先週は、ウソのサインが生じ得るかどうかということに関して文化がどう影響するかをご紹介しました。ウソをつく側の問題についてでした。本日は、ウソを見抜く側の問題についてご紹介いたします。
異なる文化圏に属する人の話の真偽を判定し、その精度を測るいくつかの実験によると(例えば、Bond & Atoum, 2000)、同文化に属する人を判定したときと同じ検知精度か、それよりも劣る、ということが見出されています。
異文化に属する人の真実の言動を、ウソをついている、と誤って判定してしまう理由はいくつもあります。代表的な理由として、表示規則の誤読、外国語使用に伴う感情・認知的負担サインの誤読、ステレオタイプ、偏見、自国文化至上主義があります。
表示規則の誤読に関して以下のような例があります。
・笑顔の評価:アメリカ人は笑顔を誠実なサインとしてとらえる傾向にありますが、日本人は笑顔を必ずしも誠実なサインととらえるわけではなく、不誠実な笑顔もあると考え、笑顔に対してネガティブにとらえる傾向があります(Matsumoto & Kudoh, 1993)。
・視線の表示規則:日本人は相手に視線を向け続けることを失礼と感じ、相手の目を見続けることに抵抗を感じますが、全く逆の傾向を示す文化もあります。後者の文化圏に属する人にとってみれば、視線をあまり相手に向けない日本人の話し方を不誠実であると判断する可能性があります。
外国語使用に伴う感情・認知的負担のサインの誤読
外国語を使うとき、バイリンガルでない限り、母国語を使うときよりも感情のブレが起きたり、認知的負担が高くなるために、それがウソのサインとして解釈される恐れがあることが指摘されています(例えば、Cheng & Broadhurst, 2005)。
ステレオタイプ、偏見、自国文化至上主義
白人の証言者と黒人の証言者が、証言中に同じ表情をしていても、それに対する評価が異なることがVrijとWinkel(1991)の実験から明らかにされています。
異なる文化圏の方々とコンタクトをとるときには誤解をしないように気を付けねばなりませんね。 外国語を教えてくれる教室は沢山ありますが、外国人のしぐさを体系的に教えてくれるところはないかしら~と思う今日この頃です。
さて、本日まで11回にわたりお送りしてきました「新時代のウソ検知の科学」ですが、本日で終了です。まだまだネタ的には続けられるのですが、自主規制ということで(もっと知りたい方は、弊社のセミナーや研修に来てくださいませ)。次回のシリーズでは、ウソ検知からもう少し視野を大きくして様々なインタビュー技法を紹介する投稿をしていこうかと検討中です。警察官などの法の執行官、面接官、営業マン、人と面と向かってやり取りをする業務が要の方、そんな方々に少しでも有益なヒントをご紹介できればと思っています。
清水建二
参考文献
Bond, C.F. Jr, & Atoum, A.O. (2000). International deception. Personality and Social Psychology Bulletin, 26(3), 385-395.
Matsumoto, D., & Kudoh, T. (1993). American-Japanese cultural differences in attributions of personality based on smiles. Journal of Nonverbal Behavior, 17(4), 231-243.
Broadhurst, Roderic G. & Cheng, Keens Hiu Wan (2005) The Detection of Deception: The Effects of First and Second Language on Lie Detection Ability. Psychiatry, Psychology and Law, 12(1), pp. 107-118.
Vrij, A., & Winkle, F. W. (1991). Cultural patterns in Dutch and Surinam nonverbal behavior: An analysis of simulated police/citizen encounters. Journal of Nonverbal Behavior, 15(3), 169-184.