本日は、表情分析の技術を習得されたい方にアドバイスをさせて頂きたいと思います。
まず表情分析とは、
表情筋の動きを客観的に記述し、その動きを感情や思考に紐づけし、感情や思考が生じた理由を推定すること、
と私は定義しています。
この技術を習得するには次の3つについて深い学び及びトレーニングをする必要があります。
①表情筋の動きを客観的に記述すること
表情筋の動きを客観的に分析するためのマニュアルを習得する段階です。表情分析のためのマニュアルはいくつかありますが世界標準と呼べるマニュアルはFACSです。正式にはFacial Action Coding System:顔面動作符号化システムと言います。
近年、自動的にFACSコーディングしてくれるアプリがありますが、精密な分析においてはFACSを習得した認定FACSコーダーの専門家による分析(視認)の方が、人の顔の動きを正確に分析することが出来ます。
また、いつの日か人間の専門家を越える精度を持つ自動化FACSアプリが開発されたとしても、FACSを習得する必要はあると考えます。
アプリで出来ても自力で出来ない、という状況は、統計ソフトを使えてもそのロジックがわからない、計算機で計算できても自力で四則計算出来ない、ということと同じだからです。
ちなみに日本で表情分析を行っている専門家の中でFACSを習得している方はほとんどいません。自分なりの表情分析の手法を用いているか、経験則か、顔の筋肉に直接電極を差して計測するような特別な計測機器を用いている方が大半です。
さてFACSを習得しても、いわゆる人の心は読めません。次の段階に進みます。
②感情や思考と紐づけすること
FACSでは顔の動きをAUという記号でコード化するのですが、このAUはあくまでも記号です。言わば、顔の動きの目盛りのようなものです。AUの組み合わせがどんな感情や思考を意味すのか、つまりAUと感情・思考とを紐づけする必要があります。
それにはどうすればよいか。
FACSマニュアルの中に代表的なAUと感情との関連性については書いてありますが、本当に代表的なものだけですので、実務の分析においてFACSを活かすには、大量の論文を読み込む必要があります。
ある実験状況で〇〇なAUが観測された、自己報告による感情変化とAUとに●〇な関連が観測された、ある自律神経系の動きとAUの動きに■■な関係が観測された…etc
こうした知見の蓄積を収集し、AUの意味付けを行います。FACSの習得には半年ほどの集中的な学習を要しますが、AUと感情・思考との紐づけを出来るようになることの方がFACS習得の何倍も大変な時間と労力が必要です。
さて、この段階においてAUと感情・思考との紐づけが出来ました。しかし、このことを持って人の心が読める、にはなりません。
単純な話ですが、目の前にいる人が鼻のまわりにしわを寄せる=AU9=嫌悪表情を浮かべていることがわかったとしても、なぜ嫌悪なのか、何に対して嫌悪なのかはわかりません。つまり嫌悪の源泉はこの段階ではわからないのです。
したがいまして、次の段階に進みます。
③感情や思考が生じた理由について推定すること
いわゆる人の心を読む段階です。これは究極的には、名人芸、暗黙知、経験則の世界です。
ある文脈で、ある人物が、〇〇な表情を▽▽なタイミングで表出させた。その理由は…
こう語るには、その文脈や人物についての深い理解が必要です。もちろんある程度は科学論文から文脈や人物との感情の関連性について学ぶことが可能です。分析過程において分析対象人物の「表情のクセ」からその人物の心に論理的に迫ることも出来るでしょう。
しかし人間の心の究極的な世界はまだまだわからないことだらけです。したがいまして、心の推定精度を高めるには、常日頃の科学知見の収集だけでなく、リアルな生を感覚的に、体験的に生きていく必要があるのです。①や②よりずっと大変ですが、ずっと楽しい過程なのです。
①の世界を垣間見たい方は、拙著『顔としぐさで相手を見抜く』フォレスト出版を読んでみて下さい。
②と③の世界を垣間見たい方は、拙著『微表情を見抜く技術』飛鳥新社を読んでみて下さい。
認定FACSコーダーである専門家から表情分析について直接学ばれたい方は、弊社の講座にいらして下さい。次回開講予定は、10月です。8月くらいにお申し込みを開始させて頂きます。弊社HPのニュース・イベント欄にコッソリ表示させますので、ご興味ある方は8月くらいからチェックしてみて下さい。
清水建二