このブログの読者の方はご存知の通り、エクマン博士を始めとした数多くの研究によって、万国共通に認識されている表情が7種類あります。白人の表情写真を様々な文化圏に属する人々に観てもらい、どんな表情かを推測してもらう実験によって、表情の万国共通性が実証されています。
しかし、表情の識別率(正答率)には文化間で差があることもわかっています。そこで日本人とアメリカ人とで表情識別になぜ差が生まれるのかについて考察した研究があります。
ランダムに提示される日本人の表情写真とアメリカ(白人)人の表情写真を日本人及びアメリカ人の実験参加者に観てもらい、表情を識別してもらいます。実験の結果、次のことがわかりました。
①アメリカ人は日本人と比べ、「怒り」「嫌悪」「恐怖」「悲しみ」表情を正しく識別することが出来た。
②日本人の実験参加者は、男性の表情に比べ、女性の表情を簡単に識別することが出来た。
③日本人にとってもアメリカ人にとっても、「幸福」表情が最も識別しやすく、「恐怖」表情が最も識別しづらい。
日本では集団の和を保つために否定的な感情を顔に出すことが忌避され、またそれらの表情を認識することも良くないとされるという文化的基盤があるため①のような結果になったのだろうと考えられています。
②は、「女性の表情は豊かである」というステレオタイプ的な見方が、アメリカに比べ日本の方が強いため、そうした意識が表情識別率に影響を与えたのではないかと考えられています。
自分が置かれている環境が、世界の見方、認識の仕方に影響を与える。
表情においても同様のことが言えるのかも知れませんね。
清水建二
参考文献
Matsumoto, D. (1992). American-Japanese cultural differences in the recognition of universal facial expressions. Journal of Cross-Cultural Psychology, 23, 72-84.