ウソつきの典型的な動きって何だと思いますか?
心臓がドキドキする、手や足が震える、瞬きが増える…etc
こうした例が思い浮かぶと思います。
こんな動作が生じるときというのは、それは私たちが緊張しているときです。
ウソをついているとき、緊張するということはもちろんありますが、ウソ科学が解き明かすウソつきの行動というものは、緊張という心理的な負担によるものとは違う場合もあるのです。というのは…
ウソが露呈することによって失うものが大きい場合、以下の表で示しているようなウソのサインが生じることが確認されています(Mannら2002)。このような場合、意外なことに、ウソのサインと思われている行動が見られないことがわかります。
表:真実の証言とウソの証言を話しているときの行動上の違い
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サンプル数(N=16) |
男性のみ(N=13) |
視線そらし |
差異なし |
差異なし |
瞬き |
減少 |
減少 |
頭の動き |
差異なし |
差異なし |
手・腕の動き |
差異なし |
減少 |
沈黙 |
増加 |
増加 |
言語的なためらい・スピーチエラー |
差異なし |
差異なし |
出典:Mannら2002を参考に筆者作成。
例えば、
「犯罪容疑者がウソの証言をするとき、沈黙が増加し、手と腕の動きが減少する傾向がある。」
これは心理的な働きではなく、証言内容が複雑であるがゆえに生じる認知的な負担の高まりによるものであり、行動を抑制しようとする作用が働いたためであると考えられています。
また瞬きの減少も認知的負担の高まりのために起こることが知られています。人は神経質になると瞬きは増加するのに対し(Harrigan & O’ Connell, 1996; Tecce, 1992)、認知的負担が高まると瞬きは減少するのです(Wallbott & Scherer, 1991)。
なぜ先の状況においてウソをついている証言者は、心理的な圧迫によって示されるウソのサインよりも認知的な負担の高まりに関係するウソのサインを示すのでしょうか。多くの犯罪容疑者は、これまで警察の取り調べを経験し、警察の取り調べに慣れているため、取り調べにおいて普通ならば経験する心理的な負担が減少しているのだと考えられています。一方で、警察の取り調べを受ける犯罪容疑者は、平均より知性が低い傾向があり(Gudjonsson, 1992)、知性の低い者は、現実的で説得力のある証言を創作するのに苦労するゆえに認知的負担が高まると考えられています(Ekman & Frank, 1993)。
つまり、取り調べに対する慣れによってウソをつくこと対する心理的負担は減少するものの、知性が低いゆえに認知的負担は高まる、ということです。
さて、これまで、そして今回ご紹介してきたように、ウソのサインというものは心理的負担だけでなく認知的負担の高まりによって生じるものだということです。しかし、ウソをついていなのにウソの嫌疑をかけられれば、「無実の罪で捕まってしまうかも!」と心理的に恐怖を感じることも考えられます。また身の潔白を証明しようと必死にアリバイを思い出そうとすることで認知的負担も高まりましょう。
そうすると結果的には、
「ウソつきと同じような動作を正直な人もしてしまうのでは?」
「こうした動きの個人差などもあるのでは?」
なんていう疑問が浮かびます。
次回は、これらの区別をどうするか?ベースラインというキーワードを軸にご紹介しようと思います。
清水建二
参考文献
Mann, S., Vrij, A., & Bull, R. (2002). Suspects, lies and videotape: An analysis of authentic high-stakes liars. Law and Human Behavior, 26, 365-376.
Harrigan, J. A., & O’Connell, D. M. (1996). Facial movements during anxiety states. Personality and Individual Differences, 21, 205-212.
Wallbott, H. G., & Scherer, K. R. (1991). Stress specifics: Differential effects of coping style. Gender, and type of stressor on automatic arousal, facial expression, and subjective feeling. Journal of Personality and Social Psychology, 61, 147-156.
Gudjonsson, G. H. (1992). The psychology of interrogations, confessions and testimony. Chichester, England: Wiley & Sons.
Ekman, P., & Frank, M. G. (1993). Lies that fail. In M. Lewis & C. Saarni (Eds.), Lying and deception in everyday life (pp. 184-201). New York: Guilford Press.