微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

瞑想で高める共感力

 

本日は瞑想が感情に与える影響について考察した研究を紹介したいと思います。

 

結論から書きますと、瞑想を3ヶ月間行ったグループと行わなかったグループを比べると、瞑想を行ったグループは、他者が苦しんでいる状況を目にすると悲しみ表情を浮かべ、怒り・軽蔑・嫌悪という拒否反応を示す表情を浮かべない傾向にあることがわかりました。

 

この結果は、瞑想を行うことで他人の苦しみに対する共感力が高まることを示唆しています。

 

実験プロセスの概略は次の通りです。

 

①60人の実験参加者をランダムに瞑想トレーニンググループと何もしないグループに分ける。

②それぞれのグループは、他者が苦しんでいる様子が写っている映像を観る。このとき実験参加者の表情が計測される。また実験参加者はどんな感情を抱いたか自己申告する。

③瞑想トレーニンググループは、宗教指導者の指導のもと適切な瞑想トレーニングを行う。何もしないグループは普通に生活を送る。

④②同様にそれぞれのグループは、他者が苦しんでいる様子が写っている映像を観る。このとき実験参加者の表情が計測される。また実験参加者はどんな感情を抱いたか自己申告する。

 

実験の結果は、瞑想トレーニンググループは、他者の苦しみに悲しみ表情を浮かべ、怒り・軽蔑・嫌悪表情を浮かべない傾向にあることがわかりました。

 

悲しみは共感感情に関連している感情です。苦しんでいる他者に悲しみ感情を抱く人は、その人に苦しみに共感し、その人物を助ける行動に移る傾向が高いことが予想されます。怒り・軽蔑・嫌悪感情は拒否反応に関連している感情です。苦しんでいる他者に怒り・軽蔑・嫌悪感情を抱く人は、その人の苦しみから距離を置こうとし、その人物を助けない行動に移る傾向が高いことが予想されます。

 

さらに②のとき、瞑想トレーニング前ではグループ間に表情の違いがないということ、もう一つは、④のとき、感情の自己申告にグループ間の違いがないということがわかりました。このことから瞑想の効果があること、また自己申告ではわからない感情の違いが表情を計測することでわかる、ということがわかります。

 

瞑想は、自律神経を整える、自分を見つめなおせるといった効果もあり、一部のビジネスマンに人気があります。しかし今回の研究が示すように、瞑想は人に対する感情・行動傾向にも影響を及ぼし得るのです。とはいえ、適切な指導者のもとで3ヶ月、瞑想トレーニングを受けた場合、ですからご注意を。ときどき見聞きするファション的な瞑想が感情にどのような効果をもたらすかはわかりません。

 

次回、この研究に絡めて就活や面接の向き合い方について書かせて頂こうと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Rosenberg, EL, Zanesco, AP, King, BG, Aichele, SR, Jacobs, TL, Bridwell, DA, MacLean, KA, Shaver, PR, Ferrer, E, Sahdra, BK, Lavy, S, Wallace, BA, and Saron, CD (2015). Intensive Meditation Training Influences Emotional Responses to Suffering. Emotion. Online First Publication, May 4, 2015.

鈴木登士彦『成功をつかむ強運な体のつくり方』大和書房の書評

 

本日は、鈴木登士彦さん執筆の『成功をつかむ強運な体のつくり方』大和書房(2017925)の書評をさせて頂こうと思います。

 

本書を読んでいる最中、そして読後、私が痛烈に感じたことは、

 

科学理論と経験知との空間に彩を与えてくれる書

 

ということです。

 

本書のp.207に、「エビデンスがあっても実際にはあまり効果のない施術や、その反対にエビデンスが無いけれども抜群に効果が出る施術」とあります。

 

私は表情分析の専門家として学術書や学術論文を日々読んでいて思うことがあります。「理論はわかる、エビデンスもしっかりしている、でも実際、どうやるの?現実を変えるだけの効果をどう出すの?」そんなことを想うことが多々あります。

 

しかし、本書は科学理論だけでは不明瞭な「外姿力(がいしりょく:人物の人となり、魅力、「運気」が外見に反映している姿を意味する著者のことば)」の高め方を膨大な経験値から得られた具体的な方法で教えてくれます。

 

また科学理論はなくとも、おそらくそうであろう、と思われる経験則先行の外姿力の高め方も様々に披露され、人体が変化していく不思議を教えてくれます。

 

