微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

伝染する恐怖

 

目の前にいる人の目線がみなさんの背後に向けられ、その人の顔には「恐怖」の表情が浮かんでいるとします。みなさんなら、どうしますか?

 

Aパッと、後ろを振り向く

B一目散に逃げる

 

表情にある様々な機能の中に「他者に重要なシグナルを与える」という機能があります。例えば、「怒り」ならば「あなたに攻撃する意思がありますよ。」という意味です。「幸福」ならば「あなたと仲間ですよ。」という意味、「悲しみ」ならば「助けて下さい。」という意味です。

 

「恐怖」表情はどうでしょうか?

 

これまでの様々な研究から、他者の「恐怖」表情は「人の警戒レベルを高める」機能があるとされています。どのように、なぜ、「恐怖」表情は人の警戒レベルを高めるのでしょうか?

 

田村ら(2007)は実験で、以下の知見を見出しています。

 

①他者の「恐怖」表情を見ると、人はその人とは別の人の「恐怖」表情に注意が向く。

②他者の「恐怖」表情を見ると、人は「恐怖」を引き起こしている対象から視線を回避させる。

 

という傾向が見出されました。

 

①の理由は何でしょうか?他人の「恐怖」表情を見た人は、周囲にいる人の表情に注意を向け、情報を収集し、警戒レベルを見積もっている可能性があります。皆が「恐怖」する出来事なのか、その人だけの現象なのか、逃げるべきか、様子を見てから行動に移した方が良いのか、他者から発せられる感情シグナルから警戒レベルを見積もり、同時に情報を収集しているのではないかと考えられます。

 

②の理由はどうでしょうか?田村ら(2007)の推論によると、他者が「恐怖」を示し、かつ、例えば、ヘビのような明らかな危険が目前に迫っている場合は、もはや警戒ではなく逃走に重点を移した方がよいためだと言います。

 

②の理由で思ったことですが、冒頭の問題、目の前の人の「恐怖」表情の強さの程度によって行動が変わる可能性があると思いませんか?目の前の人が凄い形相で「恐怖」表情をしていたら、一目散に逃げる、という選択をすると思います。軽い「恐怖」表情だったら、後ろを振り向くと思います。私だったら、きっとそうします。

 

他者が与える感情シグナル、私たちは知らず知らずのうちに影響を受けているのかも知れませんね。

 

 

清水建二

参考文献

田村亮・亀田達也 (2007). 「恐怖感情は伝染するか?:選択的注意配分行動による検討」感情心理学研究, 14, 64-70.