微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

微表情研究家の観察日記1-オカマバーと占い

 

オカマバーに行って来たときの話。

 

ある飲み屋街の一角にオカマバーがあった。

 

男性同性愛者バーと書いた方が、ポリコレ的には正しいのだろうけど、その店の看板にオカマバーと目立つように書かれてあったため、オカマと呼ぶ方が敬意を示していることになると思料。

 

バーに入ると、カウンターに店主。ピンクと白のドレスに身を包んだおじさん。小柄で化粧はバッチリだけど、10メートルくらい離れていればわからないかも知れないけど、この距離だと、おじさん。

 

「はじめて?」

 

「はい」。

 

「こちらにどうぞ」。

 

料金説明をしてもらい、飲み放題に入っている赤ワインをオーダー。

 

店には、店主の彼女と私のみ。

 

この店は、コロナが日本に蔓延するちょっと前に開店したんだとか。

 

「タイミング最悪ね」。

 

「営業出来ていたんですか?」

 

「まぁ、常連さんが来てくれたから」。

 

「常連さんというと、前のお店からの?」

 

彼女は、関西某所のオカマバーで一従業員としてずっと働いていたようで、ついに独立。

 

お互いの身の上話をしていたところ、お客さんが一人入店。

 

「今、他のお客さんがいるから、あまり接客できないけど」。

 

彼女は、女性のお客さんにあまり関心がない様子。その女性のお客さんのオーダーを取り、オーダーの飲み物をそのお客さんの前に置くと、私の前に戻ってきた。

 

彼女と私が、他愛もない話をしているのを、二つ空けた席から声もなく微妙に頷く女性のお客さん。

 

居心地が悪くなって来た。そんなに話も盛り上がらない。帰りたくなってきたけど、帰るには悪いくらい早い。

 

「ちょっと、あなた、40にもなって『一杯いかが?』とか言えないの?」

 

言える。言えますよ。普段は。言い過ぎるくらい言ってますよ。

っていうか、ジェンダーという常識は破っても、年齢という常識は破らないのね、

 

と思う。

 

「じゃあ、一杯どうぞ」。

 

「ありがと」。

 

この店の看板に占いが出来ると書いてあったのを思い出す。

 

「占い出来るんですか?」

 

「タロット、手相、姓名判断、色々できるわよ。小学生の頃からやっているの」。

 

「そうねぇ、あなたは、頑固なところがある…。でも、ときに驚くほど柔軟な発想も出来る。どう?思い当たるでしょ?」。

 

コールドリーディングかよ!

 

と心の中で盛大に叫ぶ。

 

でも、お願いする。お願いしないと間が持たない。

 

「じゃあ、お願いします」。

 

「はい、3,000円」。

 

「え?今、払うんですか?後でまとめて」。

 

「サービスだから」。

 

色々モヤモヤするものの、お願いする。

 

全く印象に残らないほど、内容は覚えていないが、唯一覚えていることがある。

 

「あなた、26歳か27歳のときに人生を左右する出来事があったでしょ?」

 

「はぁ…」。

 

「あったはず」。

 

じっと、私の目を見る店主。

 

虚ろな目で見返す私。

 

平均的に社会人になって5~6年の男性なら、仕事に慣れ、部下が出来、信頼も集まって来る。

大きなプロジェクトを任されたり、自分の可能性を再考し、転職を決意したり。

ビジネスパートナーが見つかって独立、なんて考えるのもこの時期かも知れない。

プライベートでは、将来の伴侶も見つかる時期というのもあるかも知れない。

 

一方、そのときの私は、大学院生真っ只中。

そのときの出会いや出来事を一つ一つ取り上げて、

今に通じる価値を事細かに洗い出し見出そうと思えば、見つかるかも知れない。

しかし、そうした多大な努力をしなければ、その可能性すら判断できないレベルである。

 

もう帰ろう。

 

「じゃ、お会計お願いします」。

 

「はい、ちょっと待ってね…え~と、シャンパン頂いたから、2万1千円ね」。

 

シャンパン飲んでたのかよ。

 

と心の中で呟く。

 

「カード使えますか?」

 

「うちカード使えないの。現金でお願いね」。

 

「現金あったかな?」

 

「40なら10万くらい財布に入れておくものでしょ」。

 

やはり、彼女にとって、年齢という常識は、鉄壁のようだ。

 

「はい、じゃあ、これで」。

 

どっと疲れた。

 

店外まで見送りに来てくれた彼女。

 

「今日は、ありがとう。そうそう、今週末でこの店閉めるの。また縁があったらどこかで会いましょう」。

 

コロナ禍直前に店を開き、収束し始めたタイミングで店をたたむ。

 

占いは!!

 

 

清水建二