前回に引き続き、子どもとウソとの関係についてご紹介いたします。
3歳から6歳の子どもを対象に次のような実験がなされました(Nysse-Carrisら, 2011)。
様々な子どもと母親のペアが待合室に通されます。その待合室には、おもちゃが置かれています。母親と子どもはそのおもちゃで遊びます。しばらく遊んでいると、母親がおもちゃを壊してしまいます。
母親は子どもに、
「おもちゃを壊したことは誰にも言わないで。バレてしまったら大変なことになるの。もしバレなければ、ご褒美をあげるわ。」
と言います。
その後、子どもは壊れたおもちゃについてインタビューを受けます。母親が壊したと正直に話した子どももいれば、何も知らないとウソをいう子どももいました。このインタビューは記録されます。
記録されたインタビュー映像を、子どもの専門家や司法関係者を含めた専門家と素人の学生に観てもらい、誰がウソをついているか判定してもらいます。
実験の結果、
①専門家及び学生を問わず、子どものウソをチャンスレベルよりは高い精度で見抜くことが出来た。
➡しかし、驚くべきほど高い精度ではなく、先行研究が見出してきた大人のウソの検知率に比べ、子どものウソを見抜ける精度は、わずかに高い、という程度です。
②年少の子どものウソに比べ、年長の子どものウソの方を、専門家はより高い精度で見抜くことが出来た。
➡年少の子どもに比べ、年長の子どものウソの方がバレやすいのは、変に思うかも知れません。なぜなら、年長の子どもの方が、認知力も発達し、ウソも上手くつけるだろうと考えられるからです。子どものウソに関する先行研究も確かに、その方向性を示しています。しかし、今回の研究のように、「失うものが大きいウソ」をつかなくてはいけない場合、年少に比べ年長の子どもの方が事の重大性を意識します。この重大性を意識しているからこそ、ウソのサインが出やすくなったと考えられています。認知力が高いからこそ、ウソのサインが出やすくなるといった現象です。
③ウソを見抜く自信とウソを見抜く精度には相関がなかった。
➡ウソ検知に関しては、自信と能力は、関係ないようです。
個人的には②の結果が興味深いですね。ウソをつくことの重大性を意識しているからこそ、ウソのサインが生じやすくなる。これは大人にも当てはまることです。
罪悪感がなかったり、ウソをついている認識がなかったり、ウソがバレても何も失うものがない場合、ウソのサインはほぼ表れてきません。微表情の専門家と言えども、お手上げなのです。
清水建二
参考文献
Nysse-Carris, K. L., Bottoms, B. L., & Salerno, J. M. (2011). Experts' and novices abilities to detect children's high-stakes lies of omission. Psychology, Public Policy, and Law, 17 (1), 76–98.