本日は、表情分析エキスパートコースの受講生のみなさん(もしくはFACSを独学で学ぶマニアックな方々)への補論です。
テーマは、真の感情から表出された表情と演技された感情から表出された表情との間には違いがあるのか、です。
これまでもこのテーマでは様々な研究を紹介してきましたが、これも面白い研究なのでご紹介いたします。
研究方法は以下の通りです。
研究方法:
①真の感情から表出された表情のAUと演技された感情から表出された表情のAUを比較する。
②真の感情から表出された表情のAUは、EkmanとFriesen(1978,1982)の分類法に依拠する。
③演技された感情から表出された表情のAUは、実験のために用意されたシナリオに沿って役者に演じてもらったものを使用する。
③演技された感情から表出された表情は、二つの条件に分けられる。
- a) EFE条件
EFE(encoding felt emotions)条件とは、スタニスラフスキー・テクニック(場面にあった感情を自己が体験した同種の経験から呼び起こし、演じている役に投影する演技手法)を使用した条件である。
- b) EUE条件
EUE(encoding unfelt emotions)条件とは、役者が感情を何も感じていない状態で、意図した感情を表情筋を駆使して表現する条件である。
EFEは、いわば、感情を込めた演技です。
EUEは、いわば、感情を込めない表層的な演技です。
以上の方法を用いて実験したところ次の結果となりました。結果を表にまとめました。
|
真の感情条件 |
EFE条件(感情を込めた演技) |
EUE条件(感情を込めない演技) |
幸福 |
6+12 |
6+12+25+26 |
6+12+25+26 |
恐怖 |
1+2+4+5+20+25+26+27 |
4+5+7+26 |
4+5+26 |
怒り |
4+5+7+10+17+22+23+24+25+26 |
4+5+16+20+23+25+26 |
4+5+17+20+23 |
驚き |
1+2+5+26+27 |
1+2+5+25+27 |
1+2+5+20+26 |
悲しみ |
1+4+6+11+15+17+25+26 |
1+4+7+15+17+25+26 |
15+17+23+26 |
嫌悪 |
9+10+16+25+26 |
4+7+10+25+26 |
4+6+10+20+25+26 |
出典:Ekman and Friesen, 1978, 1982, Gosselin, Kirouac, and Dore, 1995を参考に清水作成。
実験結果の表を見ると、他の様々な研究も示している通り、恐怖の信頼できる筋肉(AU1+2+4)と悲しみの信頼できる筋肉(AU1)は演技では難しいということや演技だと余分な表情筋の混入がある(演技条件下での驚きのAU20や嫌悪のAU4など)ということがわかります。つまり、演技だと表情筋の過不足がある、と言えましょう。
本研究についてより詳しく知りたい方は参考文献を参照して下さい。
清水建二
参考文献
Ekman,P. (1982). Emotion in the human face. New York: Pergamon Press.
Ekman, P., Friesen, W.V. (1978). Facial Action Coding System: Part Two. Palo Alto. CA: Consulting Psychologysts Press.
Gosselin, Pierre; Kirouac, Gilles; Doré, Francois Y. (1995) Components and recognition of facial expression in the communication of emotion by actors.
Journal of Personality and Social Psychology, Vol 68(1), Jan 1995, 83-96.