これまで14回に渡ってウソ検知の科学をお送りしてきました。本日でシーズン1終了ということになります。また頃合いを見計らってシーズン2を始めたいと思います。
シーズン1最終回の今回扱う話題は、ウソ検知の科学の旧世代と新世代に関する話です。
日本の書店においてあるウソ検知に関する書籍(アメリカ人向けに書かれたウソ検知本の翻訳版も含む)で扱っている内容は、そのほとんど全てがウソ検知の科学の旧世代の研究に関するものです。
ウソ検知の科学旧世代とは何でしょうか?
正直者とウソつきを観察することで、
「人がウソをつくと○○のようなサインが出る。」
と言った解説がされているものは、言語的・非言語的サイン問わず、旧世代の内容です。鋭い方はもうお気づきだと思われますが、本ブログのシリーズ「ウソ検知の科学」もその内容のほとんどが旧世代の内容です。
世代の変わり目は、2003年です。
旧世代と新世代、何が違うのでしょうか?
ウソ観察からウソ誘導へ、というフレーズに形容することが出来ます。
ウソ研究の大家であるDepauloら(2003)が100以上のウソ検知の研究をメタ分析という手法で調査したことをきっかけにウソ検知の科学は新世代の幕開けを迎えました。
Depauloらが見出したことは、衝撃的でした。Depauloらの主張を大胆にまとめると、
「これまで考えられてきた大半のウソの言語・非言語サイン(※1)は、科学的証拠が薄い。科学的証拠を見出せるものも存在するが、そのサインは、正直者とウソつきを比較してみても、わずかな違いにしか過ぎず、その変化をとらえることは容易ではない(※2)。」
という研究者にとっても実務家にとっても衝撃的な内容でした。それもそのはず、研究者は、ウソつきにはウソ特有のサインがあると信じ、100年以上にわたって研究し続け、実務家(法の執行官ら)もそう信じ、捜査活動をしてきたのです。それにも関わらず、いわゆる「ピノキオの鼻」というものはない、ということがわかったのです。
Depauloらの研究結果から、ウソのサインが出現するのを「ただ待って、観察する」という手法では、ウソを検知することが難しいということがわかったのです。そこで、新世代のウソ検知の科学研究では、尋問や取り調べの場において、質問法や取り調べ手順を工夫することで、正直者には正直な証言が出やすいように、ウソつきにはウソのサインが出やすいような環境を作り出す研究が着手され始めたのです。
「環境を適切に設定することでウソのサインを出現しやすくする。」
これが新世代のウソ検知科学の研究方針です。
この新世代の科学によって生み出された質問法の中には、ウソを見抜く上で非常に有効なものが見出されています。旧世代の方法でウソ検知を行うと50%のウソ検知率だったものが、新世代の方法を使うと80%までウソ検知率を高める方法も見出されています。
新世代のウソ検知法にはどんなものがあるのでしょうか?
凄く気になりませんか?
気になりますよね?
まだウソ検知を扱う書籍には全くと言っていいほど紹介されていません(専門書や一部の研究者によって書かれた書籍を除く)。
新世代のウソ検知の科学、
シーズン2でドンドンご紹介しようと思います。
こうご期待!
※1この研究はウソを検知するための特別な機械、ポリグラフ検査器や脳波測定器を使わず、ウソのサインをとらえることが出来るか、という前提に基づいています。
※2ウソのサインを認識することが、「容易ではない」ことと「不可能である」ということは全く異なることですので、ご注意下さい。微表情の例で言えば、確かに微表情を認識することは、トレーニングなしでは「容易ではない」でしょう。しかしそれは「不可能である」わけではありません。
清水建二
参考文献
DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129, 74-118.