微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

様々な「文化的」表情を学ぶ必要性

 

以前のブログで、私たちには日系人か日本人かを表情から区別することが出来る、というお話を紹介いたしました。このお話の背景にある考えは、表情識別内集団優位性(in-group advantage)というものです。表情を識別するうえで、自分の所属する文化圏の人々の表情の方がそうでない人々の表情よりも正確に判断できる、という考えです。

 

表情識別力を検証する実験においてわかったことは(Ekman, 1972)、判定に使われる表情写真が実験参加者の属する文化圏と同じ場合、異なる場合と比べて正答率が高くなる、ということです。この実験で使われた表情識別用の写真はアメリカ人でした。アメリカ以外の文化圏に属する実験参加者の表情識別力は、アメリカ人の実験参加者の識別力に比べ、全体的に低い傾向にあったのです。

 

表情識別用の写真と実験参加者の組み合わせを変えて行われたいくつもの実験において、同様の結果が見出されています。(Elfenbein & Ambady, 2002)。

 

こうした研究が重ねられ、表情の方言理論(A dialect Theory)という仮説が提出されました。

 

そうなると、

 

表情には万国共通性があり、7表情に関してはどの文化圏に属する人も同じなわけなので、ある文化圏に属する人の7表情を学べば、「世界共通言語」を習得できる。しかし、表情の微妙なニュアンスを知りたければ、文化毎の表情を学ぶ必要があるかも知れない

 

といえそうです。

 

世界の様々な人々とビジネスをする人にとっては、表情の微妙な違いを認識出来るスキルは大きなアドバンテージになるのかも知れません。

 

(まぁ、まだ微妙な文化的な表情の差異は包括的には解明されていないのですが。。。)

 

 

清水建二

参考文献

Ekman, P. (1972). Universals and cultural differences in facial expressions of emotion. In J. Cole (Ed.), Nebraska Symposium on Motivation, 1971 (Vol. 19, pp. 207–282). Lincoln: University of Nebraska Press.

Elfenbein, H.A., & Ambady, N. (2002a). Is there an in-group advantage in emotion?

Psychological Bulletin, 128, 243–249.

Elfenbein, H. A., & Ambady, N. (2003). Universals and cultural differences in recognizing emotions. Current Directions in Psychological Science, 12, 159-164.

 

偏見に潜む評価尺度

 

みなさんは、自身が属している集団とそれ以外の別の集団に対して、どんな感情を抱きますか?

 

みなさん自身が女性なら男性、大人なら子ども、A会社ならB会社、中間層なら富裕層貧困層、健常者なら障害者、仏教徒なら異教徒、日本人なら外国人、前者が自身の属している集団で後者が別集団と考えてみて下さい。

 

考えて頂きたい感情は、次の4つです。

 

妬み…?????

憐れみ…?????

軽蔑…?????

誇り…?????

 

どんな集団にどんな感情を抱くでしょうか?

 

いくつかの調査で選択肢として挙げられた集団は、高齢者、主婦、富裕層、キャリアウーマン、生活保護受給者、薬物依存者、そして自分の属している集団です。

 

これらの調査によると、

 

妬み…富裕層、キャリアウーマン

憐れみ…高齢者、主婦

軽蔑…生活保護受給者、薬物依存者

誇り…自分の属している集団

 

となりました。

これはなぜでしょうか。

 

ステレオタイプ内容モデルというものがあります。このモデルは、集団に対して抱かれる偏見の核となる感情を教えてくれます。このモデルは、集団を有能さと心の温かさの2つの軸で評価します。

 

自分の属している集団と競争状態にある別の集団を私たちは脅威と感じ、その集団を心の冷たい人々とステレオタイプ化します。逆に、危害を加えない、競争状態にない別の集団を心の温かい人々とステレオタイプ化します。そして実際に脅威を与える能力があれば、有能だとされ、なければ有能ではないとされます。