私の専門の世界に寄せて具体的に書かせて頂きます。表情フィードバック仮説という理論があります。表情フィードバックとは、楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなるということを説明する理論です。この理論は多くの実験によって実証されていますが、これを用いて現実世界をどう生きるか、生きるべきか、生きたらよいか、どう活用すべきか、ということは通常、科学の世界では語られません。しかし本書には、表情フィードバック仮説という言葉は使われておりませんが、まさに表情フィードバック仮説の地に足のついた活かし方とその効用が鮮明に語られているのです(表情フィードバック仮説と同様の効果が身体動作にもあることが科学的にわかっていますが、これについても身体の使い方を具体的にどうすれば生き方をよりよくできるのか、外姿力を高められるかということが本書には語られています)。

 

他にも、表情の緊張具合とビジネス力との関係性や(p.74~)、食歴が人相、顔つきを作るという話(p.96~)、万国共通な外姿力(p.151)、外界の出来事の日々の受け止め方と表情との関係性(p.166~)などの話題は、特に表情・感情科学との関連性から興味深く、感覚的に大いに納得すると同時により詳しい因果プロセスを解明したい欲求に駆られてきます。

 

   著者の鈴木さんは、これまで10万人のクライアントを観てきた手技療法家で、成功者の体の共通点を発見されたそうです。膨大かつ明確な経験則が基盤にあるため、巷の経験則本によくある安易に科学理論に寄せた見解をとるわけでなく、恣意的に科学理論を選択して自身の見解を擁護するわけでもなく、自信を持って、科学理論に即している方法、経験則に即している方法を紹介されているところに非常に好印象を受けます。

 

自分の感覚と頭脳を用いて、さらなる実感を得ていくために、本書で紹介された外姿力の高め方を実践していこうと思います。

 

まずは、私に最も響いた実践から、

 

筋トレと姿勢・腹筋が痙攣するくらいの大笑い・You are what you eat

 

を胸に、行動に移行・継続していこうと思います。

 

良い書籍に出会えました。

 

 

清水建二

書評文献 

成功をつかむ 強運な体のつくり方

成功をつかむ 強運な体のつくり方

 

 

 

 

 

埋め込まれた身体動作

 

まずはこちらの動画をご覧下さい。

 

 

何に気付かれますか?

ヘンリー王子の手の動き。

 

ヘンリー王子がメラニア夫人と正面を向き、カメラ撮影に応じるときに見せた手の動き、形。これはある意味を示すジェスチャー(cf. コルナ)か単にスーツのボタンを閉め忘れただけかその両方かに解釈が分かれるでしょう。

 

しかし、色々な情報を組み合わせると手の動きの意味を推測することが出来ます。興味がある方は自分で調べて直接清水に考えを教えて下さい(メール・電話などのお問い合わせはご勘弁をm(__)m)。

 

ところで、私が小学生のとき、「霊柩車が通ったとき親指を隠さなければ親の死に目に会えない」、そんな迷信が広がり、それを信じていた私は当時、霊柩車が通るたびに親指を隠したものです。「そんなことあるわけないや。」と思ったあとも、しばらくこの親指を隠すという行為は自然と続き、身体の動きのクセとは不思議だな~と思った記憶があります。

 

多くのジェスチャーは形や動きが同じでも、文化固有の意味が込められています。学習を経て身体に埋め込まれた文化のシグナルあるいはサインです。

 

外国語習得のプロセスにおいて、文法や発音、ロジックなどには焦点が当てられますが、ジェスチャーに焦点が当てられることはほとんどありません。

 

言語習得とジェスチャー習得を同時に行った方が、その言語のノリをマスターし、言語習得が加速度化するのだろうか?などと外国語を勉強していてふと感じるここ数年です。

 

 

清水建二

 

2017年9月26日(火)「雨上がりの『Aさんの話』~事情通に聞きました!~」に出演させて頂きました

 

「雨上がりの『Aさんの話』~事情通に聞きました!~」に出演させて頂きました。リアルタイムでは大阪でしか観れないようなのですが、Tverというシステムでどこでも放送後1週間、無料で観れるそうです。次のサイトから清水出演の様子を観ることが出来ます。よろしければ是非どうぞ。

 

tver.jp

 

さて、ここからはネタばれもあるのでテレビをご覧になった後に読まれた方が良いと思われます。

 

意識的にコントロール出来る筋肉と出来ない筋肉があります。コントロールとは「表情を意図的に作る」という意味と「表情を意図的に抑制する」という二つの意味があります。

 

前者の「作る」方が、いわゆる愛想笑いだったり、ウソ泣きと言われるものです。こうしたフリは、意図的に動かせない表情筋の有無で本当にその感情を抱いているのか否かを推測します。愛想笑いだったら目じりにしわがなく、ウソ泣きだったら眉はハノ字にならない、そんな塩梅です。表情筋の一部から感情の有無や強弱を推測するため、正確には微細表情というものから観ます。

