微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

表情に組み込まれたジェンダー

 

セックスとは生物学的に規定された性のことを言い、ジェンダーとは社会学的に規定された性のことを言います。社会学的に規定された性、平たく言えば「男らしさ・女らしさ」というものです。私たちは様々なジェンダーの着ぐるみをまとって社会生活を送っています。その中でも今回は感情表出に焦点を当ててみましょう。ジェンダーは私たちの感情の表し方にどんな影響を与えているのでしょうか?

 

男女の表情表出の差を検討した研究から考えてみます。

 

5つの文化圏に住む様々な年齢層の男女2000人を対象に実験がなされました。個々にパソコンの画面を通じて様々な動画広告を観てもらい、それぞれの広告が「どれくらい心地良く感じるか」を評価してもらいます。そのときの表情が表情検知アプリで計測されます。実験参加者の男女は自分たちの表情が計測されているかどうかはわかりません。しかしwebカメラが実験中作動していることを知っています(つまり誰か、この場合では研究者に観られている意識があるハズなのです)。

 

実験の結果、次のような男女の表情の違いが明らかとなりました。

 

①女性は男性に比べ、口角を引き上げる動きが多く、長く続くことがわかった。

②女性は男性に比べ、眉の内側が引き上げられる動きが多かった。

③男性は女性に比べ、眉を中央に引き寄せる動きが多く、長く続くことがわかった。

 

ざっくり言いますと、①②より、女性は笑顔と悲しみ表情を多く、長く見せ、③より、男性は熟考表情を多く、長く見せたということです。

 

同じ動画広告にこうした男女差が生じた理由を考えると、男女の感情の抱き方に生物学的な違いがあったからという解釈と「〇〇な刺激には△△に感じる必要がある」というような男女の感情表出の仕方に社会学的な規定があったからという解釈があり得ます。

 

生物学的な違いがないとは言い切れませんが、この研究をより細かく見ると、文化別に微妙に男女の表情差があることが示されており、このことから文化や社会が規定した男女の感情表出の仕方の方が強い影響を及ぼしているだろうことが推測されます。

 

女の表情と男の表情の行く末はどうなるのでしょうか?

今を生きながら考え、見つめ続けようと思います。

 

 

清水建二

参考文献

McDuff, D., Kodra, E., Kaliouby R. and LaFrance, M. A large-scale analysis of sex differences in facial expressions. PLOS One, 2017.

化粧された笑顔から受けとる印象

 

化粧された顔が他者にどんな印象を与えるかに関する研究は多数あり、科学実験の結果を持ち出すまでもなく、化粧顔は他者に好印象を与えることがわかっています。

 

印象研究の中でも、ズレに関する研究は興味深いです。化粧顔に対する自分の好みと他者の好みとの間にズレがあることや同性・異性の好みの間にズレがあることがわかっています。自己肯定感を高めるための化粧(=自分が納得することを重要視)なのか他者に魅せるための化粧(=他者が納得すれことを重要視)なのか、その両方の割合がどの程度交錯するかで、用途に応じて推奨される化粧という科学知見をもとにしたアドバイスが可能になるのかも知れません。

 

さてそんな化粧の印象研究の大部分は「化粧が施された真顔」を研究素材にしているのですが、「化粧をした状態に表情が加わるとどんな印象を他者に与えるか?」という「化粧が施された表情」の研究もわずかばかりですがあります。

 

化粧をしている真顔、化粧をしている笑顔、化粧をしていない真顔、化粧をしていない笑顔の女性の写真を用意し、それぞれの印象を実験参加者の男女に評価してもらいます。印象評価の結果、次のことがわかりました(表情に関係する結果のみを抜粋)。➡で清水の感想を書きます。

 

・化粧ありの顔は、美的魅力・性的魅力・健康的魅力を高める。

➡直感的に理解できる結果ですね。

 

・男性は、化粧をしている笑顔に最も性的魅力を感じる傾向にあるが、女性は、化粧をしている真顔に最も性的魅力を感じる傾向にある。

➡男女の間にある意外なズレです。男性はチャーミング、女性はビューティーというものに性的魅力を見出しているのかも知れません。

 

・笑顔自体は対人的魅力を高めるが、女性は、男性に比べ、化粧をしている笑顔に対して対人的魅力を高く感じない傾向にある。

➡この研究の筆者によれば、化粧をしている笑顔は異性への「媚び」という印象を判定者の女性に与えたのではないかとしています。確かに、実験素材に使われた女性の写真は、美しい女性に見えるので、よけいにそう映ったのかも知れません。「媚び」を売る表情を強化した写真や満面の喜び笑顔写真を判断素材に加えたら結果がもっとハッキリすると思います。

 

「化粧が施された表情」に対する印象研究は極わずかです。表情が加わることで印象が変わることを考えると、まだまだ探索すべきことやその応用事例は沢山ありそうです。今後の発展に期待したい分野です。

 

 

清水建二

参考文献

川名好裕 2012 化粧と笑顔による魅力変化 立正大学心理学研究年報, 3, 19-32.

