微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

赤ちゃんの「見せ」笑顔

このブログは元々私の思いつきで非言語、主に表情に関する単発の話題を書いておりました。最近は何となくシリーズ系の話題が多くなってきましたので、ここらで単発な話題も書こうと思います。ということで、 本日は赤ちゃんの笑顔についてです。

 

赤ちゃんはどんなときに笑い、どんなときに笑わないのでしょうか?赤ちゃんの笑いに関する研究は、様々な角度からなされ、なんと、赤ちゃんの愛想笑いなどの例も報告されています。本日は赤ちゃんが人に対してどう笑いかけるかについての研究をご紹介いたします。

 

ボーリングで全てのピンを倒したとします。嬉しさがこみ上げてきますよね。そのときの表情ってどうですか?

ボーリングのピンが全て倒れます。その際、ボーリングのレーンに顔を向けているときより、友達がいる方に顔を振り向けたときの方が笑顔になる、という経験はないでしょうか?

 

自分を観ている人の存在が笑顔の表出の仕方に影響を及ぼす現象を「観客効果(an audience effect)」と言います(Kraut & Johnston, 1979)。

 

この「観客効果」が赤ちゃんにも観られるかどうか、実験がなされました(Jones & Raag, 1989; Jones, Collins, & Hong, 1991)。

 

ある部屋に生後18ヶ月の赤ちゃんとお母さんに入ってもらいます。赤ちゃんにはおもちゃが与えられます。おもちゃに赤ちゃんは興味を示し、笑顔になります。おもちゃで遊びながらニコニコ顔している赤ちゃん、その笑顔のままでお母さんの方へ振り向きます。すると…

 

お母さんが赤ちゃんに注目していると、赤ちゃんのニコニコ顔は維持されます。

お母さんが赤ちゃんに注目していないと、赤ちゃんのニコニコ顔はすぐに消えてしまいます。

さらに面白いことに、第三者がいる状況で、お母さんが赤ちゃんに注目しないとします。その変わり、その第三者が赤ちゃんに注目します。すると赤ちゃんはその人に向かってニコニコ顔を向けるのです。

 

同じことが生後10ヶ月の赤ちゃんの行動にも見られました。

 

赤ちゃんにも観られていることを意識して「見せる」笑顔があるのですね。

 

この実験とは異なり、悲しい話ですが、お母さんからの表情のフィードバックが得られない環境で育った子どもたちは、表情に乏しい、という現象も確認されています。

 

お母さん、もしくは周りからの注目というものは、子どもの生育にとって凄く大切なことだと再認識させられる研究ですね。

 

周りに赤ちゃんがいる方は、おもちゃで遊んでいる赤ちゃんに注目してみて下さい。きっと天使のような笑顔に出会えるでしょう。え?もうやってるって?

 

では、また土曜日に。

 

 

清水建二

参考文献

Jones, SS and Raag, T. (1989) Smile production in older infants: The importance of an audience for the facial signal. Child Development 60 , pp. 811-818.

Jones, SS , Collins, K. and Hong, HW (1991) An audience effect on smile production in 10-month-old infants. Psychological Science 2 , pp. 45-49.

Kraut, RE and Johnston, RE (1979) Social and emotional messages of smiling: An ethological approach. Journal of Personality & Social Psychology 37:9 , pp. 1539-1553.