微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

ジェスチャークイズ(認識編)

 

 ジェスチャーとは、日本語では「しぐさ」と訳され、専門用語では「エンブレム」と言われます。ジェスチャーの基本的な機能は、言葉の代替です。言葉を使わなくても、あるジェスチャーをすれば、意味を伝達し合うことが出来ます。ただしジェスチャーは表情とは異なり、生まれ持って私たちが持っているシグナルではなく、学習によって身に付けられるものであるため、文化によって様々な意味・種類があります。

 

そんな文化的に多様性を持つジェスチャーですが、世界の大部分の人に認識されている(自分がそのジェスチャーをする・しないは問わず、見れば意味がわかる)、もしくは世界の大部分の人が実際に使用しているジャスチャーがあることが大規模な調査からわかっています。

 

本日のブログでは認識編ということで、自身がする・しない問わず、見ればおおよそ検討のつく代表的なジェスチャーを取り挙げてみました。

 

ジェスチャーの意味を当ててみましょう。下記の表を見ながら実際にジェスチャーをし、ジェスチャーの意味を推測してみて下さい。パブリックな場で一人でやってると変な人だと思われるますので、周りに誰もいないときにトライされることをオススメいたします。

 

それではスタート!

 

問題:ジェスチャーの動きからその意味を推測しなさい。

ジェスチャーの意味

ジェスチャーの使用地域

ジェスチャーの動き

実験参加者のジェスチャー認識率

アメリカ

手を広げ、手のひらを上に向け、4本の指を自分の方へ向かって繰り返し動かす。

100%

ラテン

右手の人差し指と小指を伸ばし、他の指は親指の下に丸める。角のような形になる。その状態で手のひらの方を額につける。

100%

アメリカ

拳を握り、親指を立てる。

100%

アメリカ

中指を人差し指に交差させ、他の指は親指の下に丸める。

100%

南アジア

手を上げ、手のひらを下にし、4本の指を自分の方へ向かって繰り返し動かす。

96%

中東

指を広げ、まるで頭の横に大きなノブがあるつもりで何度か回す。

96%

ラテン

十字を身体の前で切る。そのとき指先はペンを持つような形にし、垂直、水平の順で真っ直ぐに線を引く。

97%

ラテン

片方の手を上げ、手の平は下に向ける。その状態で手首を回転させる。親指と小指が交互に上下になる。

95%

出典:Matsumoto, D., & Hwang, H. S. (2012)を参考に著者作成

 

それでは正解を発表します。

正解は…

 

①来て、②悪魔、③良い、④幸運、⑤来て、⑥バカ、⑦神の加護、⑧多かれ少なかれ

 

どうですか?ジェスチャーの動きからどれくらい正確に意味が特定出来ましたか?この表に挙げたジェスチャー以外にも世界の多くの人々がその動きの意味を理解しているジェスチャーがまだまだあります。

 

世界の人々の認識率が高いジェスチャーを知りたい方は、下記の論文を読まれるか、来春4月開講の「表情・しぐさ総合分析コース」をご受講下さい。講座の中で、上記の表の完全版を配布致します。

 

 

清水建二

参考文献

Matsumoto, D., & Hwang, H. S. (2012). Cultural similarities and differences in

emblematic gestures. Journal of Nonverbal Behavior.

 

嘘発見器のウソ・ホント

 

嘘発見器

 

一度ならずともこの機器について耳にしたことがあると思います。身体にいくつかの器具が取り付けられ、すべての質問に「いいえ」で答え、ウソをついていたら「いいえ」と回答した瞬間に嘘発見器が反応する、という機器です。

 

よく刑事ドラマやバラエティー番組などで見られる光景ですが、これは正確な描写ではありません。そこで本日は嘘発見器のウソ・ホントをご紹介したいと思います。

 

嘘発見器の名称は、正しくはポリグラフ検査機と言います。大切なこととして、このポリグラフ検査器が出来ることは、ウソを直接発見することではなく記憶の有無を発見するということです。どのようにポリグラフ検査機が用いられているか順を追ってみてみましょう。

 

例えば、会社の金庫が工具を使って壊され、現金が盗まれた事件があったとします。「どこから」「どうやって」「いくら」「いつ」盗まれたかは犯人と警察、それにポリグラフ検査を実施する科学捜査研究所の技師しかわからないとします。ポリグラフを実施する技師は次のような質問をします。例えば、