 

味わっている?食に鈍感・敏感?を科学する

 

最近、孤独のグルメ深夜食堂にハマっています。清水です。

 

今日のテーマは、食と表情です。

 

食を味わっているときの表情というものが研究されています。

 

家族、友人、恋人、同僚、上司や部下、はたまた接待相手の食事中の表情を観察したことはありますか?

 

味を感じている人、味わう人はどんな表情をしているのでしょうか?

 

結論から書きますと、基本味と言われる甘味・酸味・塩味・苦味・うま味、どんな味にも関わらず、味わっている人は「唇がプレスされる」「口角が引き下げられる」「口が開かれる」という動きをすることがわかっています。無味の水を味わっている人にも、こうした表情が観察されることがわかっています。

 

こうした表情の有無を観ることで、味に対する向き合い方がわかりますよね。例えば目の前の相手が、こうした動きを見せれば味、すなわち食を楽しみたいことがわかります。そんな相手には会話中でもちょっと会話を止めて、味わう時間を割くという気遣いも大切かも知れません。

 

より具体的な味と表情との関係についてもわかっています。甘味を感じると「口角が引き上げられる」、酸味・塩味・苦味を感じると「眉が中央に引き寄せられる」という動きが生じることがわかっています。

 

甘味はおそらく、進化心理学的に安全な食物であると私たちの遺伝子が知っているため、幸福に関連する表情筋が動くんだと思います。酸味・塩味・苦味に関しては、ひょっとしたら有毒かも知れないため、よく味わい、安全か否かを確かめているのではないかと思います(酸味と苦味に関しては「鼻にしわが寄せられる」という嫌悪に関連する動きも観察されています)。

 

実用的な応用例を考えると、酸味・塩味・苦味に関しては「眉が中央に引き寄せられる」動きが生じたら、そのあとにどんな表情になるかよく観察し、次のアクションを考えたら良いでしょう。もちろん嫌悪の微表情が表れたら、やることはOKですね。さりげなく、違う料理をススメましょう。

 

ところで、目の前の相手の顔に味わう表情筋の動きがなく、最小限に咀嚼された後すぐに食物が飲み込まれたとしたらどう解釈したらよいのでしょうか?それは、きっとみなさんとの会話を最大限に楽しみたいのか、嫌いなモノを食べているかのどちらかでしょう。

 

 

清水建二

参考文献

Wendin, K.; Allesen-Holm, B.H.; Bredie, W.L.P. (2011). Do facial reactions add new dimensions to measuring sensory responses to basic tastes? Food Quality and Preference, doi:10.1016/j.foodqual.2011.01.002

表情分析を学ぶ、分析する、教える

 

近年、表情分析に興味があるので、弊社で働きたい、インストラクターになりたい、というありがたいメールを頂くことが増えております。

 

表情分析に興味を持って頂き、私と共に歩んで頂こうとされるお気持ちは大変嬉しいのですが、科学的分析をする、あるいは仕事にする以上は最低限の知識やスキルが必要です。

 

「知識やスキルはありませんが、興味があるので勉強させて下さい。」「科学は知らないけど才能はあるのでお力になりたい。」とお問い合わせされる方は、まずは「表情・しぐさ分析総合コース」を受講されることをオススメします。6ヶ月総講義時間24時間にわたって学んで頂きます。次の開校時期は、10月です(8月にHP上で申し込みを開始します。)。

 

講義の24時間とご自身での学習を合わせておおよそ50時間~100時間くらいで、日常・ビジネスで表情分析の知見を広く活かすことができるようになると思います。

 

学術的に研究・分析出来るレベルを整えたい方は、「表情分析エキスパートコース」をご受講されることをオススメします。来年の4月頃開講予定です。これも基本講義時間自体は、6ヶ月24時間ですが、実際に分析できるようになるまで、500時間~1000時間ほど鍛錬を積む必要があると思います。

 