 

しかし、人によっては意図的に動かせないハズの表情筋をコントロールできる方もいるため、この方法に加え、表情の出現タイミングや左右対称性なども勘案して最終的に感情の有無を推測することもあります。

 

愛想笑いは人に対する配慮の場合が多いため、その真偽を見抜ける能力があれば、愛想笑いをしている人のやさしさをビビットに感じることが出来ます。ですので私は愛想笑いが好きです。

 

後者の「抑制する」方が、微表情です。抑制しきれない感情が一瞬の表情として顔に漏洩するのです。この微表情を見抜くことが出来れば、その人の本当の感情に気付くことが出来るのです。番組ではウソを見抜くスキルとして紹介して頂きましたが、日常・ビジネスでもこのスキルは活躍します。接待先の先方が本当に今宵の食事を「美味しい」と感じているのか、プレゼントが本当に嬉しいのか、プレゼンで自分の説明が伝わっているのか、自分だけ話過ぎていないのか、交渉時先方はどの条件に重点を置いているのか、部下が仕事にどんなモチベーションを抱いているのかいないのか、なんてことを推測するときに活躍します。

 

今回は、表情・微表情の魅力を「ウソを見抜く」というテーマで紹介して頂きました。それ以外にも活用の場面は沢山あります。本番組を通じて、表情・微表情に興味を持って頂ければ嬉しいです。拙著『微表情を見抜く技術』では、表情・微表情読み取りのポイント及び相手の感情の流れを汲んだコミュニケーション方法を紹介させて頂いております。よろしければ是非に。

 

微表情を見抜く技術

微表情を見抜く技術

 

  

最後になりましたが、本番組制作にかかわって下さったスタッフの方々、タレントの方々、本当にありがとうございました。

 

 

清水建二

 

ドゥシェンヌ・マーカーは、感情の強さの表れか?

 

ドゥシェンヌ・スマイルという言葉を表情の勉強をされている方なら聞いたことがあると思います。平たく言えば、目が笑っている笑顔のことです。厳密に言えば、口角が引き上げられ(AU12)、かつ頬が引き上げられる(AU6)、場合によってはまぶたに力が入れられる(AU7)動きを伴った表情のことです。表情の見た目から説明すれば、口角が引き上げられ、目じりにしわが生じる笑顔ということになります。この目じりのしわのことを、カラスの足あとと呼んだり、この動きを発見したフランスの学者の名にちなんで、ドシェンヌ・マーカーなんて呼んだりします。

 

ダーウィンは、このドシェンヌ・マーカーを幸福感情と悲しみ感情の強さの表れだと仮定しており、この仮定は、幸福感情についてはその後(と言っても現代の)研究によって支持されています。しかし、悲しみ感情においては確かめられていませんでした。

 

そこでMattsonらは、親と遊んでいる赤ちゃんの幸福表情と親が突然真顔で反応したときの赤ちゃんの悲しみ表情を分析することで、ダーウィンの仮説を検証しました。結果、強い幸福及び悲しみ感情にはドゥシェンヌ・マーカー、つまり目じりにしわが生じることがわかりました。

 

赤ちゃんは、目じりにしわをよせ、わかりやすい表情をすることで周りの人々とコミュニケーションをとっていると考えられるのです。

 

関連した表情としては、痛み顔ですね。私たちが痛みを感じるとき、その刺激が強いと、目じりにしわが生じます。ということでドゥシェンヌ・マーカーは全ての感情や感覚の強さの表れだと言いたいところです。

 

しかし、そう簡単には抽象化出来ず、例えば、強い恐怖表情や怒り表情では、目が開かれます。恐怖では安全の確認、怒りでは破壊対象の確認のためです。したがって、強い恐怖・怒り感情の強さを示すマーカーは、目じりのしわでなく、「目が見開かれる」なのです。

 

表情ってホント複雑な現象ですが、一つ一つひも解いていくと発達心理学的な意味があったり、進化心理学的な意味があったりと、追及し甲斐のある分野だな、と日々勉強しながら感じています。

 

 

清水建二

参考文献

Mattson, W. I., Cohn, J. F., Mahoor, M. H., Gangi, D. N., & Messinger, D. S. (2013). Darwin’s Duchenne: Eye constriction during infant joy and distress. PLoS ONE, 8(11). doi: 10.1371/journal.pone.0080161.

