「ウソのサインである」とは、正直者とウソつきとを分けることが出来るサインのことです。こうしたサインの特定を求めて100年以上にわたり科学研究が重ねられています。
良く知られる有名なウソのサインとして「瞬きが増加する」「鼻にさわる」という動きがあります。結論から言いますと、科学的にはこれらの動きはウソのサインとはいえない、と立証されています。公平を期して正確に言えば、これらのサインをウソのサインだと述べている論文は少ないです。
あらゆる研究の検証結果から、大方のウソ研究者の見方としては、「瞬きが増加する」「鼻にさわる」という動きの観察される頻度は、ウソを疑われている正直者にもウソつきにも差が観られないため、これらの動きから両者を区別することはできない、というものです。
しかし、これらのサインは何らかのきっかけで私たちの脳裏にウソのサインとして固定化してしまっています。今回はある「事件」を通じてこのサインについて、比較の重要性について考えたいと思います。
かつてクリントン元大統領に不倫疑惑がかけられました。この出来事は、当時、大変センセーショナルなスキャンダルになり多くのメディアに取り上げられ、会見映像を開いたクリントン氏の表情やしぐさはウソのサインを検証する科学論文の分析材料にまでなりました。
ことの結末としては、クリントン氏は不倫を認めています。
当時から現在にかけ、この不倫否定会見のクリントン氏の表情やしぐさが様々な専門家に分析されています。その方法は、不倫を否定するクリントン氏の会見映像を観て、非言語行動、特に瞬きの増加や鼻をさわる回数を数えます。次に普段のなんでもないときのクリントン氏の会見映像を観て、同じく瞬きの増加や鼻をさわる回数を数えます。そしてそれらの回数を比べるという方法です。
検証の結果、不倫会見時のクリントン氏の瞬きの量と鼻をさわる回数が、普通の会見時と比べて、はるかに多いことがわかりました。そしてこの検証をもって、瞬きの増加や鼻をさわる回数の増加をウソのサインとしています。
はっきりと申し上げますが…
これは全くナンセンスな方法です。この検証方法では、そうしたサインをウソのサインとして全くもって認めることなど出来ません。こうした手法を取っているからいつまで経っても非言語科学が「あやしい」ものだというレッテルがつきまとうような気がしています。
なぜこの手法では全くもってダメなのでしょうか?
答えは…次回のブログで。
清水建二
参考文献
Hirsch A.R., Wolf C.J. (2001). Practical methods for detecting mendacity: A case study. Journal of the American Academy of Psychiatry and the Law, 29, 438–444.