 

この心の温かさの高低と有能さの高低の組み合わせが偏見を構成する感情を生み出すといいます。

このモデルに当てはめて先の集団が実験参加者にどう評価されたかをみてみます。

 

妬み富裕層、キャリアウーマン

心が冷たく有能

憐れみ…高齢者、主婦

心が温かく無能

軽蔑生活保護受給者、薬物依存者

心が冷たく無能

誇り…自分の属している集団

心が温かく有能

 

このカテゴリー分けは事実というわけではなく、人々がどのように集団をステレオタイプ化しているか、という話です。意識・無意識問わず、私たちはこのような評価軸で集団をステレオタイプ化する傾向にあるようです。

 

心の温かさの高低と有能さの高低という2つの軸を正確に観る姿勢を保つことで、少しでも偏見で人を評価しなくてすむのでしょうか。自分の持つ偏見というものを考えさせられてしまう調査結果です。

 

 

清水建二

参考文献

Fiske, S. T., Cuddy, A. J. C., Glick, P., & Xu, J. (2002). A model of (often mixed) stereotype content: Competence and warmth respectively follow from perceived status and competition. Journal of Personality and Social Psychology, 82, p.878-902.

嫌悪と軽蔑を頻繁かつ同時に抱く人は、生きづらい?

 

感情と健康に関わる研究は数多ありますが、本日はそうした先行研究の結果からわかっていることではなく、私の日々の観察から感じていることを書かせて頂こうと思います。

 

以前にこのブログで、精神疾患とその表情について書かせて頂いたことがあります。それは精神疾患にかかっている人がどのような表情を見せるか、というものでした。また、うつ病患者にネガティブな感情を感じさせないようにそれらの感情に関わる表情筋にボトックスを打つことで病状が改善する、というお話も書かせて頂いたと思います。

 

これらの研究は、すでに病気の人はどうであるか・すでに病気の人をどうするか、という問題を扱っています。感情と病気に関する諸研究のアプローチは基本的にこのパターンです。

 

私が考えたいアプローチは、将来、精神疾患になりやすい表情のパターンはあるのか、ということです。表情ではなく、遺伝や生活環境などで予想でき得る研究はあるようですが、私はやっぱり表情に興味があるわけです。なぜなら相手を観察するだけで、相手の危険信号がわかれば素敵なことだと思うからです。

 

さて、ここからが直感的なお話です。

 

嫌悪と軽蔑を頻繁かつ同時に抱く人は、生きづらい?もっと言えば、精神疾患にかかりやすいのではないだろうか?ということです。嫌悪は拒絶です。自分にとって有害なものを受け入れたくないという感情です。軽蔑は優越感です。自分は他者より優れているという感情です。

 

嫌悪と軽蔑は私たちが自尊心を保つ上でなくてはならない感情ですが、それが環境との相互作用で精神に問題を引き起こすのではないかと私は思っています。具体的には、主に能力の有無にかかわるのではないかと。

 

例えば、職場で真に能力がある人が、嫌悪や軽蔑を抱き、人の考えを聞かず、仕事を自分の考えるように進めるとします。自分勝手な人ですが、その能力ゆえ、仕事の成果は高く、周りからの評価も高いです。ワンマン社長に多いような気がします。この場合、特に問題ない気がします。周りも「あの人は、ワンマンだけど成果出すから、あの人の意見は聞く価値あるな。」と思うわけです。

 

しかし、能力がない人が、嫌悪や軽蔑を抱き続けると精神に異常をきたすのではないかと思います。自分の意見と周りの意見が異なる場合、嫌悪と軽蔑を感じます。しかし、自分の意見は尊重されません。聞き入れてもらえません。そうすると意に反した他人の意見に沿って、自らの仕事や行動パターンを変えなくてはいけないのです。これは大きなストレスになるでしょう。このストレスが積もり積もれば、精神疾患につながるのではないか、そんなふうに感じています。

