微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

「科捜研の女シーズン16」の微表情監修こぼれ話②

 

前篇・後編と「科捜研の女シーズン16」をご覧いただけたでしょうか?

後編の微表情的注目ポイントは、

 

信頼できる筋肉

 

です!

 

信頼できる筋肉とは、自然に感情を抱いていると動くのに、その感情がないときには意図的に動かすことのできない筋肉のことを言います。

 

信頼できる筋肉にはどんな種類があるかと言うと、「眉が引き上がりながら眉間に力が入る」「眉がハノ字になる」「口角が引き下げられる」「眼輪筋が動く」などがあります。

 

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例えば「眉が引き上がりながら眉間に力が入る」動きは、私たちが恐怖を抱くと自然に動くのですが、この動きを意図的に行おうとするとナカナカ出来ません。

 

両眉を引き上げるのは簡単にできると思います。

眉間にしわを寄せるのも簡単だと思います。

しかし、二つの動きを同じタイミングで行うのは難しいのです。

 

こうした事実があるため、ある人の顔に浮かんだ表情が、本物なのか偽物なのか、検討をつけることができるのです。

 

ドラマの中に登場した信頼できる筋肉も、この「眉が引き上がりながら眉間に力が入る」でしたね。事件を解決するための重要なポイントとして取り上げられていました。

 

劇中の女優さん(岡本玲さん)、この表情の演技がリアルでとても素敵でしたね。理論上は、意図的に(演技で)信頼できる筋肉は動かせないハズなのですが…さすが女優さん、すばらしい!監督の演技指導・感情誘導だけでなく、彼女の内発的なパッションが、偽物ではなく、本物の恐怖心を彼女の心に呼び起こしたのだと思います。

 

現実の世界でもこの信頼できる筋肉の有無は、海外の犯罪捜査で活用されています。例えば、子どもが行方不明になって涙の訴えをしている母親が、本当に悲しみを感じているのかいないのかなどを推定するために「眉がハノ字になる」などの動きの有無を手がかりの一つとするのです。

 

リアルな科学的描写と共に描かれる「科捜研の女シーズン16」、今後の展開も気になりますね。矢萩准教授(尾美としのりさん)はもう登場しないのでしょうかね。プリーズ、カムバック!

 

 

清水建二

 

眼輪筋(AU6)のナゾ

 

眉が中央に引き寄せられる、上まぶたが引き上げられる、下まぶたに力が入れられる、唇が上下からプレスされる。

 

これらの表情筋が全て同時に起きると、典型的な怒り表情が出来上がります。これらの筋肉が同時に全て動けば、怒り感情の表れを意味するのですが、これらの表情筋が個別に動くと、様々な意味の可能性が生じてきます。

 

例えば、「眉が中央に引き寄せられる」動きだけが顔に表れれば、怒りの微(細)表情、もしくは熟考の可能性が考えられます。「唇が上下からプレスされる」動きだけが顔に表れれば、怒りの微(細)表情、感情抑制表情、もしくは認知的高負担の顔の動きの可能性が考えられます。

 

このように個々の表情筋には、複合的な意味があり、状況に応じて解釈に注意が必要です。しかし、表情筋の中には、コンビネーションとしては重要な意味があるものの、個別の動きとしてはどんな意味があるのかがハッキリしていないものがあります。

 

それが眼輪筋です。

 

眼輪筋とは目の周りを囲む筋肉で、眼輪筋が動くと目尻にシワを作ります。いわゆる「カラスの足あと」と呼ばれるシワです。

 

眼輪筋の動きは、いくつかの表情や顔の動きのコンビネーションの中で観られます。例えば、

 

心から楽しいとき、口角が上がると同時に眼輪筋も動きます。

苦痛を感じるとき、まぶたに力が入れられると同時に眼輪筋も動きます。

苦悩を感じるとき、眉がハノ字になり、眉間にしわがより、同時に眼輪筋も動きます。

激しい怒りのとき、怒りに関わる表情筋と同時に眼輪筋も動きます。

 

しかし、他の表情筋の動きを伴わず、眼輪筋だけが動くことはないのです。

 

眼輪筋の意味は何なのでしょうか?

