微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

表情をみる万引き保安員体験談~逃避~

 

こんにちは。空気を読むを科学する研究所の清水建二です。

本日は、2022年5月13日(金)開催公開セミナー「子どもの嘘を見つめる」に

登壇する寺嶋講師の体験談を紹介したいと思います。

 

 

~逃避~

 

 

「最初は厳しく、最後は優しく諭す」

 

厳しさと優しさの緩急を生じさせることで感情を揺さぶり、反省の念を引き出す。

説諭におけるテクニックの一つです。

 

この「テクニック」を使う保安員は男性に多い傾向があり、迫力を要する面でも男性保安員の方が適した方法であることが分かります。説諭を行う上で効果のある一つの方法ではありますが、果たしてこの方法が全ての被疑者に通用するのでしょうか?

 

ある少年との対話から考察します。

 

大型ショッピングセンターでマークしていた少年が来店しました。

 

前回と同じ時間です。

 

少年はお菓子を素早く窃取すると数分で犯行を終えました。

 

外に出た所で少年に声をかけます。

 

他の売場を巡回していた先輩(男性保安員)に連絡してから、少年を事務所へと同行しました。

 

事務所で嘘をつく少年に対して先輩が声を張り上げます。少年は先輩の怒声に驚き、恐怖心を抱いたのか表情には明らかな「恐怖表情」が広がりました。先輩の追及に観念したのか、窃取した商品を全て取り出し、素直に謝罪しました。

 

少年は小学生でした。

 

先輩の「なぜ、盗んだの?」という問い掛けに少年は「欲しかったから」と答えました。警察官が到着するまでの間、先輩は少年に「万引きはいけないことでしょう!!」と厳しく言葉をかけます。「警察官に逮捕されて、刑務所に行くことになるかもしれないよ!!」

 

少年は先輩の「逮捕」や「刑務所」という言葉に怯え、ついには泣き出しました。

 

自分が取り返しのつかない事をしてしまったのだと実感したのでしょう。表情には「恐怖表情」と「悲しみ表情」が浮かび上がります。

 

泣き出した少年に対して今度は先輩が優しい口調で言葉をかけました。少年が俯きながら先輩の話を聞きます。先輩の話が一区切りついた所で少年が「恐怖表情」を浮かべながら先輩に尋ねます。

 

「僕は刑務所に行くのですか?」

 

再び泣き出しそうな表情です。

 

先程の先輩の言葉がずっと引っ掛かっていたのでしょう。

 

それに対して先輩は「そうなるかもしれない」と少年に話します。少年が再び泣き出しました。

 

そんなやり取りを繰り返している間に警察官が到着しました。少年は初犯であり、お店も厳罰を望んでいないことから母親を呼んで商品の買い取りと保護者引渡しで処理が完結することになりました。刑務所に行かなくても良いことが分かりほっとした様子の少年。

 

先輩が持参していたサッカーボールから少年にサッカーについて優しい口調で尋ねます。少年はサッカーが好きでサッカークラブに通っていると話してくれました。少年の夢はサッカー選手になることだと言います。

 

「万引きするよりも、サッカーの練習をしていた方が楽しいでしょう?」先輩が少年に問い掛けます。

 

少年は先輩の言葉に静かに頷きました。この時、少年の表情に「嫌悪」の微表情が現れたのを僕は見落しませんでした。先輩の言葉を聞き、頷く前のほんの一瞬、少年の顔に鼻にしわを寄せる「嫌悪」の微表情が走りました。

 

ここまで少年の「本当」の犯行動機が不鮮明なままでした。しかし、ここにきて、ようやく少年の犯行に繋がる動機が朧気ながら見えてきました。僕は少年の表情に現れた「嫌悪表情」が少年の本当の犯行動機に繋がる微表情であると考えました。

 

警察官が連絡していた母親が店舗に到着したこともあり、先輩は少年を鼓舞し、サッカー選手になれるように頑張れ!!と応援をして説諭をしめ括りました。

 

