微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

アメリカ人とアジア人、微表情が出やすいのはどちら?

 

アメリカ人とアジア人とを比べると、微表情はどちらの顔に出やすいのでしょうか?私の知る限り、このことを直接検証した研究はありません。したがって、結論としては、答えはわかりません。私見としては、皆さんと同じだと思われます。アメリカ人の方が出やすいように思います。本日はある研究から冒頭の問いに対する仮説を考えてみたいと思います。

 

感情を抑制するのが下手なのはどちらかについて、アメリカ人とアジア人の脳波成分の比較から検証した研究があります(Murata, Moser, & Kitayama, 2013)。

 

アメリカ人とアジア人の実験参加者に不快な感情が刺激されるような写真、刺激が中性的な写真をそれぞれ数十枚、見てもらいます。一方の条件では、その感情に素直に従い、自分が感じる感情状態を意識してもらいます。これを注意条件と呼びます。もう一方の条件では、その感情を抑制してもらいます。これを抑制条件と呼びます。

 

この二つの条件下における実験参加者らのLPP(late positive potential)という脳波成分がそれぞれ測定されます。感情の程度が強い程、LPPの振幅は大きくなる性質を持ちます。

 

注意条件の場合、LPPの振幅は、アメリカ人とアジア人、ともに大きくなりました。しかし抑制条件の場合、アメリカ人のLPPの振幅は注意条件とあまり変わらなかったのに対し、アジア人のLPPの振幅は注意条件と比べて低下した、という現象が観察されました。

 

この研究からわかることは、感情の抑制は文化の影響、学習によって身に着けられるものである、ということです。そしてこの研究を材料①に冒頭の問いを考えてみます。

 

材料①アメリカ人はアジア人と比べ、感情を抑制するのが下手である。

材料②微表情は抑制された感情の現れなので、感情を抑制するのが下手な民族ほど微表情が現れやすい。

 

したがって、

 

仮説:アメリカ人とアジア人を比較すると、アメリカ人の顔には微表情が現れやすい。

 

いかがでしょうか。

だれか検証してみてくれませんか?

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おまけ①:

ちなみに日々多くのインタビュー、会見映像を分析していますが、日本人の顔にも微表情が沢山現れています。直感的にはアメリカ人より現れづらい気がします。

 

おまけ②:科学の目を養う

普通に日本に暮らし、アメリカ人の表情を見たことがある人(直に、メディアを通して問わず)ならば、直感的に、私たち日本人を含め、アジア人の微表情の方がアメリカ人と比べて微表情は出づらい、と思うと思います。しかし、こうした直感が正しいか否かを客観的な基準を用いてちゃんと検証するのが科学というものです。また「微表情が現れにくい」という現象と「微表情が読み取りにくい」という現象は別な問題です(内集団優位性)。科学の目、科学の心を養うためには、日々疑問を持ち、日々様々な経験をし、様々な文献を読み、様々な知見を援用して、仮説を導き出す練習をすることが大切だと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Murata A, Moser JS, Kitayama S: Culture shapes electrocortical responses during emotion suppression. Soc Cogn Affect Neurosci 2013, 8(5):595-601.