 

現金は…

①財布から盗まれましたと思いますか。

②机の中から盗まれたと思いますか。

③ロッカーの中から盗まれたと思いますか。

④金庫から盗まれたと思いますか。

⑤駐車場の車の中から盗まれたと思いますか。

 

同じ要領で、犯行に使われた道具について、盗まれた現金の額について、犯行時間について、質問していきます。このように犯人にしか知り得ない質問を何問もしていき、全て「いいえ」と容疑者に答えてもらいます。

 

もし質問番号④の問いに対して容疑者が「いいえ」と答えたとき、ポリグラフが反応し、また、さらに続く質問に対しても犯人しか知り得ない「質問番号」に容疑者が何度も反応したら、その容疑者は犯人しか知り得ない犯行に関する「記憶」を持っているということになります。偶然では考えられないレベルでこうした反応が見られるとき、容疑者が事件に関与している可能性が高いと判断します。

 

ポリグラフ検査機はこのように犯行記憶に関する生体反応をキャッチしているのです。ですので、ちなみに容疑者が「はい」と答えようが、「いいえ」と答えようが、何も答えないでいようが、犯行時の記憶があれば、生体反応は出てきます。

 

そんなポリグラフ検査機ですが、その精度はどうなのでしょうか。

ポリグラフ検査機を用いたウソ検知率は…

 

ウソをウソと正しく識別出来た割合は、76%

潔白を潔白と正しく識別出来た割合は、94%

 

です。このウソ検知率はかなり高いです。質問事項を増やせば増やすほど検知率を向上させることが出来ることがわかっています。

 

※脳波を計測する機械(EEG-P300)を使ってこの質問法をするとウソ検知率は80~90%に向上することが様々な研究からわかっています。

 

 

清水建二

参考文献

Elaad, E., Ginton,A., & Jungman, N. (1992). Detection measures in real-life criminal guilty knowledge tests. Journal of Applied Psychology, 77, 757-767.

中国人と日本人と韓国人、どう見分ける?

 

中国人と日本人と韓国人の違いを顔から見分けられますか?

 

何となく…という感じだと思います。

日本人はわかるけど、中国人と韓国人の違いは…?

という方もいるかも知れません。

 

ちょっとやってみましょう。

下の図の顔写真から中国人、日本人、韓国人を分けてみて下さい。

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(Y. Wangら, 2016より)

 

いかがでしょうか?かなり難しいですね。順番を並べ変えるといかがでしょうか?上段、中段、下段で民族が区分けされています(答えは一番最後に記載してあります)。さきほどよりは何となく傾向があるような気がしませんか?

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(Y. Wangら, 2016より)

 

Twitterから集められた、数千枚の中国人、日本人、韓国人の顔写真をコンピューターに深層学習させた結果、75.03%の精度でコンピュータはそれぞれの民族を区別することに成功しました。

 

ちなみに偶然正解する確率は、33.33%です。何の訓練も積んでいない私たちの正解率は38.89%ということがわかっています。これらの数字から考えると、コンピューター凄いですね。

 

コンピュータが見出したそれぞれの民族の違いとは何なのでしょうか?それは…

 

①日本人、韓国人、中国人の順番で前髪が額にかかっている。

②日本人、韓国人、中国人の順番で笑顔である(笑顔で写真に写っている)。

③日本人、韓国人、中国人の順番で涙袋が目立つ。

ゲジゲジ眉毛が中国人に目立つ。

⑤韓国人、中国人、日本人の順番で髪が黒い。

 

①⑤とそれに④はどうにでもなりそうですよね。ファッションとか流行なのでしょうか。②は文化的な影響のような気がします。この中では③が唯一、形状的な違いなのだと思われます。

 

個人的には②③の特徴に興味を惹かれます。将来、他にどんなことがわかるようになるのでしょうかね?研究の進歩を追っていこうと思います。楽しみです。

 

問題の答え

上段:中国人

中段:日本人

下段:韓国人

当たっていましたか?

 

 

清水建二

参考文

Y.Wang, H. Liao, Y. Feng, X. Xu, and J. Luo. Do they all look the same? deciphering chinese, Japanese and koreans by fine-grained deep learning. arXiv preprint arXiv:1610.01854, 2016.

