微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

中国人と日本人と韓国人、どう見分ける?

 

中国人と日本人と韓国人の違いを顔から見分けられますか?

 

何となく…という感じだと思います。

日本人はわかるけど、中国人と韓国人の違いは…?

という方もいるかも知れません。

 

ちょっとやってみましょう。

下の図の顔写真から中国人、日本人、韓国人を分けてみて下さい。

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(Y. Wangら, 2016より)

 

いかがでしょうか?かなり難しいですね。順番を並べ変えるといかがでしょうか?上段、中段、下段で民族が区分けされています(答えは一番最後に記載してあります)。さきほどよりは何となく傾向があるような気がしませんか?

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(Y. Wangら, 2016より)

 

Twitterから集められた、数千枚の中国人、日本人、韓国人の顔写真をコンピューターに深層学習させた結果、75.03%の精度でコンピュータはそれぞれの民族を区別することに成功しました。

 

ちなみに偶然正解する確率は、33.33%です。何の訓練も積んでいない私たちの正解率は38.89%ということがわかっています。これらの数字から考えると、コンピューター凄いですね。

 

コンピュータが見出したそれぞれの民族の違いとは何なのでしょうか?それは…

 

①日本人、韓国人、中国人の順番で前髪が額にかかっている。

②日本人、韓国人、中国人の順番で笑顔である(笑顔で写真に写っている)。

③日本人、韓国人、中国人の順番で涙袋が目立つ。

ゲジゲジ眉毛が中国人に目立つ。

⑤韓国人、中国人、日本人の順番で髪が黒い。

 

①⑤とそれに④はどうにでもなりそうですよね。ファッションとか流行なのでしょうか。②は文化的な影響のような気がします。この中では③が唯一、形状的な違いなのだと思われます。

 

個人的には②③の特徴に興味を惹かれます。将来、他にどんなことがわかるようになるのでしょうかね?研究の進歩を追っていこうと思います。楽しみです。

 

問題の答え

上段:中国人

中段:日本人

下段:韓国人

当たっていましたか?

 

 

清水建二

参考文

Y.Wang, H. Liao, Y. Feng, X. Xu, and J. Luo. Do they all look the same? deciphering chinese, Japanese and koreans by fine-grained deep learning. arXiv preprint arXiv:1610.01854, 2016.

清水建二の本棚①

 

私には友人や知人の家やオフィスにお邪魔する機会があると必ずしてしまうことがあります。それは、本棚をみる、ということです。本棚の中をみると、その人の思考がどのように構成されているかについて、その一端がわかるような気がするからです。

 

人様の本棚の中を覗いて一方的に想いを巡らしているのも、なんか不公平な感じがしますので、私、清水建二の本棚もご紹介しようと思います。

 

基本的に私の本棚は心理学や非言語コミュニケーション系の書籍、論文で埋め尽くされているのですが、本シリーズでは本棚の中から適当に選んだ書籍を心理学に限らず一言コメントの形を通じてご紹介したいと思います。

 

一冊一冊の書籍が私の脳を作り上げてくれています。

 

本日ご紹介する書籍はこの2冊です。

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック

  • 作者: フィリップ・ヒューストン,マイケル・フロイド,スーザン・カルニセロ,ピーター・ロマリー,ドン・テナント
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: Kindle
  • この商品を含むブログを見る
 
交渉に使えるCIA流 嘘を見抜くテクニック

交渉に使えるCIA流 嘘を見抜くテクニック

 
 

 

この書籍の素晴らしい点は、言葉のやりとりのプロセスが割と長めに記載されているところです。テクニックを紹介する書籍の大部分は、理論などの解説ばかりでそれをどう使うか、どう使われるのかが具体的に説明されていません。しかし、本書はウソを見抜くテクニックの解説だけでなく、実際の場面でどう使われるかについて生の言葉のやり取りを通じて説明してくれています。

 

残念なところは、2つあります。本当に肝心な「ウソを見抜くその瞬間」のような部分を意図的かどうかわかりませんが、省いてしまっているところが散見されます。もう一つは微表情については否定的な見解を取っているところです。

 

注意すべきところは、1つあります。それは、ウソを見抜くテクニックに関して科学的に妥当性が保証されているものとされていないものが混在しているところです。ただどのテクニックも著者のCIAのエージェントが長年様々な現場で用いて効果を発揮した方法のようですので、科学的には解明されていなくても効果的な方法なのかも知れません。

 

科学的に解明されているウソを見抜くテクニックをお知りになりたい方は、次の書籍がオススメです。

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

 

