前回、ウソ検知実験の多くは、大学の実験室において行われ、ウソをつく人々は大学生なので警察官が実務で直面するウソ状況とは違う、ということを書きました。そこで本日は、本当の犯罪に関する証言に対して警察官はウソを正しく判定できるのかについて調査した研究をご紹介いたします。
ウソ検知実験の多くにおいて、ウソを判定する側は、実験参加者の大学生が、ウソをついているか、もしくは真実を述べているかの様子のみを観察して、その真偽を判定しています。この状況は実際の犯罪の取り調べの場面と比べ、2つの点で大きく異なっています。
一つに、実際の取り調べの場面では、容疑者と対話をしながら進めていきますが、実験では観察することしかできません。例えば、取り調べ中、犯罪に関連する話をしているとき、容疑者の挙動がおかしくなり、手が震えだしたりしたとします。実際の取調ならば、犯罪を犯した者しか知り得ない事実を知っているかどうかを容疑者に追及していくことにより、挙動の変化が、冤罪なのに逮捕されてしまう恐れからくる恐怖なのか、自己の犯した犯罪が露呈することへの恐怖なのか、確かめることができます。しかし実験ではそれができません。二つに、実験室でウソをつくことは、実際の犯罪についてのウソをつくことに比べ、心理的及び認知的負担が軽い、ということです。様々な実験から心理的・認知的負担が高いウソは負担が軽いウソに比べ、ウソが検知されやすいことがわかっています(例えば、DePaulo, Kirkendol, Tang, & O’Brien, 1988)。
警察官のウソ検知能力を正しく判定するために、二つ目の欠点を考慮した実験がなされています。Mannら(2003)は、本物の警察の取り調べの様子を記録した映像を用い、その映像に映る容疑者がウソをついているか、真実を述べているかを警察官らに判定してもらいました。判定の結果、警察官らのウソ検知の正解率は、65%でした。正確には、真実を真実と正しく判定できた割合は64%で、嘘を嘘と正しく判定できた割合は66%でした。この数字は、偶然レベルを超える割合であり、これまでの実験室実験から得られた正答率よりも大きいことがわかります。
とどのつまり、ウソをつく負担が大きい方が、感情や認知のブレが生じやすくなる、したがって、ウソも検知しやすくなる、ということですね。
次回は、ウソを検知する能力に秀でた人々をご紹介したいと思います。
清水建二
参考文献
DePaulo, B. M., Kirkendol, S. E., Tang, J., & O'Brien, T. P. (1988). The motivational
impairment effect in the communication of deception: Replications and extensions. Journal of Nonverbal Behavior, 12, 177-201.
Mann, S., Vrij, A., & Bull, R. (in press). Detecting true lies: Police officers’ ability to detect suspects’ lies. Journal of Applied Psychology.