清水建二の本棚①

 

私には友人や知人の家やオフィスにお邪魔する機会があると必ずしてしまうことがあります。それは、本棚をみる、ということです。本棚の中をみると、その人の思考がどのように構成されているかについて、その一端がわかるような気がするからです。

 

人様の本棚の中を覗いて一方的に想いを巡らしているのも、なんか不公平な感じがしますので、私、清水建二の本棚もご紹介しようと思います。

 

基本的に私の本棚は心理学や非言語コミュニケーション系の書籍、論文で埋め尽くされているのですが、本シリーズでは本棚の中から適当に選んだ書籍を心理学に限らず一言コメントの形を通じてご紹介したいと思います。

 

一冊一冊の書籍が私の脳を作り上げてくれています。

 

本日ご紹介する書籍はこの2冊です。

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック

交渉に使えるCIA流 真実を引き出すテクニック

  • 作者: フィリップ・ヒューストン,マイケル・フロイド,スーザン・カルニセロ,ピーター・ロマリー,ドン・テナント
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: Kindle
  • この商品を含むブログを見る
 
交渉に使えるCIA流 嘘を見抜くテクニック

交渉に使えるCIA流 嘘を見抜くテクニック

 
 

 

この書籍の素晴らしい点は、言葉のやりとりのプロセスが割と長めに記載されているところです。テクニックを紹介する書籍の大部分は、理論などの解説ばかりでそれをどう使うか、どう使われるのかが具体的に説明されていません。しかし、本書はウソを見抜くテクニックの解説だけでなく、実際の場面でどう使われるかについて生の言葉のやり取りを通じて説明してくれています。

 

残念なところは、2つあります。本当に肝心な「ウソを見抜くその瞬間」のような部分を意図的かどうかわかりませんが、省いてしまっているところが散見されます。もう一つは微表情については否定的な見解を取っているところです。

 

注意すべきところは、1つあります。それは、ウソを見抜くテクニックに関して科学的に妥当性が保証されているものとされていないものが混在しているところです。ただどのテクニックも著者のCIAのエージェントが長年様々な現場で用いて効果を発揮した方法のようですので、科学的には解明されていなくても効果的な方法なのかも知れません。

 

科学的に解明されているウソを見抜くテクニックをお知りになりたい方は、次の書籍がオススメです。

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実

 

日本語で入手できる最新かつ最高峰のウソ検知に関する心理学が解説されています。著者のヴレイ教授はウソ検知研究の権威で、示唆に富んだ多くの研究を世に輩出されています。ただ本書は専門家向けの書籍かつボリュームがかなりあるため読むのが大変です。またハウツー的に解説されているわけではないため、実用するには自分なりの工夫が必要です。 この書籍に書かれていることと先の2冊を照らし合わせれば良いかも知れません。

 

それではまた次回。

 

 

清水建二

微表情に対する批判への批判

 

微表情の実用性に対して、肯定的・否定的なものと様々あります。本日は否定的な2つの意見を取り上げ、その妥当性について考えてみたいと思います。

 

一般の方々及び法の執行官から寄せられるよくある直感的な批判は、

 

「0.2秒の反応など目視でキャッチすることなどできない。」

 

というものです。

 

この直感は誤解です。微表情検知用のトレーニングビデオを用いた実験から、たった1時間の検知トレーニングをすることで微表情の検知率が40%から80%に向上し、この能力は2~3週間維持される、ということがわかっています。微表情に限らず、トレーニングなしに向上する能力など何もありません。

 

次に科学研究から提示された微表情に対する批判があります。それは、

 

「微表情は、抑制された感情を検知するのに適した手がかりではない。それは感情が抑制されても微表情が生じることは極めてまれだからである。」

 

というものです。

 

この研究から微表情の脆弱性を指摘することは出来ません。この研究の方法論と結果をまとめると次の通りとなります。

 

「実験参加者に様々な感情を喚起させるような写真を見せ、そこから湧き起こってくる感情を抑制してもらった。その結果、全697の表情パターンのうち完全な微表情は1つもなく、部分的な微表情ですら、全体の2%しかなかったことがわった。」

 

