微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

性犯罪被害を進んで証言する子どもと証言を躊躇する子どもの表情の違い

 

子どもが性犯罪の被害者になる場合、難しいのがその証言の精度を得ることです。子どもの話は、出来事の意味を正しく把握できていないために被害の描写が曖昧になったり、記憶違いが起きたり、場合によってはファンタジーやウソが含まれることがあります。また、子どもから被害の状況を聞き取る捜査官が、有益な情報を得るために、誘導的な質問をしてしまう問題もあります。

 

そこで子どもの証言の精度を推定するために様々な手法が考案されています。例えば、Statement Validity Assessment (SVA)という面接法では、証言の論理性、突飛な詳細情報、加害者の心の状態の言及、証言の訂正などの指標をスコア化し、証言の精度を客観的に判断しています(SVA面接法及びその信頼性について詳しくは、Vrij, 2005を参照下さい)。

 

SVAのように言語的側面から子どもの証言の精度を推定しようとするアプローチが主流ですが、子どもの言語的側面の弱点を補うために非言語的側面からアプローチしようとする動きもあります。その一つが、証言中の子どもの表情を観察する手法です。

 

Bonanno(2002)らの研究によると、自身の性被害を積極的に話そうとする子どもとなかなか話そうとしない子どもの表情には違いがあると言います。この研究によりわかったことは次の通りです。

 

自身の性被害の開示について、積極的な子どもは嫌悪の表情を表わす傾向にある、消極的な子どもは恥の表情を表わす傾向にある。

自身の性被害を消極的に話す子は、性被害を受けていない子に比べ、社会的な笑い(=いわゆる、礼儀のための作り笑い)が多い傾向にある。

 

本研究の知見から私が注目したい表情は、消極的な子どもの表情、すなわち、恥表情と社会的笑いです。恥表情は、うつむき、場合によっては口に力が入る顔の動きとして表れます。これは一見、ウソをついているように思われる恐れがあります。恥感情の機能は、自己像の維持です。恥を感じている間というのは、自分というものを保とうと必死な状況なのです。また、社会的笑いも、「なぜネガティブな出来事を話しているのに笑っているのだろう?これはウソなのでは?」という誤解を捜査官に与えてしまいかねません。ウソだと思われてしまえば、自己の被害の開示に消極的な子どもの被害実態が隠蔽されたままになる危険性があります。

 

またSVAは子どもから言語的な証言が得られることを前提としているため、消極的な子どもの場合、そもそも証言の精度をはかるためのスコア化すら難しくなる可能性があります。

 

しかし、消極的な子どもにこうした表情が表れる傾向にあることを知っておけば、証言をウソと誤判断する危険性を減らすことができるでき、SVA以外の面談法を考えることも出来ます。

 

言語と非言語アプローチとが相互補完的な面談法のさらなる活用法・発展が望まれます。

 

 

清水建二

参考文献

Bonanno, G. A., Keltner, D., Noll, J. G., Putnam, F. W., Trickett, P., LeJeune, J., & Anderson, C. (2002). When the face reveals what words do not: Facial expressions of emotion, smiling, and the willingness to disclose childhood sexual abuse. Journal of Personality and Social Psychology, 83, 94–110.

Vrij, Aldert (2005) Criteria-based content analysis: a qualitative review of the first 37 studies. Psychology, Public Policy, and Law, 11 (1). pp. 3-41. ISSN 1076-8971 10.1037/1076-8971.11.1.3