日本語で入手できる最新かつ最高峰のウソ検知に関する心理学が解説されています。著者のヴレイ教授はウソ検知研究の権威で、示唆に富んだ多くの研究を世に輩出されています。ただ本書は専門家向けの書籍かつボリュームがかなりあるため読むのが大変です。またハウツー的に解説されているわけではないため、実用するには自分なりの工夫が必要です。 この書籍に書かれていることと先の2冊を照らし合わせれば良いかも知れません。

 

それではまた次回。

 

 

清水建二

微表情に対する批判への批判

 

微表情の実用性に対して、肯定的・否定的なものと様々あります。本日は否定的な2つの意見を取り上げ、その妥当性について考えてみたいと思います。

 

一般の方々及び法の執行官から寄せられるよくある直感的な批判は、

 

「0.2秒の反応など目視でキャッチすることなどできない。」

 

というものです。

 

この直感は誤解です。微表情検知用のトレーニングビデオを用いた実験から、たった1時間の検知トレーニングをすることで微表情の検知率が40%から80%に向上し、この能力は2~3週間維持される、ということがわかっています。微表情に限らず、トレーニングなしに向上する能力など何もありません。

 

次に科学研究から提示された微表情に対する批判があります。それは、

 

「微表情は、抑制された感情を検知するのに適した手がかりではない。それは感情が抑制されても微表情が生じることは極めてまれだからである。」

 

というものです。

 

この研究から微表情の脆弱性を指摘することは出来ません。この研究の方法論と結果をまとめると次の通りとなります。

 

「実験参加者に様々な感情を喚起させるような写真を見せ、そこから湧き起こってくる感情を抑制してもらった。その結果、全697の表情パターンのうち完全な微表情は1つもなく、部分的な微表情ですら、全体の2%しかなかったことがわった。」

 

この研究の問題点を一言で指摘すると、

 

感情を喚起させる目的に用意された写真が、実験参加者にとって微表情を表出させるほどに十分な刺激にはならなかった可能性が高い。

 

と言えます。

 

つまり問題なのは、「感情を喚起させるような写真」を使って微表情の発生頻度を計測したことです。微表情は1960年代に自殺願望者の顔から漏洩する一瞬の悲しみ表情から発見されました。また近年の研究では、ウソをついている犯罪者の表情に特定の微表情が表れる傾向にあることが見出されています。自殺願望者の患者が自殺の意図を隠し、主治医に退院許可を求めるときの感情の抑制度合い、あるいは、法を犯した犯罪者が刑事に本心を読みとられまいとしているときの感情の抑制度合い。これらの感情の抑制度合いと感情を喚起させるような写真から湧き起こる感情の抑制度合いが、なぜ同じと言えるのでしょうか。

 

微表情は、抑制された感情をキャッチするのに有効なツールです。しかし、トレーニングなしに、またどんな状況下だと効果的なのかを知らずに使おうとすれば、当然その有効性は保てないのです。

 

 

清水建二

参考文献

Matsumoto, D. & Hwang, H. S. (2011). Evidence for training the ability to read microexpressions of emotion. Motivation and Emotion, 35(2), 181-191.

Porter, S., & ten Brinke, L. (2008). Reading between the lies: Identifying concealed and falsified emotions in universal facial expressions. Psychological Science, 19(5), 508-514.

犯罪者特有の顔というものはあるのだろうか?

 

 犯罪者の顔に特徴はあるのだろうか?

 

有名な研究として古くは、1864年、犯罪学の父とされるチェーザレ・ロンブローゾによって犯罪者の顔の特徴が見出されました。ロンブローゾは、遺伝的な影響により将来犯罪者になるものは宿命付けられている、という結論をしましたが、多くの批判が巻き起こることになります。そして後にこの研究の妥当性は低かったことが証明されます。

 

それでは、犯罪者に特徴的な顔とは、やはり存在しないのでしょうか?

 

2016年11月、最先端のコンピューターによる画像認識と機械学習を通じて、犯罪者と非犯罪者との顔の分別に成功したという研究が発表されました。

 

以下の顔の中から、犯罪者を推測してみて下さい。

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研究の結果、犯罪者の顔の特徴とは、「口が小さく、上唇が曲がり、両目の間隔が狭い顔」ということがわかりました。上の画像からわかりますでしょうか?上段のa群が犯罪者です。下段b群が非犯罪者です。もう少し詳しく書いてみましょう。

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顔の特徴として、犯罪者は非犯罪者と比べて鼻の先と唇の両端を結ぶ角度(θ)が平均19.6%小さく、上唇の曲率(ρ)が平均23.4%大きい。また、左右の目頭の間隔(d)は犯罪者が5.6%狭かったということがわかりました。

 

さらに興味深い点があります。この平均○○%小さい・大きいという数字のバラツキが非犯罪者に比べ犯罪者の方が大きいことが見出されています。つまり、犯罪者の方が非犯罪者に比べて顔の特徴にバラエティーがある、ということです。

 

次の画像はいかがでしょうか?犯罪者の顔はどれでしょうか? 

