私たちは表情をどのように読みとっているのでしょうか?表情を上手に正確に読みとれる人と読みとれない人との差は何でしょうか?
結論から言いますと、目の前にいる人の表情に無意識に同調することで、目の前の人の表情筋と同じように自分の表情筋が動き、そのシグナルが脳に届き他者の表情を認識する、と考えられています(ただ、他者の表情に同調すると言っても、必ずしも自分の表情筋が他者と同じように明確に動くとは限りません)。
このことが次の実験から検証されています。
特定の表情筋の動きが抑制される施術が施された人々と特定の表情筋の動きが促進される施術がされた人々が用意されました。前者の人々は、他者の表情を見ても自己の表情筋が同調しないことが確かめられています。後者の人々は、他者の表情を見ると自己の表情筋が同調することが確かめられています。
この二つの集団に表情検知テストを受けてもらいます。
その結果、表情筋の動きが抑制された人々に比べ、表情筋の動きが促進された人々の方が表情検知の成績が良かったことが確認されました。
この研究から学べる単純なこととして、他者の感情を理解したいならば、その人の表情をマネしよう、ということですね。そうするためにも日頃から、表情筋を柔らかくしておきましょう。
ところで…。
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実は、この実験で登場した表情筋の動きが抑制される施術とは、ボトックスのことです。美容整形のために使われる薬品で、ボトックスを顔の特定の場所に注射することで、気になるしわなどを消すことができるのです。しかしそれに伴い、表情筋の動きも抑制されてしまいます。
ボトックスによって綺麗になります。綺麗だということは、人に良い印象を与えます。しかし、ボトックスを打つ場所によっては、私たちから他者の表情を認識するためのスキルを奪ってしまうかも知れないのです。
他者に良い印象を与えたいという想いと他者の気持ちを理解したい、どうやらボトックスを使ってしまうとそのバランスを取ることが難しいそうです。
とはいえ、良い印象は、顔そのものの見た目だけでなく、表情の豊かさを通じても他者に伝えることができますので、表情筋を日頃から使うことを意識し、表情を豊かにすることが、良い印象形成にも他者の表情検知にも貢献する一番の近道なのかも知れませんね。
清水建二
参考文献
Neal D. T., Chartrand T. L. (2011). Embodied emotion perception: amplifying and dampening facial feedback modulates emotion perception accuracy. Soc. Psychol. Personal. Sci. 2, 673–678