先月ご紹介した「表情と交渉―笑顔は信頼度を高めるか?」に関連する内容です。今回は、自己申告による言語情報と表情が他者にどのような信頼度に関する影響を及ぼすか、というお話です。
京都大学の研究チームが実施した実験から、私たちの言語・非言語情報のとらえ方を考えてみましょう。
互いを知らない実験参加者二人がペアになり、その二人で協力してお金を獲得するゲームをやってもらいます。しかしこのゲームは、ペアの相手、パートナーをダマして自分だけ利益を得ることもできるようにデザインされています。そのため、相手を信頼できるかが重要となります。
ゲームを始めるまえに、実験参加者はパートナーのプロフィールを見ます。パートナーはランダムで決まるため、実験参加者が選ぶことはできません。プロフィールには、自己の信頼度に関する自己評価に加え、その人物の顔写真がつけられています。信頼度の自己評価は高い程度から普通程度まであり、顔写真は笑顔か中立顔(いわゆる無表情、真顔)です。
自己申告による信頼度と顔写真が付与されたプロフィール情報をもとに、実験参加者はパートナーがどの程度信頼できるかを判断し、協力してお金をやり取りするゲームをします。実験参加者の手元にあるお金をパートナーに託します。その額が大きいほど、ゲーム後に獲得できる額も増えますが、託した全てのお金がパートナーに奪われてしまう可能性もあります。つまり、相手にいくら投資するかが信頼度を測る指標となります(ゲームの具体的内容は参考文献に譲ります)。
それでは、どのようなプロフィールの持ち主が最も信頼されたのでしょうか?
実験結果は次の通りです。
信頼されるプロフィールは…
①「信頼度が高い」という自己評価がされたもの>「信頼度が普通である」という自己評価がされたもの
➡まさしく、文字通り言語による自己評価は信頼されやすいということですね。
②「笑顔写真」の女性>「中立顔写真」の女性
➡笑顔の女性は信頼されやすい、ということですね。興味深いことにこの実験において、男性にはこのような効果が認められませんでした。つまり、「笑顔写真」の男性は「中立顔写真」の男性より信頼されるという傾向は見出されませんでした。
③「信頼度が高い」という自己評価に「笑顔写真」がつけられた強いポジティブ・プロフィール情報の持ち主は信頼されない傾向にある
➡強すぎるポジィティブアプローチは警戒される可能性があるということです。
まとめますと、言葉による自己評価は文字通り信頼される、女性の笑顔も信頼される、しかし男性の笑顔と中立顔は相手に信頼されるかどうかに影響を及ぼさない、また、強すぎる「自分は信頼できますよ」シグナルは逆効果、ということです。
セールスマンで、「この商品は本当にすごいです!」「信頼のおける商品です!」と満面の笑みで売り込みをされる方が多々おりますが、これは逆に不信感を高めてしまうということがこの研究結果からは言える可能性があります。
前のブログでご紹介したように通常、笑顔は信頼度を高めます。しかし、本実験で男性にそれが当てはまらないという結果が出ました。もしかするとそれは、実験参加者が日本人であったからかも知れません。
最後にいくつか疑問を呈しておきます。お金ではなく、商品売買を信頼基準にしても本実験のような結果になるのでしょうか?相手に信頼される丁度良い笑顔というのはあるのでしょうか?笑顔の強度はどう影響するのでしょうか?文化差はどうでしょう?今後、こうした疑問をさらに探求していきます。
清水建二
参考文献
大薗博記・森本裕子・中嶋智史・小宮あすか・渡部幹・吉川左紀子 (2010) 表情と言語的情報が他者の信頼性判断に及ぼす影響. 社会心理学研究, 26(1), 65-72.