微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

目の動きからウソを見抜くことはできるのか?―NLP理論の検証編

 

最初にこちらの映像をご覧ください。

元FBI捜査官がウソの様々なサインについて説明しています。

本日はその中から目の動きに注目してみたいと思います。

 

目の動きからウソを見抜くことはできるのでしょうか?目の動きから他者のウソを見抜く技術として、NLP神経言語プログラミング)が提唱する理論が有名です。

 

NLPの理論によると、右利きの人が、右上を見上げることは想像している状態を意味し、左上を見上げることは過去の記憶を思い出している状態を意味すると説明しています。元々のNLPの理論では、右上を見上げる=想像している状態が、人がウソをついている状態であるという見解をしているわけではないのですが、多くのNLPの実践者がこの考え方からウソを見抜くことが出来ると提唱しています。

 

NLPの実践者がウソのシグナルとして提唱している考えは、右上=想像=ウソ・左上=記憶=真実というものです。

 

果たしてこのシグナルからウソを見抜くことが出来るのでしょうか?このことを検証した3つの実験から結論を言いますと…

 

ウソを見抜くことは出来ない

 

ということがわかりました。どんな実験かご紹介します。

 

実験1では、実験参加者を「ウソをつく」人と「真実を話す」人に分け、それぞれにある事柄についてウソか真実かを話してもらいます。その結果、ウソを話す人は右上を見て、真実を話す人は左上を見る、という関係は見出されませんでした。

 

実験2では、NLP理論を学んだ人と何も学んでいない人に、話をしている人がウソをついているか真実を話しているかを目の動きを手がかりに判断してもらいます。その結果、NLP理論を学んだ人と何も学んでいない人との間には、ウソを見抜く精度に差がないことがわかりました。

 

実験3では、自分の子どもがいなくなってしまい情報提供を呼びかけている親の映像を多数用意します。一方の映像は、本当に子どもが第三者に誘拐もしくは殺害されてしまった親の映像です。もう一方の映像は、自らの手で子どもを殺害した親の映像です。それぞれの親が子どもがいなくなる前の状況や情報提供を呼びかけているときの目の動きが計測されました。その結果、右上=ウソ、左上=真実という関係は見出されませんでした。

 

これらの検証結果から、NLPの理論に則った方法では、目の動きからウソを見抜くことは出来ない、という結論になります。

 

学んだことを何でもかんでも批判的に見る姿勢は精神衛生上よくないと思います。しかし自分がよって立つ理論や考え方、信念、もっと大きな視点で言えば、世間の常識や当たり前だと考えられている知見に対して、時に立ち止ってその妥当性を考えてみる、健全な批判精神を持つということはとても大切だと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Wiseman, R., Watt, C., ten Brinke, L., Porter, S., Couper, S-L., & Rankin, C. (2012). The eyes don’t have it: Lie detection and neuro-linguistic programming. PLoS ONE, 7, 1-5. doi: 10.1371/journal.pone.0040259.