眉が中央に引き寄せられる、上まぶたが引き上げられる、下まぶたに力が入れられる、唇が上下からプレスされる。
これらの表情筋が全て同時に起きると、典型的な怒り表情が出来上がります。これらの筋肉が同時に全て動けば、怒り感情の表れを意味するのですが、これらの表情筋が個別に動くと、様々な意味の可能性が生じてきます。
例えば、「眉が中央に引き寄せられる」動きだけが顔に表れれば、怒りの微(細)表情、もしくは熟考の可能性が考えられます。「唇が上下からプレスされる」動きだけが顔に表れれば、怒りの微(細)表情、感情抑制表情、もしくは認知的高負担の顔の動きの可能性が考えられます。
このように個々の表情筋には、複合的な意味があり、状況に応じて解釈に注意が必要です。しかし、表情筋の中には、コンビネーションとしては重要な意味があるものの、個別の動きとしてはどんな意味があるのかがハッキリしていないものがあります。
それが眼輪筋です。
眼輪筋とは目の周りを囲む筋肉で、眼輪筋が動くと目尻にシワを作ります。いわゆる「カラスの足あと」と呼ばれるシワです。
眼輪筋の動きは、いくつかの表情や顔の動きのコンビネーションの中で観られます。例えば、
心から楽しいとき、口角が上がると同時に眼輪筋も動きます。
苦痛を感じるとき、まぶたに力が入れられると同時に眼輪筋も動きます。
苦悩を感じるとき、眉がハノ字になり、眉間にしわがより、同時に眼輪筋も動きます。
激しい怒りのとき、怒りに関わる表情筋と同時に眼輪筋も動きます。
しかし、他の表情筋の動きを伴わず、眼輪筋だけが動くことはないのです。
眼輪筋の意味は何なのでしょうか?
表情の意味を強める働きがあるのではないかと考える研究者もいます。
確かに、愛想笑いの場合もありますが、本当に幸福を感じていても幸福感が弱いときには眼輪筋の動きを伴わないで口角だけが引き上げられる、幸福の微細表情の実例を挙げることができます。
眼輪筋は表情の意味を強める、納得できる仮説です。しかし、私の知る限り、まだ検証されていないと思います。したがって、ハッキリわかっているわけではありません。
「わからないことを知っていることはプロの証」
という私の口癖で、この歯切れの悪さを覆いつつ、本稿の締めとさせて頂きたいと思います。
清水建二
参考文献
眼輪筋のナゾについて、以下の書籍のp.205~p.226がヒントを与えてくれます。
The Psychology of Facial Expression: 0 (Studies in Emotion and Social Interaction)
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 1997/03/28
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