「インストラクターになりたい。」「教える側になりたい。」と望まれる方は、資格取得を前提としたコースの設置を検討中です。現在お持ちの心理学の知識・スキルなどにもよりますが、ご自身の学習時間を含め5000時間~10000時間はかかると思って下さい。数十時間の学習で人間心理を教える側に立つのは到底無理です。さらに本当のプロと名乗るには英語は必須です。TOEIC900程度は取得して下さい。英語で専門論文を読めなければ、表情分析や感情心理学に関する最新知識を得ることが出来ません。

 

少々厳しい書き方をしてしまっていますが、表情を読むをことを科学にする、あるいは仕事にするには、それだけ研磨が必要だということをご理解下さい。

 

 

清水建二

2017年7月13日(木)キャリタス就活フォーラムDISCOイベント振り返り

 

本日は、一昨日の木曜日に開催されましたキャリタス就活フォーラムby DISCO様のイベントを振り返らせて頂こうと思います。

 

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前日入りしていたホテルの部屋からの風景

 

今回、面接LABOにて私が登壇させて頂いた時間帯は、11:00~12:00の回と12:30~13:30の回の2回でした。

 

第一部のテーマは、恒例のコンテンツ!「面接官の本音を見抜いて事態を好転させる面接術~君はなぜ面接に落ちてしまうのか?~」でした。

 

①自分だけの視点・オリジナル回答を自分の感情を利用して作成する方法

②一貫したセールスポイントの伝え方

③面接官の眉を観て、話のスピードと量を調節する表情コミュニケーション法

 

を教えさせて頂きました。

 

特に③は面接の場だけでなく、普段のコミュニケーションにも使ってみて下さい。最も手軽かつ効果的な表情コミュニケーション法です。社会人でさへ、これ、意外と出来ない方が多いんです。

 

第二部のテーマは、「【予防と訓練】あなたの面接ココがダメ?!君のココロを読んでいる面接官のココロ教えます」と題し、面接官のココロについて面接官の目と質問意図について教えさせて頂きました。

 

面接官の目では、

①ウソのサインと緊張のサインの違い

②素人とプロのウソ検知率の差

について動画を用いて学生さんにウソ検知テストを受けて頂きました。

 

ウソとは関係のない単なる緊張のサインにも関わらず、このサインが出ているとウソをついていると誤解してしまう、そんな人々の動きを動画を観て体感して頂きました。他人のフリみて我がふり治せ、ですね。もしみなさんもウソと誤解されやすい緊張のサインを出してしまうようならば、セミナーで紹介した誤解を防ぐ方法を実践してみて下さい。

 

面接官の質問意図では、

①想定外質問の意味

②「最後に質問ありますか?」を翻訳する!?

をお話ししました。

 

例えば、「あなたを動物に例えると?」「あなたをおもちゃに例えると?」「あなたをお菓子に例えると?」…こうした説明は全て〇〇を聞いている!「社内規則を破って効率的に仕事をこなす先輩を見たらあなたはどうする?」に対する一貫性のある回答もしくは一貫性の崩し方などを紹介しました。

 

そうそう「最後に質問ありますか?」も意外な盲点ですよね。本当に質問があるか聞いてくれている場合もあることはありますが、大抵は「最後に言い残したことありますか?」「最後にアピールしたいことありますか?」という意味です。ですので、ここで10分も20分も面接を長引かせるようなガチな質問はしないでね、という老婆心的なこともお話しさせて頂きました。

 

次回の登壇は8月21日(月)となります。清水の就活セミナーに興味のある方はディスコさんのHPでチェックしてみて下さいね(ちなみにまだ清水のセミナーの申し込みは開始しておりません)。

 

job.career-tasu.jp

 

追伸:

セミナー後に、「面白いセミナーでした!」とか「本買わせて頂きました!」「テレビ見ました」などなど言ってくれる学生さん、ありがとうございます!そうした一声がとても嬉しいです、励みになります😊

 

 

清水建二

 

2017年7月4日(火)「この差って何ですか?」出演の舞台裏―ウソ検知実験本番編

 

7月4日(火)放送の「この差って何ですか?」のスタジオ収録に先立ち、いよいよ私がウソを見抜いている様子及びウソのサインを解説しているシーンを撮影する日が来ました。

 

私にとっては、スタジオ収録の日よりもはるかに緊張した日です。

 

もう一度、実験状況のおさらいです。

 

実験参加者10人一人一人に5つの質問をし、どの質問でウソをついていたかを当て、さらにウソのサインを指摘するというものです。質問は基本的にはクローズド質問、一人に与えられた質問時間は20分程度です。

 

カメラマン2人、音声さん1人、アシスタントの方数名、ディレクターさん、プロデューサーさん、実験参加者の方々と何名もの方々が集まって下さいました。

 

