかりやすい表情をすることで周りの人々とコミュニケーションをとっていると考えられるのです。
関連した表情としては、痛み顔ですね。私たちが痛みを感じるとき、その刺激が強いと、目じりにしわが生じます。ということでドゥシェンヌ・マーカーは全ての感情や感覚の強さの表れだと言いたいところです。
しかし、そう簡単には抽象化出来ず、例えば、強い恐怖表情や怒り表情では、目が開かれます。恐怖では安全の確認、怒りでは破壊対象の確認のためです。したがって、強い恐怖・怒り感情の強さを示すマーカーは、目じりのしわでなく、「目が見開かれる」なのです。
表情ってホント複雑な現象ですが、一つ一つひも解いていくと発達心理学的な意味があったり、進化心理学的な意味があったりと、追及し甲斐のある分野だな、と日々勉強しながら感じています。
清水建二
参考文献
Mattson, W. I., Cohn, J. F., Mahoor, M. H., Gangi, D. N., & Messinger, D. S. (2013). Darwin’s Duchenne: Eye constriction during infant joy and distress. PLoS ONE, 8(11). doi: 10.1371/journal.pone.0080161.