 

表情の意味を強める働きがあるのではないかと考える研究者もいます。

 

確かに、愛想笑いの場合もありますが、本当に幸福を感じていても幸福感が弱いときには眼輪筋の動きを伴わないで口角だけが引き上げられる、幸福の微細表情の実例を挙げることができます。

 

眼輪筋は表情の意味を強める、納得できる仮説です。しかし、私の知る限り、まだ検証されていないと思います。したがって、ハッキリわかっているわけではありません。

 

「わからないことを知っていることはプロの証」

 

という私の口癖で、この歯切れの悪さを覆いつつ、本稿の締めとさせて頂きたいと思います。

 

 

清水建二

参考文献

眼輪筋のナゾについて、以下の書籍のp.205~p.226がヒントを与えてくれます。

The Psychology of Facial Expression: 0 (Studies in Emotion and Social Interaction)

The Psychology of Facial Expression: 0 (Studies in Emotion and Social Interaction)

 

 

感情と認知は二つで一つ!?

 

感情的になっているときと考え事をしているときとでは、心の中は全く違うような感じがします。感情的な状態と理性的な状態と言えば、状態の違いがわかりやすいかも知れません。

 

しかし、私たちが感情を抱くとき認知的な評価を伴わせているという説(認知的評価説)があります。

 

例えば、仕事であるプロジェクトが失敗に終わるとします。その原因が部下ならば、怒りや軽蔑を抱き、上司ならば反感という感情を抱く傾向になるでしょう。

 

その原因が自分でかつチームのリーダーのような立場なら、後悔を抱き、自分が部下の立場なら、罪悪感や恥を抱く傾向になるでしょう。

 

逆に仕事が成功した場合、その原因が部下や上司ならば、その人物に好感を覚え、成功要因が自分ならば、自分に誇りを抱きます。

 

このように何かの原因がどこにあるのか、自分の立場はどうであるか、それが起こる可能性はどのくらいか、などの評価を伴いながら感情は生じるという考えです。

 

次の図を参照して頂きながら、もう少し厳密に説明してみます。

 

図:感情と認知との関係性を示す図

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出典:Roseman, I.J., Antoniou, A.A., Jose, P.E. Appraisal determinants of emotions: constructing a more accurate and comprehensive theory, Cognition and Emotion 10:3, 1996, 241-277.

 

図上のSurprise・Hope・Fearを例に説明します。

 

環境を原因として(Circumstance-Caused)、期待に反したことが起こると(Unexpected)、それが肯定・否定的な事態問わず(Positive Emotions/Negative Emotions)、私たちは驚き(Surprise)を抱きます。

 

環境を原因として、起きる可能性が不確かだと(Uncertain)、それが肯定的な事態なら希望(Hope)を、それが否定的な事態なら恐怖(Fear)を抱きます。

 

もう二つ、好感(Liking)と誇り(Pride)をみてみましょう。他人が原因で(Other-Caused)肯定的な事態ならば、好感を抱きます。自分が原因で(Self-Caused)、肯定的な事態ならば、誇りを抱きます。

 

お金持ちになりたいな~とぼーっと思っているだけならば、(とらえどこなきところに)希望。

棚ぼた的に誰かがお金をくれたら、(その人に)好感。

自分で財産を築いたら、(自分に)誇り。

 

感情と認知は、見えないところで様々な掛け合いをしているようです。

 

 

清水建二

参考文献

Roseman, I.J., Antoniou, A.A., Jose, P.E. Appraisal determinants of emotions: constructing a more accurate and comprehensive theory, Cognition and Emotion 10:3, 1996, 241-277.

「科捜研の女シーズン16」の微表情監修こぼれ話

 

本日は、10月20日(木)20時からスタートした「科捜研の女シーズン16」に関するお話です。みなさま、第一話をご覧になられたでしょうか。実は、この作品の微表情に関わる部分の監修を私、清水がさせて頂きました。

 

製作陣の方々に微表情のレクチャーをさせて頂いたり、台本のセリフを正確に訂正させて頂いたり、リアルな発言を提案させて頂いたりしました。

 

「○○のような発言は、普通するものですか?」「実際どんな場面で使われていますか?」「微表情からウソがわかるのですか?」といった微表情に関する様々な疑問を熱心にして頂き、微表情のリアルを伝えさせて頂く仕事をしている私にとって非常に熱が入り、楽しい時間&日々でした。

 

また「微表情の世界をドラマ化するならぜひ監修をしたい」という想いが前々からございましたので、番組制作の裏側を知ることができ、同時にリアルな微表情の世界を映像化して頂けたことは嬉しい限りです。

 

第一話では微表情のさわりが紹介されていました。微表情好きの方にぜひ注目して頂きたい点と私が「やっぱり、良い!」と思わせて頂いた点がございます。

 

まずは注目ポイントです。榊マリコさんが尋問されている冒頭シーンです。表情分析のデモンストレーションで、榊さんの微表情の変化に合わせて、AU(アクション・ユニット)が表示されているところに注目です。AUとは表情筋が連動して動くユニットのことで、AUのコンビネーションによって隠された感情や複合的な感情を特定できるのです。

