一般的に高齢になるほど記憶力、注意力、思考力などの認知機能全般の機能が低下していきます。そのため様々な刺激に対し、高齢者の方々が感情を様々に感じ、表情を豊かに表現する傾向が弱まってしまいます。
笑顔もその例外ではございません。
認知機能が低下することにより「幸福」感情を引き起こすような刺激に対しても、高齢者の方々の顔にその反応―笑顔―が微妙にしか現れなかったり、全く見られないこともあります。
不快な感情に敏感ではなくなることは、ある意味、良いことなのかもしれません。
しかし、「幸福」感が離れて行ってしまうのは悲しいことのように思えます。
様々な「幸福」感を引き起こす刺激に対し、高齢者の方々がどのように反応するかについて調査した実験があります。実験の対象は、痴呆性高齢者の方々です。
「幸福」感を引き起こすために用意された刺激は、滑稽な動きをするおもちゃ、猫・子犬の写真、赤ちゃんの写真、などの非言語的刺激と、名前・服装をほめる、お礼を言う、挨拶をする、などの言語的刺激です。
実験の結果、高齢者の認知能力が高くても低くても非言語的な刺激に対して、高齢者の表情には「笑顔」が見られる傾向にあるが、認知力の低下に伴って言語的な刺激に対して「笑顔」が見られなくなる傾向にあるということがわかりました。
このことから鑑みるに介護側に課せられた任務とは、
わずかな表情反応を適確に読み取り、認知レベルの程度に合わせたコミュニケーションを模索していく。
「言うは易し、行うは難し」、まさにそうです。しかしこうした研究の蓄積及び実際に介護に携わる方々の実践が、より質の高い、相手の身に沿った介護というものを考えるうえで役立つのだと信じています。
清水建二
参考文献
矢冨直美・宇良千秋・吉田圭子・中谷陽明・和気純子・野村豊子(1996)痴呆性老人における笑いの表出 老年精神医学雑誌, 7, p783-791.