私たち大人は、ときどき子どもが放つふとした言葉に「ドキッ」とさせられたり、大人では思いつかないような発想が出てくることに感心させられ、子どもの直感的な観察力の凄さに驚かされます。
私たち大人は、子どもよりも優る言語運用力や論理力、様々な経験をもとに観察という行為をしています。大人の観察力は直感的な度合いよりも認知的な観察力の程度が強いような気がします。
そんな子どもと大人の観察力の違いは、表情を観察する上でどのような違いがあるのでしょうか?
Dawelら(2015)の実験がそのTipsを与えてくれます。
本当の感情から形成された真の「幸福」表情、「悲しみ」表情、「恐怖」表情と何の感情もないウソの「幸福」表情、「悲しみ」表情、「恐怖」表情の写真を子どもと大人に、それぞれ2秒間見てもらいます。
そして、どちらが真の表情で、どちらがウソの表情かを判定してもらいます。
実験の結果、次のことがわかりました。
①子どもも大人も「幸福」表情の真偽を正しく区別することができる。しかし、子どもの方が正解率は低い。
②子どもは大人に比べ「悲しみ」表情の真偽を正しく区別することができない。
③「恐怖」表情の真偽に関しては、子どもも大人も区別ができない。
真の表情とウソの表情とには、表情筋の動きに関して微妙な違いがあります。子どもは大人に比べ、その違いを正しく区別しきれないのだと考えられます。私たち大人は、表情筋について学んでいなくても、これまで多くの表情を観察してきたという経験から、子どもより「幸福」「悲しみ」表情の真偽の区別が上手くいくのだと考えられます。
「恐怖」に関しては、子どもも大人もその真偽を上手く区別できません。他者の「恐怖」表情は危険なことが差し迫っているというシグナルであるため、その真偽を落ち着いて区別するよりも、「恐怖」に似た表情を見たらすぐに「逃げる」という行動の方が適応上意味があり、その差異を区別する能力が形成されないのだと考えられています(「幸福」や「悲しみ」はその真偽を区別できた方が、利益につながりますよね)。
実は、この研究結果と対照的な調査結果があります。
あるヨーロッパのコンサルティング会社の調査では(論文未刊行)、子どもの方が大人よりも微表情の読みとりに関して成績が良いことを報告しています。
これはなぜでしょう?
次回に続きます。
清水建二
参考文献
Dawel, A, Palermo, R, O'Kearney, R et al 2015, 'Children can discriminate the authenticity of happy but not sad or fearful facial expressions, and use an immature intensity-only strategy', Frontiers in Psychology, vol. 6, no. 462, pp. 1-16.