 

この手法は実際の研究や様々な現場で本当に使われています。ちなみに、本物の表情分析検知システムは何種類かありますが、私も使うオススメは下記のシステムです。

 

 

また画面にさりげなく、AU1 Inner Brow Raise、AU2 Outer Brow Raise、AU4 Brow Lowerとかいう表示がなされていたのも、凄く!リアルでした(表情分析を勉強された方なら共感されるハズ!笑)。

 

専門知識を持っている人がみても「お!」っとなるつくり。 

製作陣の方々、本当に細かいところまで凄い!う~ん、プロですね。

 

次に私の「やっぱり、良い!」と思うセリフは、日野さんの、このシステムはウソ発見に使えるという発言の後になされたこのセリフです。

 

「いえ、このシステムはウソ発見器ではありません。微表情という感情のブレを見逃さず、普遍的な感情を読みとるシステムです。前後の文脈から、さらに深い感情を明らかにする足がかりになるんです。

 

というセリフです。

 

微表情の発見=ウソの発見という誤解が本当に多いので、こうしたメディアを通じて正確な描写をして頂けたことは凄く嬉しいです(私が「このセリフは、こうした方が本物です。」と強く推奨させて頂いたことが反映されて感謝です!)。

 

第二話は、いよいよ微表情を使って事件解決?!

11月3日(木)放送です。乞うご期待ください。

 

おまけ

製作スタッフの方が、私への取材時のことを書いて下さっています。なかなか面白いです!ぜひこちらもご覧ください。

www.toei.co.jp

 

 

清水建二

『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』にかけた想い

 

2016年11月4日に『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』という書籍を上梓させて頂きます。私、清水にとって2016年7月22日に発売された『0.2秒のホンネ微表情を見抜く技術』に続く二冊目の著作となります。

 

本書の特徴は次の3つです。

 

①「顔・しぐさ・声・質問法」を解説した観察総合本

本書には、顔・しぐさ・声、そして質問法から他者の本音を見抜く方法が書かれています。顔だけではないのです。しぐさだけでもないのです。顔・しぐさ・声・質問法を駆使して、目の前の人の本音を察しよう、という本なのです。

コミュニケーションというのは、総合力です。伝えるスキルだけでは不十分です。見抜くスキルだけでも不十分です。世の中には、伝えるスキルを説明する良書がたくさんあります。しかし、見抜くスキルを総合的、かつ実用的に扱った本が少ないように思います。だから本書では、コミュニケーションを円滑にしていくうえで、声なき声にいかに気付き、本音を察すればよいのかを、様々な観点から解説させて頂きました。

 

②最新科学の知見に基づいた質問法を公開

本音を察するためには、他者を観ているだけでなく、こちらからその人に積極的に問いかけていく必要もあります。やみくもに質問してしまえば、貴重な時間は失われ、必要な情報も得ることが出来ません。限られた時間の中で他者のことを真面目に知ろうとするならば、考え抜かれた質問法が必要なのです。

本書では近年(2000年代)研究が進んでいる他者をより良く知る科学的質問法を紹介しています。日本で販売されている質問法の書籍には、私の知る限り掲載されていない最新の質問法も多く解説させて頂いております。

 

③エクササイズ・実践編・無料動画講義でインプットをアウトプット

人・心・本音・ウソを見抜く系の書籍は世の中に数多ありますが、そのほとんどは知識を紹介・解説して終わってしまうものです(それらが価値の低い書籍だとは思いませんよ、念のため)。本書は、知識の紹介だけにとどまらず、それが実際の世界、日常・ビジネスシーンでどのように使い得るのかのプロセスを見える化しています。実際の会話シーン、弊社の実験画像・コンサル事案、私の無料動画講座(詳しくは本書の巻末をご覧ください)で、本書に書かれた知識が、現実のコミュニケーション場面でどのように表れるかを紹介&解説しています。

説明的に書かれた文章が、カギ括弧のある会話調に表されるとどうなるのか、写真や絵が動画になるとどうなるのか、知識を血肉化するのは、いかに大変かを実感して頂きながらも感情世界の多彩さを楽しんで頂ければと思います。

 

私のコミュニケーションに関する知識と技術のコアとなるものをまとめさせて頂いた自信作です。対人コミュニケーションに興味のある方にぜひ読み込んで頂きたい著作です。

 

 

清水建二

「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く

「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く

 

 

「表情・しぐさ分析総合コース」がスタートしました!

