微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

「羞恥」を示さない子

 

 私が学習塾で中学生の勉強を教えていたとき、問題ミスの指摘に対し、「怒り」表情で反応していた子がいました。ミスを犯してしまったときのような恥ずかしい場面では、羞恥心を感じるのが一般的なのですが、彼は「怒り」反応だったのです。私が教えていたこの子はどんな精神世界の持ち主だったのでしょうか?ある研究から考えてみたいと思います。

 

 子どもの性格特性と表情表出との関係を調査した研究があります。この調査では、各性格特性を持つ子どもたちに面接官と対面式のテストをしてもらい、そのときの子どもの表情が分析されました。12歳から13歳の70人の子どもが対象となりました。

 

この研究で観察された対面式のテストでは、子どもは問題を答えた直後に問題の正解・不正解を面接官に告げられるため、自分が問題に不正解だった場合、「羞恥」的な場面におかれることになります。

 

調査の結果、こうした「羞恥」場面に置かれた場合、性格に偏りのない子どもは「羞恥」表情を示す傾向にある一方で、自己感情の抑制度が低い性格特性を持つ子どもは、「怒り」表情を示す傾向にある、ということがわかりました。

 

 子どもたちにとって立場上上位にある面接官の指摘に対し、「怒り」表情で反応するこうした子どもたちをどのようにとらえたらよいのでしょうか?

 

この場面だけを単純に切り取れば、こうした子どもたちはテストに重要性を感じず、ミスの指摘に「苛立った」感情を抑えきれなかった、という現象に過ぎないのかも知れません。

 

しかし、自己のミスに対して「羞恥」表情をとる人は、他者から好感をもたれ、同情心を集め、社会的に受け入れられる傾向にあること、「羞恥」表情をとらない人は、これらとは逆の反応を他者から受ける傾向にあることが様々な研究によってわかっています。

 

 こうした研究から私の教え子の事例を鑑みると、彼が「羞恥」場面において、その表情を示せないばかりか「怒り」表情を示し続ける状況が、どこかで改善されない限り、この性格特性は持続され、いつの日か、社会的につまはじきにされる事態になり得るのではないかということが危惧されます。彼の態度の改善をはかるべくあらゆる努力をしていましたが、残念ながら、彼が変わることはありませんでした。非常に残念かついまだに心に引っ掛かっている思い出です。

 

 

 

清水建二

参考文献

Keltner D, Moffitt T, Stouthamer-Loeber M (1995): Facial expressions of emotion and psychopathology in adolescent boys. Journal of Abnormal Psychology 104:644–652.