 

ずいぶん前に働いていたアルバイト先の社員さんの話ですが、その方が、他者に指示やアドバイスをされているとき、本当によく嫌悪と軽蔑を同時に浮かべていました。本当に仕事を嫌々やっているんだな、大きなストレスを抱えてるのだなと、傍から見ていて感じていました。私がそのアルバイトを辞めた後、その方は精神疾患を患い、2年以上休職していたという話です。

 

能力の発揮のしやすさや何が能力かについては、環境によって変わるため一概には決められません。さらに今回の私の話はあくまでも直観です。ただし、しっかり調査できれば、表情が精神疾患のサインとして予防に寄与するかも知れません。そんなふうに思っています。

 

 

清水建二

 

プラットホームのボディー・ランゲージー鉄道自殺編③

 

今回のブログでは、鉄道自殺者の病歴、心理、表情について扱いたいと思います。

 

鉄道自殺者の病歴

 

地下鉄を利用した自殺者に関する28の調査をまとめた研究によると(Ratnayake, Links, & Eynan, 2007)、地下鉄自殺を試みた人々の大部分は、重度の精神病の影響を受けていた可能性があり、自殺の前に病院に訪れていた可能性が指摘されています。具体的な病名としては、統合失調症、気質性精神病、うつ病、妄想症、その他精神病・神経症が報告されています。

 

鉄道自殺の心理と現実

 

鉄道自殺が未遂に終わった人々の証言によれば、鉄道自殺を選択した理由は、高い確率で死ぬことが出来ると思ったからだと述べています(O'Donnellら, 1996)。

 

しかし、鉄道自殺の方法とその死亡率をまとめた報告によると、鉄道自殺が必ずしも死に直結しないことがわかっています。鉄道自殺者が自殺を試みる方法は大きく4つのパターンに分類されています(Guggenhein & Weisman, 1972)。飛び降り(jumpers)、寝そべり(liers)、接触(touchers)、ぶらつき(wanderes)の4つです。飛び降りとは、接近する列車に向かって飛び込んだり、倒れ込んだりする行為のことです。寝そべりとは、線路に横になり(大抵はうつ伏せの状態)、列車が来るのを待つか、列車が出発するのを待つ行為です。接触とは、電気系統に触れる行為です。ぶらつきとは、線路に沿って歩き、列車に衝突する行為です。

 

2002年から2006年の期間にドイツで発生した鉄道自殺に関する調査報告によると(Ladwigら, 2009)、寝そべりが最も死亡率が高く、飛び降りが最も死亡率が低い、ということがわかっています(表1参照)。

 

表1:鉄道自殺の類型別動向

 

 

飛び降り

寝そべり

ぶらつき

発生率

発生率

32.2%

32.6%

34.2%

場所

 

 

 

 

 

プラットホーム含む駅周辺

46.6%

24.9%

28.5%

 

線路が開けている場所

23.6%

38.1%

38.4%

死亡率

死亡率

29.1%

35.7%

35.2%

出典:Ladwigら, 2009を参考に筆者作成。

注:発生率に関しては、1,004件、場所死亡率に関しては993件の鉄道自殺・未遂の類型のまとめである。詳細は、Ladwigら, 2009を参照のこと。

 

プラットフォームから見えるところに「飛び降りても、死ぬ確率30%(ドイツの場合)」、そんな看板がひょっとしたら鉄道自殺予防に効果的なのかも知れません。

 

ちなみに日本の場合、飛び降りの死亡率は、ドイツに比べずっと高いです。

電車の車高の高さとかが関係するのでしょうか。ナゾです。

 

自殺意図を隠している者の表情

 

多くの調査によれば、鉄道自殺者が衝動的に自殺をしたというよりも、自殺願望が蓄積し、計画的に鉄道自殺を選択していることを報告しています(Guggenhein & Weisman, 1972)。このことを前提とするならば、鉄道自殺を望む人々は、自殺を実現させるという目的であり、その目的を確実に成功させるためには、自殺意図を表情に出さないように行動している可能性が考えられます。

