様々な観察調査において、自閉症のお子さんの表情は、正常な発達段階にいるお子さん(※)の表情と比べ、変化に乏しいということが知られています(例えば、RP Goin-Kochel, BJ Myers, 2005)。これは、自閉症のお子さんに内在する感情機能の異常によるところが大きいようです。
さてそんな中、自閉症児の匂いに対する反応が調査されました。
匂いというものは様々な感情を引き起こす刺激であるため、嗅覚を介した自閉症児の感情反応に関心が当てられたのです。
調査対象の子どもは、8歳~14歳の自閉症の子どもたちと正常な発達段階にいる子どもたちです。彼らに様々な不快なにおいや快適な香りを嗅いでもらいます。匂いを嗅いでいる表情がカメラにより記録され、子どもたちからは様々な匂いに対する感想・感情を聞き取ります。
さてどんなことがわかったでしょうか?
調査の結果、
自閉症の子どもも正常な発達段階にいる子どもも表情反応にほとんど違いは見られませんでした。両者のグループとも不快な匂いに対しては鼻の周りにしわを寄せる「嫌悪」表情をし、快適な香りに対しては口角を引き上げる「幸福」表情を見せました。しかし、両者のグループにおいて匂いに対する感想に違いがありました。自閉症の子どもたちは「普通」の子どもたちに比べ、匂いに対する感想・感情を言葉にすることが上手く出来ませんでした。
これは、匂いを感じ取る能力に関わる偏桃体とそれを言語化する能力に関わる前頭前皮質との連結が自閉症の子どもの場合、上手く機能していないことを意味すると考えられています。
私の提案ですが、自閉症の子どもの嗅覚に問題がないとするならば、彼らに様々な匂いを嗅いでもらい、「これは喜び」「これは嫌悪」「これは悲しみ」などというように匂いと感情ラベルとの関連付けトレーニングを行えば、自閉症の子どもたちに自らの感情に意識的になるきっかけを生み出せるのではないかと思います。
名付けて「共感覚トレーニング」!
上手く行きますかね?
今度、自閉症の専門家に会ったら聞いてみます。
※自閉症のお子さんが異常な発達段階にいるというレッテルを貼っている意図はありません。便宜上、自閉症や他の精神的な疾患を患っていないお子さんを正常な発達段階と呼んでいます。
清水建二
参考文献
RP Goin-Kochel, BJ Myers. (2005). Parental report of early autistic symptoms: Differences in ages of detection and frequencies of characteristics among three autism-spectrum disorders, Journal on Developmental Disabilities 11 (2), 21-39
Legisa, J., Messinger, D. S., Kermol, E., and Marlier, L. (2012). Emotional responses to odors in children with high-functioning autism: autonomic arousal, facial behavior and self-report. J. Autism Dev. Disord. 43, 869–879.