私たちは、特別な場合を除いて、相手の意図を表情から読み取り、コミュニケーションの行方を決めています。この過程はあまりにも当たり前すぎて意識されることなく自動的に行っているといっても過言ではないでしょう。
それでは、もし、意図された表情を読み誤っていたとしたらどうでしょうか?例えば、他者の「嫌悪」表情を「怒り」表情だと誤って認識してしまったとしたら、どうですか?「怒り」表情を向けられた方は良い気がしません。さらに下手をすれば、攻撃する意図があるのではないかと錯覚し、トラブルに直結する恐れもあるでしょう。
悲しいことに、そんな認識を非行少年たちは日々しているのかも知れないのです。
京都大学の研究チームによる実験によれば、非行少年は一般的な少年に比べ、他者の「嫌悪」表情を「怒り」表情と誤認する傾向があるようです(表1を参照して下さい)。
「嫌悪」表情は、「嫌悪」表情を浮かべた人から遠ざかる動機を「嫌悪」表情を向けられた相手に与えますが、「怒り」表情はその人を攻撃する動機を相手に与えてしまいます。つまり非行少年らは、表情を誤解することによって暴力的な行動をとってしまっている可能性があるのです。
ある研究では、悪意のない社会的な状況を敵意のあるものとして誤認識してしまう非行少年らの傾向を報告しています(例えばNasby, Hayden, & DePaulo,1980)。
このような現象が起きてしまう理由の一つとして、幼少期の家庭環境が挙げられています。例えば、幼少期に虐待を受けて過ごした少年たちは社会や他人に対して敵意を抱く傾向があり、それが表情認知にも影響を及ぼしているのではないかと考えられています(Dodge, Bates, Pettit,1990及びPrice, Glad, 2003)。
一般の方を対象にした実験では、表情読解のトレーニングを行うことにより、読み取り能力が向上することがわかっています。こうした非行少年や、脳の病気などで表情を誤認識してしまう方々に対する表情読解トレーニングの効果は謎です。そもそもそういった教育はなされているのでしょうか。目下、調査中です。
清水建二
参考
表1 非行少年と一般少年の表情判定率比較
|
非行少年 |
一般少年 |
怒り |
66.7 |
62.5 |
嫌悪 |
30.2 |
41.7 |
恐怖 |
41.7 |
31.3 |
幸福 |
96.9 |
99.0 |
悲しみ |
71.9 |
71.9 |
驚き |
95.8 |
88.5 |
出典:Sato W, Uono S, Matsuura N, Toichi M (2009)を参考に筆者作成。
※数値は百分率(%)で、正解率を示しています。
参考文献
Sato W, Uono S, Matsuura N, Toichi M (2009) Misrecognition of facial expressions in delinquents. Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health 3:27.
Nasby W, Hayden B, DePaulo BM: Attributional bias among aggressive boys to interpret unambiguous social stimuli as displays of hostility. J Abnorm Psychol 1980, 89:459–468.
Dodge KA, Bates JE, Pettit GS: Mechanisms in the cycle of violence. Science 1990, 250:1678–1683.
Price JM, Glad K: Hostile attributional tendencies in maltreated children. J Abnorm Child Psychol 2003, 31:329–343.