 

自殺意図に直結する表情というものは特定されていませんが、意図や感情を抑制するときに動く表情筋については色々とわかっていることから、そうした表情筋の動きを検知することで、自殺願望を抱いている人を見つける可能性を高められるかも知れません。

 

今回で一旦このシリーズは終了です。

鉄道自殺防止には、防護柵や監視カメラ(人が一定時間白い線を越え続けている警告音が鳴るシステム)など機械制御のシステムがかなり功をなしていると思います。しかし、機械では防ぎきれない隙間・できないことを人間の目と手を通して、バランスよく自殺予防に役立てられればよいのではないかと思っています。

 

 

清水建二

参考文献

Dinkel, J. Baumert, N. Erazo, N., K.H. Ladwig. (2011). “Jumping, lying, wandering: Analysis of suicidal behavior patterns in 1,004 suicidal acts on the German railway network”, Journal of Psychiatric Research, 45, pp.121-125.

Clarke, R., & Poyner, B. (1994). Preventing suicide on the London underground. Social Science & Medicine, 38(3), 443-446.

Cocks RA. Study of 100 patients injured by London underground trains 1981-6. BMJ.

1987;295:1527–1529.

F.G. Guggenheim, A.D. Weisman, A. D., “Suicide in the subway. Publicly witnessed attempts of 50 cases”, Journal of Nervous and Mental Disease, 155, pp.404-409, 1972.

Gaylord, M., & Lester, D. (1994). Suicide in the Hong Kong subway. Social Science & Medicine, 38(3), 427-430.

Lukaschek, K., Baumert, J., & Ladwig, K. H. (2011). Behaviour patterns preceding a railway suicide: Explorative study of German federal police officers' experiences. BMC Public Health, 4(11), 620.

O'Donnell, I., Farmer, R., & Catalan, J. (1996). Explaining suicide: The views of survivors of serious suicide attempts. British Journal of Psychiatry, 168(-), 780.

Rådbo, H., & Andersson, R. (2012). Patterns of suicide and other trespassing fatalities on state-owned railways in greater Stockholm; implications for prevention. International Journal of Environmental Research and Public Health, 9(772-780)

Ratnayake R, Links PS, Eynan R: Suicidal behaviour on subway systems: a review of the epidemiology. J Urban Health 2007, 84:766-781

 

 

2016年6月23日(木)キャリタス就活フォーラムDISCOイベント振り返り

 

本日は、一昨日開催されましたキャリタス就活フォーラムby DISCO様のイベントを振り返らせて頂こうと思います。

 

面接対策を通じて、相手の意図を感じ、自分の想いを正しく伝え、コミュニケーションの場を適切に治めるためのTips、「感」・「伝」・「治」をお話しさせて頂きました。この度も株式会社人の力様とコラボでセミナーをさせて頂きました。

 

今回の場所は、東京ドームプリズムホールでした。

会場に来られた皆さま、イベントに呼んで下さったDISCO様、本当にどうもありがとうございました。

 

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 開場前の会場

 

6月1日内定解禁日以降、50%以上の新卒者の方々が内定を一つ以上獲得されているようです。そんな中、本日来場された学生さんたちは、内定がまだ一つもない学生さんか、自分が内定をもらった企業に決めてしまってよいのか、悩んでいる学生さんたちでした。

 

そんな学生さんにお話しさせて頂いたテーマは、二つ。

 

「Yes(合格)!を引き出す面接術」というテーマで、自分の内面と面接官の内面の見つめ方を説明させて頂きました。トッピックスは次の通りです。

 

1 自分を知る

1.1 一次面接で落ちてしまう自分

1.2 二次面接で落ちてしまう自分

1.3 「やりたいこと」よりも「できること」

 

