微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

写真面割りの科学

 

「写真面割り」という言葉を聞いたことがありますか?

 

警察署にて、事件の目撃者がマジックミラー越しに立ち、ズラッと並べられた犯罪容疑者の中から誰が本当の容疑者かを判断している…そんなシーンを映画などで見たことがあるかも知れません。

 

写真面割りとは、これの写真版です。目撃者に容疑者の顔写真を見せて、どれが容疑者ですか?と尋ねる方法です。この写真面割りにはいくつかの方法が取られています。

 

次のどの方法が目撃者にとって最も誤判定が起きにくい容疑者判定法だと思いますか(状況を単純化するために、状況証拠からある程度確からしい容疑者を警察が把握している場合とします)?

 

①容疑者及び確実に容疑者ではない複数人を含む顔写真を同時に見せ、「この中に容疑者がいます。誰ですか?」と問う方式

②容疑者及び確実に容疑者ではない複数人を含む顔写真を同時に見せ、「この中に容疑者がいるかもしれませんし、いないかも知れません。この中に該当者はいますか?」と問う方式

③容疑者及び確実に容疑者ではない複数人を含む顔写真を一枚一枚順番に見せ、「この中に容疑者がいます。誰ですか?」と問う方式

④容疑者及び確実に容疑者ではない複数人を含む顔写真を一枚一枚順番に見せ、「この中に容疑者がいるかもしれませんし、いないかも知れません。この中に該当者はいますか?」と問う方式

 

どれでしょうか?

 

①②と③④の違いの一つは、相対判断になるか絶対判断になるかです。もう一つ違う点は、容疑者がいると捜査官が断言しているか、していないかです。相対判断だと、自分が目撃した人物に一番近い人物を、複数人を相対的に比べて判断することになります。つまり、目撃者は同時に複数人見ながら「どの人が一番、自分の記憶にマッチするかな?似ているかな?」と考えるわけです。絶対判断だと、一枚一枚顔写真を見ながら、その都度、自分が目撃した人物かどうかを判断することになります。目撃者は、顔写真を一枚見ては、「自分の記憶に合う・合わない」を考えるのです。

 

捜査官の「この中に容疑者が必ずいます」という発言があると、相対判断に拍車がかかり、目撃者は「この中に必ず容疑者がいるのだから、自分の記憶に最も近い人物を選べるハズ」となります。しかし、「容疑者がいるかいないかわからない」という発言かつ絶対判断の条件だと、目撃者は、顔写真を一枚見ては「この人物はどうかな?」また顔写真を見ては「この人物だろうか?」と慎重に判断していくことになります。

 

以上のことより、正解は④となります。

 

なお写真面割りをするときには、最初に目撃者に容疑者の風貌に関する描写をしてもらい、その描写に合うような容疑者役の複数人の顔写真を作成します。そしてそれらを容疑者の顔写真の中に混ぜ、目撃者に顔写真が最初から何枚あるかを知らせず、一枚ずつ提示し、容疑者だと判断した瞬間に判定を終わらせる方法が、最も誤判定が起きない方法であることが確かめられています。

 

写真面割りの科学について詳しく知りたい方は、渡辺昭一(編)『捜査心理学』北大路書房のp.20~p.29を参照してみて下さい。

 

 

清水建二

参考文献

捜査心理学

捜査心理学