仏教では、「右仏、左わが身」などと言います。イスラム教では、右手は食事のために、左手は汚い仕事をするために使い、右足からモスクに入り、左足からトイレに入る、と言います。インドや中国では、左手で食事を摂ることがタブー視されています。
さらに言語の例で考えてみましょう。英語では、”the right answer”は「正解」、”my right-hand man”は「私の右腕(頼りになるという意味)」を意味し、”two left feet”は「不器用」、”out in left field”は「期待外れの見解」を意味します。ラテン語では、右は「技術」を表し、左は「悪魔」を表します。フランス語やドイツ語などの他の言語でも、右はポジティブ、左はネガティブに結びつけた言い回しを見つけることが出来ます。
様々な文化や言語において、右を良いものと、左を悪いものと関連づける傾向があります。この現象を解き明かそうと「身体特異性仮説(The body specificity hypothesis)」(Casasanto,2009)と言うものが考え出されました。この仮説を簡単に言いますと、身体の構造が思考に影響を与え、その思考は、特定の身体動作として表れる、というものです。
この仮説を裏付けるためにいくつかの実験がなされました(Casasanto,2009)。ある実験で、実験参加者に、隣り合わせに座る紙に描かれた2匹のエイリアンのキャラをそれぞれ判定してもらいます。右利きの参加者は、右側に座っているエイリアンを、「賢い」「幸せ」「正直」「魅力的」だと判定し、左利きの参加者は、左側に座っているエイリアンを、「賢い」「幸せ」「正直」「魅力的」だと判定する傾向が観察されました。このエイリアンの選好を左右に並べられた商品、左右に並ぶ求職者に変えても同様の結果が観察されました。
実験の結果、私たちは利き腕の方にあるものを「良いもの」ととらえる傾向にあることが示されたのです。特段、右に選好が偏っているわけではないようです。この実験で示された傾向はどのくらい現実世界でも当てはまるのか気になりますよね?買い物しているときに無意識に右利きの人は右にある商品を選んでしまっているのでしょうか?右利きの面接官は知らず知らずに右側にいる応募者に選好を感じるのでしょうか?
この現象、もう少し詰めていきます。
ではまた次回。
清水建二
参考文献
Casasanto, D. (2009). Embodiment of abstract concepts: Good and bad in right- and left-handers. Journal of Experimental Psychology: General, 138(3), 351–367.