2017年9月18日(月)キャリタス就活フォーラムDISCOイベント振り返り

 

本日は、月曜日に開催されましたキャリタス就活フォーラムby DISCO様の面接LABOイベントを振り返らせて頂こうと思います。

 

f:id:micro-expressions:20170918094055j:plain

 

東京ビックサイトの会場にて、11:00~12:00の回と12:30~13:30の回の2回登壇させて頂きました。

 

大まかな内容は参加された方の記憶にあることを前提として、これからも続けて頂きたいトレーニングを今一度、振り返らせて頂きたいと思います。次のスライドで内容を思い出して下さい。

 

f:id:micro-expressions:20170920120553p:plain

 

このトレーニング(ロールプレイング・ウォームアップ)は、就活セミナーだけでなく、新人社会人・営業・接客・交渉・リーダーシップ・情報収集研修などあらゆる場で行わせて頂いており、日常的に出来そうで出来ない、しかしひとたび意識すればコミュニケーション上達の起爆剤となるものです。

 

ぜひ就活中も、就活を終えて社会人になられた後でも意識的にトレーニング及び活用してみて下さい。コミュニケーションのレベルが2つも3つも上がります。

 

そんなこと出来るよ、と思われている方ほど実際には出来ないものです。どれだけの方が眉で会話の流れを読んでいるか実感するために、あらゆるコミュニケーション場面で敢えて眉を下げて相手の話を聞いてみて下さい。驚くほどこちらの熟考は気付かれないし、相手の会話パターンが適切に変わらないことを実感されると思います。

 

これが出来たら、出来つつあるなら次のレベルである各感情をサポートする会話・返答スキルに目を向けてみて下さい。拙著が参考になります。 

微表情を見抜く技術

微表情を見抜く技術

 

 

最後にもう一つ書籍のご紹介です。面接は準備が9割です。ご自分を適切にアピールするために次の書籍がオススメです。分量が多く全部読み準備するのは大変です。人生を決めるイベントなのですから本当はそれくらい大変でも何でもないのですが、物理的に時間が限られている方は自分が最も弱いポイントを読み、面接に備えたら良いでしょう。とても丁寧で細かなアドバイスが書いてあります。

 

新卒採用基準: 面接官はここを見ている

新卒採用基準: 面接官はここを見ている

 

 

就活ラストスパート、新たな世界の扉が開くのはもうすぐです。

 

 

清水建二

伝えることと読むことは、やっぱり表裏一体

 

企業や公官庁向けの研修コンテンツを作っていていつも思うことは、伝えることは読むことなんだな、ということです。そのコンテンツのメニューをいくつかご覧下さい。

 

・部下を不安にさせない仕事の伝え方

・部下を「感情」的に「叱る」方法

・会議で部下の自尊心を「ちょっと」上げる方法

・相手にささるアドバイスの伝え方

・感情別クレーム対処法

・集団の和を乱さない自分の感情の伝え方

・話さな過ぎない・話過ぎない意見の伝え方

 

一見すると上記のメニューは、自分の声色や態度、表情、姿勢、言葉の選び方を意識して、積極的に自分の想いを発信する方法に焦点を当てたような伝え方講座にありそうです。

 

一方で、空気研の伝え方は、相手の感情の流れを読めば自ずから伝え方の6割は到達している、というスタンスです。いわば、受動的伝え方と形容しましょうか。もちろん自分から積極的に意見や想いを発信する効果的な方法を学ぶことは大切と考えますが、相手の感情を把握しない伝え方はややもすると暴力的なコミュニケーションになることがあります。

 

様々な伝え方講座に参加させて頂くと、多くの講師の方々は相手のことを意識しつつ、自分から積極的に意見を発信する方法を教えてらっしゃいます。しかし、どう相手を意識するか、どんなタイミングで、相手のどんな感情の変化に応じて、もっと言えば、動的なコミュニケーションの流れの中で、どの伝え方を選択するべきか、ということに関しては曖昧な部分がまだ多いような印象を受けます(伝え方のプロは、そのあたりのスキルも暗黙知として持っておられ、読む能力もピカイチな方が多いです。ただ、ご自分のスキルを体系化して伝えられるほどの幅広い感情読解に関する専門知がないのだと思います)。

 

例えば、相手の性格別伝え方というものがあります。しかし、優しい性格の持ち主でも怒るときはあるわけであります。消極的な性格の持ち主でも、ときにその消極性の行動パターンに反した感情の起伏・行動の変化が生じるわけです。したがって一瞬一瞬変化する相手の感情を考慮した伝え方、受け止め方というのが大切だと私は思うのです。

 

そうした伝え方講座の間隙に空気研の伝え方アプローチが必須になってくるものと感じるのです。読まなければ伝えられない、読むから伝えられる、そんなふうに思うわけです。

 

 

清水建二