この研究の問題点を一言で指摘すると、

 

感情を喚起させる目的に用意された写真が、実験参加者にとって微表情を表出させるほどに十分な刺激にはならなかった可能性が高い。

 

と言えます。

 

つまり問題なのは、「感情を喚起させるような写真」を使って微表情の発生頻度を計測したことです。微表情は1960年代に自殺願望者の顔から漏洩する一瞬の悲しみ表情から発見されました。また近年の研究では、ウソをついている犯罪者の表情に特定の微表情が表れる傾向にあることが見出されています。自殺願望者の患者が自殺の意図を隠し、主治医に退院許可を求めるときの感情の抑制度合い、あるいは、法を犯した犯罪者が刑事に本心を読みとられまいとしているときの感情の抑制度合い。これらの感情の抑制度合いと感情を喚起させるような写真から湧き起こる感情の抑制度合いが、なぜ同じと言えるのでしょうか。

 

微表情は、抑制された感情をキャッチするのに有効なツールです。しかし、トレーニングなしに、またどんな状況下だと効果的なのかを知らずに使おうとすれば、当然その有効性は保てないのです。

 

 

清水建二

参考文献

Matsumoto, D. & Hwang, H. S. (2011). Evidence for training the ability to read microexpressions of emotion. Motivation and Emotion, 35(2), 181-191.

Porter, S., & ten Brinke, L. (2008). Reading between the lies: Identifying concealed and falsified emotions in universal facial expressions. Psychological Science, 19(5), 508-514.

犯罪者特有の顔というものはあるのだろうか?

 

 犯罪者の顔に特徴はあるのだろうか?

 

有名な研究として古くは、1864年、犯罪学の父とされるチェーザレ・ロンブローゾによって犯罪者の顔の特徴が見出されました。ロンブローゾは、遺伝的な影響により将来犯罪者になるものは宿命付けられている、という結論をしましたが、多くの批判が巻き起こることになります。そして後にこの研究の妥当性は低かったことが証明されます。

 

それでは、犯罪者に特徴的な顔とは、やはり存在しないのでしょうか?

 

2016年11月、最先端のコンピューターによる画像認識と機械学習を通じて、犯罪者と非犯罪者との顔の分別に成功したという研究が発表されました。

 

以下の顔の中から、犯罪者を推測してみて下さい。

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研究の結果、犯罪者の顔の特徴とは、「口が小さく、上唇が曲がり、両目の間隔が狭い顔」ということがわかりました。上の画像からわかりますでしょうか?上段のa群が犯罪者です。下段b群が非犯罪者です。もう少し詳しく書いてみましょう。

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顔の特徴として、犯罪者は非犯罪者と比べて鼻の先と唇の両端を結ぶ角度(θ)が平均19.6%小さく、上唇の曲率(ρ)が平均23.4%大きい。また、左右の目頭の間隔(d)は犯罪者が5.6%狭かったということがわかりました。

 

さらに興味深い点があります。この平均○○%小さい・大きいという数字のバラツキが非犯罪者に比べ犯罪者の方が大きいことが見出されています。つまり、犯罪者の方が非犯罪者に比べて顔の特徴にバラエティーがある、ということです。

 

次の画像はいかがでしょうか?犯罪者の顔はどれでしょうか? 

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正解は、abcdが犯罪者の顔のサブタイプで、efgが非犯罪者の顔のサブタイプです。非犯罪者の方がバリュエーションが少ないようです。

 

私の周りに「明瞭に説明できないが見ただけで犯罪者がわかる」という方がおりましたが、もしかすると、普通の顔(=非犯罪者)ではない顔の特徴を無意識にキャッチしているのかも知れません。

 

なおこの研究は中国人の方のみを対象に実験を行ったため、本研究で見出された、いわゆる犯罪者顔は万国共通の特徴なのかどうかはわかりません。

 

そう言えば、我が国、日本にもこんなカメラが導入され始めています。

 

 

今回ご紹介した研究と同じようなロジックで危険人物を検知しているのでしょうか?

注目のテクノロジーです。

 

 

清水建二

参考文献

Automated Inference on Criminality Using Face Images (Xiaolin Wu, McMaster Univ. and Xi Zhang, Shanghai Jiao Tong Univ. Nov. 21, 2016).