2 面接官を知る

2.1 面接官をうならすキーアイディア

2.2 面接官をうならすロジック

2.3 微表情から面接官の想いを知る

 

本テーマで強調させて頂いた点は、やりたいことに情熱を持ちつつも今できることは何かを考える、想いを伝えるロジックの組み立て方を知る、面接官の表情変化に気を配る、ということでした。

 

二つ目は、「あなたの面接ココがダメ!セルフコントロール&読心術」というテーマで、面接の心構え今一度というお話と面接官の微表情から考えるコミュニケーションの切り返し方をお話させて頂きました。トピックスは次の通りです。

 

1 面接上手になるーメンタル編

1.1 あなたはダメじゃない

1.2 面接官の目

1.3 ウソはつかない

1.4 自信をつけるセルフコントロール

 

2 面接上手になるースキル編

2.1 話す量を調整できるようにする

2.2 面接ロジックで話す

2.3 感情に沿った切り返しをする

 

強調させて頂いた点は、表情や姿勢が気持ちを作るということと面接官の感情に沿った切り返しができるように事前準備を怠らない、ということでした。

 

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こんな顔した面接官、どうコミュニケーションを切り返す?

 

そして、面接官の戦略も学ぼうということで、就活生向けの本だけでなく、面接官が読むような本からも学ぼうということで、面接官向けの本も紹介させて頂きました。

 

人材を逃さない 見抜く面接質問50

 

 

面接官の視点から面接を研究しよう!

 

蒸し暑い日が続きますが、就活、まだまだ頑張って下さい。応援しています。

心配とは心を配ると書きます。心配するということは自分の人生にそれだけマジだということで、素晴らしいことだと思います。存分にもがき苦しみ、心配し、就活という壁を乗り切って下さい。

悩んでいる人は、7月18日もキャリタス就活フォーラムinビックサイトに登壇しますので、一声かけて下さいね。

 

 

清水建二

 

プラットホームのボディー・ランゲージー鉄道自殺編②

 

 鉄道自殺の意図を持っている人を見た目から判断することはできるのでしょうか?

 

これまでの調査報告から鉄道自殺の意図を持つ人の異常な行動が目撃されており、注意深く観察していれば、未然に自殺を食い止めることができるかもしれない、というのが一応の解答です。

 

それでは鉄道自殺の意図を持つ人々というのは、プラットホームでどのような行動をするのでしょうか?

 

鉄道自殺者が自殺の直前にとる特定の行動が、様々な研究から報告されています(Lukaschekら, 2011; O'Donnellら, 1996; Clarke & Poyner, 1994; Gaylord & Lester, 1994)。主な行動を挙げると以下の通りとなります。

 

・バックやカバン、IDカードなどの自分の持ち物を落とすか、置く。

・靴を脱ぐ。

・アイコンタクトを避ける。

・不審なしぐさ、異常な行動をする。

・不審なコミュニケーションをする。

・目的なくふらつく。

・顔を覆う。

 

それでは上記の行動・様態はどのくらいの頻度で観察されるのでしょうか。ドイツで発生した202件の鉄道自殺を分析した調査によれば(Lukaschekら, 2011)、鉄道自殺者が行う直前行動・様態のうち、所有物を落とす・置く、アイコンタクトを避ける、不審なしぐさをする、がよく観察される事象であることがわかっています(その他の行動も含め、図1を参照して下さい)。

 

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出典:Lukaschekら, 2011を参考に筆者作成。

 