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正解は、abcdが犯罪者の顔のサブタイプで、efgが非犯罪者の顔のサブタイプです。非犯罪者の方がバリュエーションが少ないようです。

 

私の周りに「明瞭に説明できないが見ただけで犯罪者がわかる」という方がおりましたが、もしかすると、普通の顔(=非犯罪者)ではない顔の特徴を無意識にキャッチしているのかも知れません。

 

なおこの研究は中国人の方のみを対象に実験を行ったため、本研究で見出された、いわゆる犯罪者顔は万国共通の特徴なのかどうかはわかりません。

 

そう言えば、我が国、日本にもこんなカメラが導入され始めています。

 

 

今回ご紹介した研究と同じようなロジックで危険人物を検知しているのでしょうか?

注目のテクノロジーです。

 

 

清水建二

参考文献

Automated Inference on Criminality Using Face Images (Xiaolin Wu, McMaster Univ. and Xi Zhang, Shanghai Jiao Tong Univ. Nov. 21, 2016).

目の動きからウソを見抜くことはできるのか?―NLP理論の検証編

 

最初にこちらの映像をご覧ください。

元FBI捜査官がウソの様々なサインについて説明しています。

本日はその中から目の動きに注目してみたいと思います。

 

目の動きからウソを見抜くことはできるのでしょうか?目の動きから他者のウソを見抜く技術として、NLP神経言語プログラミング)が提唱する理論が有名です。

 

NLPの理論によると、右利きの人が、右上を見上げることは想像している状態を意味し、左上を見上げることは過去の記憶を思い出している状態を意味すると説明しています。元々のNLPの理論では、右上を見上げる=想像している状態が、人がウソをついている状態であるという見解をしているわけではないのですが、多くのNLPの実践者がこの考え方からウソを見抜くことが出来ると提唱しています。

 

NLPの実践者がウソのシグナルとして提唱している考えは、右上=想像=ウソ・左上=記憶=真実というものです。

 

果たしてこのシグナルからウソを見抜くことが出来るのでしょうか?このことを検証した3つの実験から結論を言いますと…

 

ウソを見抜くことは出来ない

 

ということがわかりました。どんな実験かご紹介します。

 

実験1では、実験参加者を「ウソをつく」人と「真実を話す」人に分け、それぞれにある事柄についてウソか真実かを話してもらいます。その結果、ウソを話す人は右上を見て、真実を話す人は左上を見る、という関係は見出されませんでした。

 

実験2では、NLP理論を学んだ人と何も学んでいない人に、話をしている人がウソをついているか真実を話しているかを目の動きを手がかりに判断してもらいます。その結果、NLP理論を学んだ人と何も学んでいない人との間には、ウソを見抜く精度に差がないことがわかりました。

 

実験3では、自分の子どもがいなくなってしまい情報提供を呼びかけている親の映像を多数用意します。一方の映像は、本当に子どもが第三者に誘拐もしくは殺害されてしまった親の映像です。もう一方の映像は、自らの手で子どもを殺害した親の映像です。それぞれの親が子どもがいなくなる前の状況や情報提供を呼びかけているときの目の動きが計測されました。その結果、右上=ウソ、左上=真実という関係は見出されませんでした。

 

これらの検証結果から、NLPの理論に則った方法では、目の動きからウソを見抜くことは出来ない、という結論になります。

 

学んだことを何でもかんでも批判的に見る姿勢は精神衛生上よくないと思います。しかし自分がよって立つ理論や考え方、信念、もっと大きな視点で言えば、世間の常識や当たり前だと考えられている知見に対して、時に立ち止ってその妥当性を考えてみる、健全な批判精神を持つということはとても大切だと思います。

 

 

清水建二

参考文献

Wiseman, R., Watt, C., ten Brinke, L., Porter, S., Couper, S-L., & Rankin, C. (2012). The eyes don’t have it: Lie detection and neuro-linguistic programming. PLoS ONE, 7, 1-5. doi: 10.1371/journal.pone.0040259.

