前回の続き、本当の笑顔と作られた笑顔の違い、六つ目の指標です。
口角の引き上げと目の周りの筋肉の収縮を伴う笑顔をドゥシェンヌ・スマイルと言いました。一般的に、このドゥシェンヌ・スマイルは、心から楽しい気分でないと、顔に表れないとされています。
目の周りの筋肉である眼輪筋が収縮すると「カラスの足跡」と呼ばれる数本のしわが目尻にできます。顔の他の筋肉を動かさず、このしわのみを意図的に作る、すなわち眼輪筋のみを動かそうと思っても80パーセント以上の人は、失敗することが知られています(Ekman, Roper, & Hagar, 1980; Levenson, Ekman, & Friesen, 1990)。この事実からドウシェンヌ・スマイルは、真の笑顔のサインだと考えられています。
しかし、このドゥシェンヌ・スマイル、条件次第では意図的に作れるのです。以下の2つの条件のどちらかを満たせば、ドゥシェンヌ・スマイルが形成されます(Gunnery、Hall及びRuben(2013)の研究を参考にご紹介します※。
条件①ドゥシェンヌ・スマイルの写真を見て、真似る
会話の中や、何か動画を見て、ドゥシェンヌ・スマイルを作ろうとするのではなく、ドゥシェンヌ・スマイルをした人の顔写真を見て、それを模倣する、真似る、という方法を取ると、71%の人(Gunneryらの実験参加者の中の割合です)がドゥシェンヌ・スマイルを作ることができました。動作の中で、ドゥシェンヌ・スマイルを作ることは難しくても、お手本が目の前にあり、ドゥシェンヌ・スマイルを作る事だけに意識を集中すれば、うまく作れるのです。
条件②失望感情を隠蔽している場合
失望感情を笑顔で隠そうとするとき、38%の人(Gunneryらの実験参加者の中の割合です)がドゥシェンヌ・スマイルを作ることができました。研究の中で、失望感を表わす表情とはどのようなものかについて説明がないので、なぜなのかわかりません。しかし、いくつかのネガティブな表情の中に、眼輪筋の収縮が伴う表情があります。例えば、「悲しみ」表情のバリュエーションの中で、眼輪筋の収縮が伴うことが知られています。失望というネガティブ感情が起きたとき、この表情の一部と、口角の引き上げが混ざるとき、ドゥシェンヌ・スマイル(のように見える?もしくはドゥシェンヌ・スマイル+悲しみ表情の混合)が形成されたのだと類推できます。
では、どうやって、作られたドゥシェンヌ・スマイルと心から楽しいときに起こるドゥシェンヌ・スマイルを見分けたら良いのでしょうか?
作られたドゥシェンヌ・スマイルの強度がポイントとなります。
作られたドゥシェンヌ・スマイルは、自然なドゥシェンヌ・スマイルに比べ、強すぎるきらいがあることがわかっています(Krumhuber & Manstead, 2009)。簡単に言えば、「笑いすぎ」(に見える)という状況が起きるのです。
次回ラスト、七つ目の指標をご紹介いたします。
そして、作った笑顔か、本当の笑顔か、弊社作成の動画を用いたテストをします!
※彼らが研究の中で、意図的にドゥシェンヌ・スマイルを作るための条件を明示しているわけではありません。本ブログに提示した条件は、清水が彼らの研究及びその他の研究を参考にして、まとめたものです。
清水建二
参考文献
Ekman, P., Roper, G., & Hager, J. C. (1980). Deliberate facial movement. Child Development, 51, 886–891.
Levenson, R. W., Ekman, P., & Friesen, W. V. (1990). Voluntary facial action generates emotion-specific autonomic nervous system activity. Psychophysiology, 27, 363–384.
D. Gunnery, J. A. Hall, and M. A. Ruben. (2013). “The Deliberate Duchenne Smile: Individual Differences in Expressive Control,” Journal of Nonverbal Behavior, vol. 37, no. 1.