暫くして事務所に母親が姿を現しました。事務所で改めて店長と警察官達に謝罪をします。そして、厳しい表情で少年をみつめます。

 

「どういうつもり?」

 

一言だけ言うと、わなわなと震え、立っていられず机に寄りかかります。はじめての事で本当に気が動転しているようでした。母親には落ちついもらう為に一度、椅子に座ってもらいました。

 

「何で?何でこんなことをするの?」

母親は少年に問い掛けます。

 

しかし、少年はじっと黙ったまま俯いたままです。頭を抱える母親に先輩がしっかりと話をしましたから、と慰めます。

 

「二度とやらないと約束できるね?」先輩の言葉に少年は頷くものの、その表情は曇ったままです。

 

少年の心に伝わりきれていないと判断した僕は少年に言葉をかけました。

 

「○○くん、本当はサッカー好きじゃないよね?」

僕の言葉に少年が顔を上げました。

 

母親が少年に問い掛けます。

「今日もサッカーの練習だったよね、サボって万引きなんてどういうつもり?」

 

この瞬間、少年に「悲しみ表情」が現れました。

 

「だってさぁ…」

 

母親に訴えるように「悲しみ表情」が強くなります。

 

「○○くんはサッカーの練習が厳しいから行きたくないんでしょう?」

僕の言葉に少年が「悲しみ表情」を浮かべたまま、肩を落とします。

 

僕は「嫌悪表情」から少年の万引きがサッカーの練習の厳しさから逃げていることへの「罪悪感」と「後ろめたさ」を誤魔化す為のものだと考えました。

 

少年は厳しい練習が嫌になり、練習をサボるようになりました。だから、万引きするのは同じ時間、サッカーの練習のある日に犯行に至っていたという訳です。

 

少年は厳しい練習に背を向けることへの後ろめたさや罪悪感に蓋をするために、一時の「逃避」に浸るために万引き行為を繰り返し、嫌な感情を大好きなお菓子を窃取することで誤魔化し、紛らわしていたのではないでしょうか?

 

僕は俯く少年に、「君が本当にサッカー選手になることが夢なら厳しくても逃げずに練習をしないといけない」と話をしました。そして、サッカーを辞める選択肢もあることも話しました。

 

僕は少年に、続けたいのか?辞めたいのか?自分の意思で選択するようにと話をしました。

 

少年はしょんぼりと頷きました。

 

そして、母親にも少年の意思を尊重し選択させてあげて欲しいと話しました。母親にも少年が万引きを繰り返していた理由が分かったようで、家でしっかりと話をしますと約束して下さいました。

 

僕自身、もう少し彼に言ってあげるべき言葉があったのではないかと思います。ただ、先程までの様子とは代わり、少年を真っ直ぐ見つめる母親の眼差しがありました。その眼差しから「本当の説諭」は母親に託すことにしました。

 

少年はどちらを選択したのでしょうか?

どちらを選んでも間違いではありません。ただ、僕は少年がもう一度、好きだったサッカーと向き合える事を信じたいと思います。

 

今回の少年には「最初は厳しく、最後は優しく諭すテクニック」はどのように影響したのでしょうか?

 

少年に「ことの重大さ」を認識させるという部分では成功です。しかし、少年の本当の動機にまで辿り着く事は出来ませんでした。

 

少年の曇ったままの表情はまだ埋もれた感情があることを示唆していました。やはり、隠された本当の動機を見つけ出し、真の動機に対してアプローチをしなければ心の奥底に埋もれている感情は動かないのだと思います。僕はテクニックよりも試行錯誤しながらでも、表情を分析するプロセスを通して、一人一人の感情に光を当てていく姿勢と心で埋もれた感情をみつけてあげられたらと思います。

 

少年が笑顔で好きなことに打ち込める未来を信じて。

 

 

こんな、表情を見て、観て、診る万引き保安員の話を直接聞くことが出来ます。2022年5月13日(金)19:00-20:30(後日録画配信あり)、オンライン(Zoom)にて開催します。詳細及びお申込みは、次のURLよりお願いします。

https://peatix.com/event/3224557/view

 

 

清水建二