微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

プラットホームのボディー・ランゲージー鉄道自殺編③

 

今回のブログでは、鉄道自殺者の病歴、心理、表情について扱いたいと思います。

 

鉄道自殺者の病歴

 

地下鉄を利用した自殺者に関する28の調査をまとめた研究によると(Ratnayake, Links, & Eynan, 2007)、地下鉄自殺を試みた人々の大部分は、重度の精神病の影響を受けていた可能性があり、自殺の前に病院に訪れていた可能性が指摘されています。具体的な病名としては、統合失調症、気質性精神病、うつ病、妄想症、その他精神病・神経症が報告されています。

 

鉄道自殺の心理と現実

 

鉄道自殺が未遂に終わった人々の証言によれば、鉄道自殺を選択した理由は、高い確率で死ぬことが出来ると思ったからだと述べています(O'Donnellら, 1996)。

 

しかし、鉄道自殺の方法とその死亡率をまとめた報告によると、鉄道自殺が必ずしも死に直結しないことがわかっています。鉄道自殺者が自殺を試みる方法は大きく4つのパターンに分類されています(Guggenhein & Weisman, 1972)。飛び降り(jumpers)、寝そべり(liers)、接触(touchers)、ぶらつき(wanderes)の4つです。飛び降りとは、接近する列車に向かって飛び込んだり、倒れ込んだりする行為のことです。寝そべりとは、線路に横になり(大抵はうつ伏せの状態)、列車が来るのを待つか、列車が出発するのを待つ行為です。接触とは、電気系統に触れる行為です。ぶらつきとは、線路に沿って歩き、列車に衝突する行為です。

 

2002年から2006年の期間にドイツで発生した鉄道自殺に関する調査報告によると(Ladwigら, 2009)、寝そべりが最も死亡率が高く、飛び降りが最も死亡率が低い、ということがわかっています(表1参照)。

 

表1:鉄道自殺の類型別動向

 

 

飛び降り

寝そべり

ぶらつき

発生率

発生率

32.2%

32.6%

34.2%

場所

 

 

 

 

 

プラットホーム含む駅周辺

46.6%

24.9%

28.5%

 

線路が開けている場所

23.6%

38.1%

38.4%

死亡率

死亡率

29.1%

35.7%

35.2%

出典:Ladwigら, 2009を参考に筆者作成。

注:発生率に関しては、1,004件、場所死亡率に関しては993件の鉄道自殺・未遂の類型のまとめである。詳細は、Ladwigら, 2009を参照のこと。

 

プラットフォームから見えるところに「飛び降りても、死ぬ確率30%(ドイツの場合)」、そんな看板がひょっとしたら鉄道自殺予防に効果的なのかも知れません。

 

ちなみに日本の場合、飛び降りの死亡率は、ドイツに比べずっと高いです。

電車の車高の高さとかが関係するのでしょうか。ナゾです。

 

自殺意図を隠している者の表情

 

多くの調査によれば、鉄道自殺者が衝動的に自殺をしたというよりも、自殺願望が蓄積し、計画的に鉄道自殺を選択していることを報告しています(Guggenhein & Weisman, 1972)。このことを前提とするならば、鉄道自殺を望む人々は、自殺を実現させるという目的であり、その目的を確実に成功させるためには、自殺意図を表情に出さないように行動している可能性が考えられます。

 

自殺意図に直結する表情というものは特定されていませんが、意図や感情を抑制するときに動く表情筋については色々とわかっていることから、そうした表情筋の動きを検知することで、自殺願望を抱いている人を見つける可能性を高められるかも知れません。

 

今回で一旦このシリーズは終了です。

鉄道自殺防止には、防護柵や監視カメラ(人が一定時間白い線を越え続けている警告音が鳴るシステム)など機械制御のシステムがかなり功をなしていると思います。しかし、機械では防ぎきれない隙間・できないことを人間の目と手を通して、バランスよく自殺予防に役立てられればよいのではないかと思っています。

 

 

清水建二

参考文献

Dinkel, J. Baumert, N. Erazo, N., K.H. Ladwig. (2011). “Jumping, lying, wandering: Analysis of suicidal behavior patterns in 1,004 suicidal acts on the German railway network”, Journal of Psychiatric Research, 45, pp.121-125.

Clarke, R., & Poyner, B. (1994). Preventing suicide on the London underground. Social Science & Medicine, 38(3), 443-446.

Cocks RA. Study of 100 patients injured by London underground trains 1981-6. BMJ.

1987;295:1527–1529.

F.G. Guggenheim, A.D. Weisman, A. D., “Suicide in the subway. Publicly witnessed attempts of 50 cases”, Journal of Nervous and Mental Disease, 155, pp.404-409, 1972.

Gaylord, M., & Lester, D. (1994). Suicide in the Hong Kong subway. Social Science & Medicine, 38(3), 427-430.

Lukaschek, K., Baumert, J., & Ladwig, K. H. (2011). Behaviour patterns preceding a railway suicide: Explorative study of German federal police officers' experiences. BMC Public Health, 4(11), 620.

O'Donnell, I., Farmer, R., & Catalan, J. (1996). Explaining suicide: The views of survivors of serious suicide attempts. British Journal of Psychiatry, 168(-), 780.

Rådbo, H., & Andersson, R. (2012). Patterns of suicide and other trespassing fatalities on state-owned railways in greater Stockholm; implications for prevention. International Journal of Environmental Research and Public Health, 9(772-780)

Ratnayake R, Links PS, Eynan R: Suicidal behaviour on subway systems: a review of the epidemiology. J Urban Health 2007, 84:766-781