 

本日、2016年10月22日(土)より「表情・しぐさ分析総合コース」がスタートしました。

 

本コースは、1ヶ月に4時間×6ヶ月、合計24時間にわたって、表情・しぐさの具体的な意味のインプットや読みとりトレーニング、ビジネス・日常ケースでの活用ワーク・アウトプットを学習して頂く基礎コースです。

 

本コースをしっかり受講して頂いた後には、他人や自分の感情の機微を敏感に感じとることができ、様々な対人コミュニケーションにおいて、どのようにコミュニケーションの流れを方向づければ良いのかがわかるようになると思います。

 

もちろん、その巧拙は本コースで学んで頂いたことをいかにご自身の職場状況に関連付け、日々、研磨していくかに大きく左右されます。

 

 

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表情・しぐさ総合分析コースLesson1の教材

 

また、理論ありきの体験と、理論なしの体験とでは、体験から学べることが大きく異なる、言い方を変えれば、体験の見え方・捉え方・学習の仕方が大きく異なってくると思います。例えるならば、公式を知らずに数学の問題を解くのか、公式を知った上で数学の問題を解くのか、といったようなものだと思われます。

 

本コースは、これまでモヤモヤしていた人の想いを、科学の光で可能な限り照らし出したい、可能な限り明瞭に感じとりたい、そんな方々のための学びの場です。

 

受講生の皆様、6ヶ月間、共に頑張りましょう!

 

 

おまけ

本コース、「表情・しぐさ分析総合コース」の次回開講は、2017年4月以降を予定しております。興味・ご関心のある方は、弊社HPのニュース欄のチェックをお願いいたします。

 

 

清水建二

ウソを見抜くにはどのように繰り返して質問すればよいのか?

 

本日は、久々にウソ検知ネタをご紹介しましょう。

 

警察の取調べ室に入ると、何度も何度も同じことを聞かれます。それは犯罪容疑者に限らず、事件の目撃者や捜査協力者を問いません。もちろん何度も同じ質問をするのは、証言の信憑性を判断したり、確かな記憶を確認するためです。

 

直感的に言えば、ウソつきは同じことを繰り返し話せば話すほど、証言の一貫性が崩れ、ウソが露呈してしまうのではないかと考えられます。だから、何度も同じことを質問するのです。

 

しかし、こんな意見もあります。

 

「ウソつきはウソをつき続けることで、ウソの記憶が固まり、ウソをつくのが上手くなる。」

 

確かにこうした現象を目にすることがあります。そうなると、同じ証言を繰り返し述べさせることが真偽を確かめる上で、逆効果になる可能性も出てきます。

 

それではどうしたらよいのか?

 

こうした問題を解決する質問法が開発されています。

同質問を繰り返す質問の形式を工夫することで、真偽判定が行いやすくなる科学的質問法があるのです。

 

その方法とは、最初の聞き取りのとき、回答者(容疑者・目撃者・協力者問わず)に調査事項を自由に述べてもらいます。つまり、オープン質問で、回答者に調査事項を質問します。

 

しばらく時間をおいて…

 

二回目の聞き取りのとき、回答者に出来事の時系列や証言された順番を変えて質問します。

 

例えば、最初の聞き取り時において、5つの出来事を聞き取ったとします。その出来事の時系列や証言内容を整理します。そして二回目の聞き取りでは、その出来事を逆順に聞く、もしくは時系列をバラバラにする、証言がなされた順をバラバラにして質問するという具合です。

 

そうすると何が起きるのか…

 

この質問法をすると、ウソつきは繰り返し同じ証言をし、証言の一貫性を保とうとします。しかし、真実を述べている者は、本当の記憶を再構築して答えることになるため、その過程において証言の一貫性が崩れることはあるものの、最初の証言に新たな情報を加えたり、最初の証言内容をより詳しく説明するようになるのです。

 

この手法は、異なる観点から刺激を受けることによって新たな想起が促されるという記憶の性質を利用した質問法です。

 

証言を繰り返しているだけなのか、記憶を再構築しているのか、ウソとホントを見分ける大切なポイントの一つです。

 

 

清水建二

参考文献

Haneen Deeb, Vrij Aldert, Hope Lorraine, Samantha Mann, Pär-Anders Granhag et al. Suspects' consistency in statements concerning two events when different question formats are used, Journal of Investigative Psychology and Offender Profiling, Volume Epub ahead of print, 2016

Shaw D. J., Vrij A., Leal S., Mann S., Hillman J., Granhag P. A., and Fisher R. P. (2014), ‘We'll Take It from Here’: The Effect of Changing Interviewers in Information Gathering Interviews, Appl. Cognit. Psychol., 28, pages 908–916.