私がまだ学生の頃、就職活動の一環で外務省に訪れたことがありました。学生同士で討論する場があり、それぞれが思い思いに意見を述べていました。ある女性が話をしているとき、ふと私はその人の話の内容よりも表情ばかりに意識が向かっていました。
(この人、アメリカ人みたいだな…)
(うん、アメリカ人っぽい…)
(この推論を確かめる方法は…聞くしかない!)
なんて、真面目な討論の場で私はずっとそんなことばかり考えていました。
議長:何か彼女の意見に対して、意見・質問ありますか?
私:はい!あなたはアメリカ出身ですか?
気付くと私は、思いっきりその場の空気をぶった切る質問をしていました。
当時の私は、表情認識に関して、思ったこと、気付いたこと、自分の推論、何でも口に出さないと気が済まない傾向にあり、自分が認識した表情を相手に逐一確認したり、自分や人の顔で実験したり、結構迷惑な人でした。(今はそうでないと信じたいのですが…。)
ところで気になる彼女の出身ですが、アメリカではありませんでした。
しかしアメリカ文化が好きで、アメリカに長らく滞在していた経験があったそうです。
なぜ、そのときの私の推論は当たらずとも遠からずであったのでしょうか?
正直に言うと、「何となく」です。
「何となく」彼女の表情がアメリカ人の表情の動きに重なって見えたのです。
実はこの現象に似たようなことが実験でも確かめられていたのです。
日系人と日本人の顔を表情という情報のみを手掛かりにして、それぞれの国籍の違いが判別できるか、という実験が行われました。
実験の結果、実験に参加した判定者ら(表情の専門家ではない、一般の方々です)は、高い割合で両者の国籍を正しく判定できたのです。このことは、実験素材の日系人と日本人の表情が中立のときよりも何らかの感情が表れた表情のときに顕著に見られました。
この実験結果は、自分が生活する文化が表情の表し方に影響を与えうることの例証となります。
この研究を突き詰めると表情から、関東、関西、東北などの出身がわかりそうな気がします。
そんな研究をしている人がいたらぜひお知らせ下さい。
関東、関西、東北の人々がそれぞれに醸し出す空気感が、微妙な表情の変化から明確にわかる日も来るかも知れませんね。
清水建二
参考文献
Marsh AA, Elfenbein HA, Ambady N (2003) Nonverbal “accents”: Cultural differences in facial expressions of emotion. Psychol Sci 14:373–376.