科学の世界で生み出される知見は、科学者の個人的な着想や社会的な必要性からスタートし、仮の説が生み出され、その確からしさが実験によって検証されます。同じ現象を説明するにも様々な説が生み出されたり、実験が繰り返される中で、ある説が覆されたり、ある説は生き残ったりと、行きつ戻りつを繰り返し、進歩していきます。様々な批判や繰り返しの検証実験に耐えてきた説だけが、現時点である現象を最もよく説明する有力な理論・知見・考え方となります。
本日のブログでは、感情研究に携わる科学者たちによって現時点(2016年)で広く同意されている感情にまつわる知見を紹介したいと思います。
2016年の時点で統計的手法を用いて感情を研究し、専門誌に論文などを投稿している現役の研究者は、およそ250人いるとされています。この250人の研究者を対象にしたアンケート調査によって3つのことが広く同意を得ていることがわかっています。
①表情もしくは声は、万国共通なシグナルである。
➡怒り、恐怖、嫌悪、悲しみ、幸福という感情は万国共通のシグナルとして発せられると考えられています。その他多くの感情―恥、驚き、羞恥心などなど―も万国共通のシグナルがある、と考えている研究者も少なからずいます。
②特定の気分は特定の感情と関連している。
➡感情が瞬間的な現象である一方で、気分は数時間や数日続く現象です。ある感情がある気分に変わったり、ある気分がある感情を生み出す状態があることを多くの研究者が認めています。朝、引き起こされた「怒り」という感情が収まらずに、一日中なんか「イライラ」した気分で過ごしてしまった、なんて経験ございませんでしょうか?
③特定の感情と特定の性格、特定の性格と特定の精神病理とは関連している。
➡例えば、恐怖という感情と内向的という性格、嫌悪という感情と拒食症とが関係していることがわかっています。感情が性格予測につながる、現時点での病気を推定できる、なんて研究も散見されます。
①の万国共通のシグナルがより多く「見える化」出来れば、より多彩な感情が明確にわかるようになり応用範囲が広がると考えています。また②と③を合わせて考えると、感情―気分―性格―精神病理の関係性が見えてきます。特定の感情表現が多い人は、○○の確率で将来○○な病気になりやすい、なんて診断が可能になれば、食生活以外の変数でも病気の確率がわかるようになるので、凄いな、と感じています。
科学の世界は日進月歩です。これからも本ブログや様々な場を通じて、最新の感情科学の情報を皆様に提供させて頂き、センス・オブ・ワンダーを感じて頂ければ、嬉しいなと考えています。
清水建二
参考文献
Ekman, P. (2016). What Scientists Who Study Emotion Agree About. Perspectives on Psychological Science, 11(1), 31-34.