私が目指す科学と経験のハイブリッドへの道

 

空気を読むを科学する研究所が設立したのは、2014年4月です。設立当初から弊社、もとい私が目指しているところは、「科学と経験のハイブリッド」です。

 

私は大学に4年、大学院に4年いました。その間、ずっと思っていたことは、

 

「科学知見と現実世界とはどうつながっているのだろうか?」

「科学知見は現実世界でどう活かせるのだろうか?」

 

ということです。

 

あまりに抽象化された科学の世界から見た現実は、複雑すぎて私には科学がどう現実、もっと言えば私の生活に活かすことができるのかわかりませんでした。

 

もちろん、科学には純粋に科学者の内発的な問いを扱う基礎科学と現実生活に転用可能な応用科学があることは知っていました。

 

しかし、リアルな世界に生きていない私(=いわゆる、社会を知らない一学生だった自分)にとって、応用科学の知見もどのように社会に還元され、応用科学の知見で自分の生活にいかにコントロールを加えることができるのかについて、実感が持てなかったのです。

 

一方で、学部生当時から自己啓発系の書籍をむさぼり読み、その間、ずっと思っていたことは(現在も経験者の方々のお話を聞く度に思うことですが)、

 

「個々人の経験はどの範囲まで再現可能なのだろうか?」

「個々人の経験則から得られた知見はどれほど自分に当てはまるのだろうか?」

 

ということです。

 

個々人の経験から語られる言葉を見聞きすると、その血が通った想いに、心が躍り出すような興奮を覚え、物語を見聞きするような心地よい実感に浸ることが出来ます。しかし、個々人の経験則は、統計的に優位な違いが出るほど、信用できるルールなのだろうか?カリスマ性を持つ人物だからこそ上手く行ったストーリーに過ぎないのではないだろうか?と自分の理性的な思考が感動に邪魔を入れるのでした。

 

そんなこんなで(この6文字には数年間の試行錯誤があるのですが)、科学知見に経験則を重ねてみる、もしくは経験則を科学的に検証する、ということを自分の専門分野においてライフワークにしようと思い、空気を読むを科学する研究所を設立したのです。

 

空気研での活動を通じて、私は人の心理を読む、という科学知見がいかに現実世界、日常やビジネスの世界に応用可能かを様々な観点から考えています。科学と経験のハイブリッドを掲げ、将来的には科学者と実務家のプラットホームのような場を作ることができればな、という構想を夢見ている今日この頃です。

 

 

清水建二

マクロ表情・微表情・微細表情の違い

 

表情の大きな枠組みとして、マクロ表情・微表情・微細表情という言葉があります。本日は、これらの言葉の定義をご紹介したいと思います。

 

マクロ表情(macro expressions)とは、日常的なやり取りで目にする表情で、0.5秒から4秒ほど顔に表れます。

 

微表情(micro expressions)とは、私たちが意識的もしくは無意識的に感情を隠したり、抑制しようとするときに表れる表情で、0.5秒以下しか顔に表れません(清水注:研究によっては、0.2秒以下と定義される場合あり)。また微表情が表れるときは、感情に関わる全ての表情筋の動きを伴って顔に表れます。例えば、「怒り」感情は、「眉が中央に引き寄せられる」+「上まぶたが引き上げられる」+「下まぶたに力が入れられる」+「唇が上下からプレスされる」というコンビネーションでマクロ表情として表れますが、微表情の場合、これらすべての表情筋の動きが同時に、しかも瞬時に顔に表れては消え去るのです。

 

微細表情(subtle expressions)とは、刺激に対する感情の反応が弱いとき、もしくは感情を感じ始めたとき生じる表情で、顔に表れている時間は問いません。また微細表情は、感情に関わる部分的な表情筋の動きを伴って顔に表れます。先の「怒り」感情を例にすると、「眉が中央に引き寄せられる」動きだけ、もしくは「唇が上下からプレスされる」動きだけが、微細表情として表れるのです。顔に生じている時間は、微表情のように一瞬の場合もあれば、数秒間続く場合もあります。

 

以上のような定義付けがなされています。

 

学術論文でも内容をよく読むと定義上は微細表情なのに、微表情と言っていたり、部分的な微表情と呼んでいたりしていますので、論文を読むときや厳密な分析をするときは、誤解が生じないように、定義上の違いをしっかり押さえておくことが大切です。

 

 

清水建二

参考文献

http://www.humintell.com/macroexpressions-microexpressions-and-subtle-expressions/

http://www.humintell.com/2009/09/subtle-expressions-key-to-detecting-deception/