他にも自殺者の様態としては、鉄道自殺者は、普段持ち歩かないようなフレーム入りの家族の写真を持っていたり、自殺者にとって特別な物を持っていたりすることが報告されています。また服装が、全身真っ黒であったり、極端に明るい色であったりし、普通の服装ではないこともあることが報告されています。また自殺者は自殺をする前に、自殺方法までは言わないものの、周囲に自殺意図をほのめかすということも報告されています。ある研究ではロンドンの地下鉄において自殺未遂をした100人のうち15人が自殺実行の24時間以内に自殺意図を周囲に述べていたことがわかっています(Cocks, 1987)。日本でも鉄道自殺を行う直前に、自殺願望者がその意図をインスタントメッセージやインターネットの掲示板に表明するケースが多々あることが報道などで報告されています。

 

次回のブログでは、鉄道自殺者の病歴、心理、表情について扱いたいと思います。

 

追伸:

今朝、ニュースを見ていたら全国で「自殺が多発している駅」ランキングというものがありました。参考にどうぞ。

 

zasshi.news.yahoo.co.jp

 

清水建二

参考文献

  1. Dinkel, J. Baumert, N. Erazo, N., K.H. Ladwig, “Jumping, lying, wandering: Analysis of suicidal behavior patterns in 1,004 suicidal acts on the German railway network”, Journal of Psychiatric Research, 45, pp.121-125, 2011.

Clarke, R., & Poyner, B. (1994). Preventing suicide on the London underground. Social Science & Medicine, 38(3), 443-446.

Cocks RA. Study of 100 patients injured by London underground trains 1981-6. BMJ.

1987;295:1527–1529.

F.G. Guggenheim, A.D. Weisman, A. D., “Suicide in the subway. Publicly witnessed attempts of 50 cases”, Journal of Nervous and Mental Disease, 155, pp.404-409, 1972.

Gaylord, M., & Lester, D. (1994). Suicide in the Hong Kong subway. Social Science & Medicine, 38(3), 427-430.

Lukaschek, K., Baumert, J., & Ladwig, K. H. (2011). Behaviour patterns preceding a railway suicide: Explorative study of German federal police officers' experiences. BMC Public Health, 4(11), 620.

O'Donnell, I., Farmer, R., & Catalan, J. (1996). Explaining suicide: The views of survivors of serious suicide attempts. British Journal of Psychiatry, 168(-), 780.

Rådbo, H., & Andersson, R. (2012). Patterns of suicide and other trespassing fatalities on state-owned railways in greater Stockholm; implications for prevention. International Journal of Environmental Research and Public Health, 9(772-780)

Ratnayake R, Links PS, Eynan R: Suicidal behaviour on subway systems: a review of the epidemiology. J Urban Health 2007, 84:766-781

 

 

プラットホームのボディー・ランゲージー鉄道自殺編①

 

鉄道のプラットホームの人々の動きをふと眺めていると、携帯を使っている人、本や新聞を読んでいる人、広告や空などを眺めている人、一緒にいる人と会話している人…と、さまざまです。

 

こうした人々はみな、電車に乗り込む束の間を過ごす、という目的を持った人々です。しかし、バックやカバンなど自分の持ち物を床に置く、靴を脱ぐ、ホームをふらつく、顔を覆う…などの行為をしている人がいたら、電車に乗るという目的とは違う目的を持っているかも知れません。

 

本日のブログから3回にわたって、「プラットホームのボディー・ランゲージー鉄道自殺編」と題し、鉄道自殺の意図を持った人々の行動について考えてみたいと思います。

 

まずはこちらの動画をご覧下さい(最悪の結末は防げたバージョンですのでご安心下さい)。

 

 

何か普通とは違う動きを感じましたか?

 

これまでの研究から鉄道自殺をする意図を持つ人々が行う特別な行動は以下の通りだということがわかっています。

 

・バックやカバン、IDカードなどの自分の持ち物を落とすか、置く。

・靴を脱ぐ。

・アイコンタクトを避ける。

・不審なしぐさ、異常な行動をする。

・不審なコミュニケーションをする。

・目的なくふらつく。

・顔を覆う。

 

先の動画の人物は「目的なくふらつく」というパターンに一番近いと思います。 

続きは次回お送り致します。

 

 

清水建二