実験が始まる前の私の心境は、「これは残念な結果には絶対に出来ない(汗)」というものでした笑

 

いよいよ実験、スタート。ここ数週間の中でも最も肩の凝った日、すなわち、集中した日でした。

 

実験参加者の一挙手一投足逃すまいと全身全霊集中し、とはいえ、参加者の方によけいなプレッシャーを与えないように、声と態度はソフトに淡々と質問し、ときに同調しながら、情報収集のプロセスを進めていきました。

 

私がウソかどうかを判断する瞬間、めちゃくちゃ悩みました。リアルな事件の人物に対する推定よりも悩みました。「この唇のプレスは返答に頭を悩ますゆえか?」「このレベルの嫌悪は、ウソをついているのではなく、ウソつきだと疑われていることからくるものなのではないか?」「本来ならこの軽蔑をホットスポットとしてとらえ、深堀質問していきたい!」などなど悩みながらも、判断していきました。

 

本実験の結果としては、私のウソ検知率は80%でした。

 

「ふーーーーーーーー」です。

 

専門家の面目保てたり。笑

失うものが大きい判定者は強い。笑

 

ウソを見抜いたあと、参加者の方にどこがウソのサインだったのかを解説したり、そのサインが出てきたときの心理をインタビューさせて頂いたり、スタジオ収録ではどの場面を使おうかなどなど、やり取りし、なんだかんだで10時間くらいロケは続きました。

 

長い一日でしたが、私にとっては、今回のような実験状況でもウソをソコソコ見抜けることが出来る、すなわちウソのサインが出るということがわかったこと、ウソをついているときの心理をつぶさに聞かせてもらえたこと、沢山の方と協力して仕事が出来たことは、本当にありがたいことでした。

 

それでも、また同じ実験参加してもらえますか?って言われたら、まぁ、不安ですよね。笑

 

これまでテレビに何度か出演させて頂いておりますが、毎回、思わせて頂くことがあります。今回も打ち合わせからスタジオ収録と番組制作の裏側を見せて頂きましたが、観るのは一瞬でも、制作するまでには、本当の多くの方々が関わり、綿密な準備と放送の何倍もの時間が合わさって番組が完成するのだな、と本当に感心させて頂きました。番組スタッフの方の素晴らしい段取り、MCの加藤さん&川田さんの秀逸なテンポ、タレントさんの笑いを誘うトーク力と、本当に気持ちよく仕事をさせて頂けました。ありがとうございました。

 

 

清水建二

2017年7月4日(火)「この差って何ですか?」出演の舞台裏―ウソ検知率って平均どれくらい?編

 

7月4日(火)放送の「この差って何ですか?」のスタジオ収録に先立ち、打ち合わせ中に急遽、私がウソをどれくらい読みとれるかの仮実験がなされました。

 

いきなりだったので、「え~!」となり、不安でしたが好奇心の方が勝り、私は結構前のめりに。なぜなら、本当のインタビューでは1~2時間かけて推定のプロセスを経るところを10分やそこらでウソかどうか判断したら自分のウソ検知率はどのくらいの精度になるのだろうか、と気になったからです。

 

その結果が、75%だったのです。

 

私たちが偶然ウソを見抜ける確率は、ウソか本当かのうちの一つですので、50%です。様々なウソ検知実験が示すところによれば、何の訓練も受けていない人々がウソ検知を試みると、その精度は平均54%になることがわかっています。警察官が本当の取り調べでどのくらいの精度でウソを見抜けるのかが計測された実験では、平均60%ちょっとという数字が見出されています。つまり、ウソつきがウソがばれることによって失うものが大きく、日々ウソに接している警察官は、私たちより少しだけウソ検知の精度が高くなるということがわかります。

 

それで私の数字75%に戻ってきます。

 

結構、好成績ですよね?

 

自分でも驚きました。ある質問をしたとき、嫌悪の微表情が出たり、唇をプレスする動きが観られ、会話内容との整合性から推測したら、1問ミスで済みました。

 

それでもまだ4回やってみただけだし、本実験を行いテレビで自分のウソ検知率が公開されるのはリスクあるな~と思いつつも、どこかで読んだ論文の内容を思い出していました、それは、「判定者の側に失うものが大きいと、ウソを見抜く精度が上がる。」というものでした。

 

なるほど、これかな。

 

ちなみに表情分析の大家、そして私の先生の先生であるポール・エクマン先生のウソ検知率は90%ですけどね。

 

次回は本実験の様子をご紹介します。

 

清水建二