微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

第6回『裏切り者は顔に出る-上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける』制作裏話

 

 単著としては4冊目、共著・翻訳版を合わせますと7冊目となります清水建二の新刊『裏切り者は顔に出る-上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける』が中央公論新社より2022年2月9日に発売されます。本日は、本書の制作ストーリー第6回目。本書の最終章である第五章について紹介したいと思います。

 

 第五章は、「日常に潜む危険サイン」です。具体的には次の通りです。

 

・離婚率九〇パーセントの表情

・子どものウソは泥棒の始まり?

・消費者の言うことと表情は四割が一致しない

・ビジネスで活きるテクニック

・接待で相手の苦手なものをススメてしまう人

・美味しい表情は無表情!?

・「自分は良いことを言った!」と思っているときが一番キケン!

・部下からの突然の退職願。「大丈夫です!」は要注意

・自分を大きく見せるウソ……そこまで行ったら詐欺です

・採用面接でコミュニケーション能力を見抜く

・感情認識AIの落とし穴

・<コラム>犬とのコミュニケーション

 

 本章では、日常に潜むウソや人間関係に関わるリスクについて説明しています。これまでの章を参考にしつつ、本書の内容を読んで頂ければ、リスクに対する心構えとなります。また、いざ類似のリスクに遭遇したとき、リスクを回避する可能性を高められるでしょう。

 

 本章で最も伝えたいことでもあり、全ての章の締めとして、私が最も伝えたいメッセージは、体験と科学的見方を行ったり来たりする大切さ、です。「科学的方法」「科学的に実証済み」等と名を打っている一般書は、書店に行けば山ほどあります。「〇〇大学の△△教授によると、記憶力を高めるには▭▭するとよい」「年収の高い人は、統計的に〇〇な人なので××すべき」「科学的にウソのサインは▭▭と言うことがわかっているため、このサインがあればウソを見抜くことが出来る」等々書かれています。

 

 著者の方々、それ自分で出来ます?自分で実践しています?その方法でどのくらいの方々が目的を達成しましたか?

 

 私は、声を大にして聞きたいです。著者が実践していないこと、再現出来ないことを書くのは、無責任じゃないですか、と。「~した方がよい」「~すべき」「~出来る」というアドバイスに実践・体験が伴っていなければ、それは机上の空論と言われても仕方ないでしょう(なお、大学教授や科学者などによって書かれる学術的事実や科学知見をまとめた書籍には、「べき」という価値判断を反映した言葉は使われません。知見のレビュー本ならばー教科書、レビュー論文集、辞典や図鑑を想像して下さい-著者の価値判断や思想が反映されない方が適切であり、知見を純粋に知りたい読者にとって、そうした無色透明の記述がよく、通常、著者本人の体験は求められません。また、書籍の中に科学的な発見が書かれる場合、基礎科学の知見であったり、実用段階にはない知見もあり、机上の空論に見えてしまうだけの知見もあります。しかし、それらの知見は偉大な発見の土台となるかも知れない可能性を秘めています)。

 

 一方、体験をベースにした書籍があります。成功を収めた経営者による人生訓や経験談、ビジネス指南本は出版されない日はないほどポピュラーです。現マナー講師が、接客係時代に体験したお客さまとの心の触れ合いを描いた本などもあります。本書のテーマであるウソの見抜き方ですと、元警察官などによって書かれた書籍があり、著者が体験した事件や取り調べをベースに描かれています。そうした方々の実話は、ときにスリリング、ときにハートフルで、とても楽しく、そして有難く、読むことが出来ます。また、記述の中に筆者と類似の体験を見つけると、「わかる!」「そう!やっぱり、そうだよね」と共感することが出来ます。

 

 こうした個々の体験が特殊な体験として描かれることに、何も問題はありません(問題どころか、様々な筆者の人生を追体験する感覚を味わえたり、著者独自の考え方や生き方、物の捉え方を知ることが出来、こうした書籍に敬意を抱きます)。問題が生じ得るのは、筆者が体験した個々の体験が抽象化され、方法論として紹介されるときです。その体験は、本当に一般化できるほどの再現性を持っているのだろうか?特殊な状況下において、あるいは、いくつかの条件が揃うとき、有効な方法になるのではないか?だとしたら、その状況・条件とはなんだろう?そんなふうに思うのです。

 

 英語に例えたらよいでしょうか。英語を話すことが出来ない英語の先生って違和感を抱きませんか。英語の文法や語源に詳しいのに全然話せない。英語の理論は知っているけど、それを使うという体験がない・乏しいため、話せない。一方、英語圏で生活し、英語はペラペラなのだけど、自身が話している文法を解説することは出来ない。解説をお願いすると一応は説明してくれるものの、納得出来ない。その説明が当てはまらない事象が多い。

 

 誰かに方法論を提供する立場にある場合、両方のスキルが必要だと私は考えます。

 

 より良く生きるために。より快適に生きるために。そしてその方法を誰かに伝えるために、私が採った方法。それは、体験と科学を行き来することです。科学的に有効だとされる方法を実生活で試してみる。論文で発表されたものと同様・類似の実験をして、再現率を確かめてみる。再現率が高い方法は採用。低いものは不採用、あるいは、高められる方法を検討。科学的知見が明らかに現実世界と乖離している、体験とは全く異なる、そんなときは、体験から得られた知見を科学実験に持ち込み、実験し、科学知見に修正を迫る。こうした試みを私自身はもちろんのこと、受講生・研修生の皆さんにしてもらい、常に検証し続けています。こうした試行錯誤の末、生き延びた知見、ウソと心理を推測する方法を本書に書きました。

 

 体験と科学のハイブリッド本。清水建二著『裏切り者は顔に出る-上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける』中央公論新社(2022年)2月9日発売です。ご予約はこちらから。

https://www.amazon.co.jp/dp/4121507541/ref=nosim?tag=chuko1hp-22&fbclid=IwAR1anHmIzIWLSVaDKdkryzNF_6T8qOxb6pzmcsePYGNAuzYue8A55ZIigp8

 

では、また次回。

 

 

清水建二