精神病と表情認知とには様々な関連があることが諸研究より指摘されています。本日は、「うつ」に焦点を当て、表情認知の問題を考えてみたいと思います。
うつ病の患者さんの表情読解能力に関する研究は様々あり、その結論も様々です。うつ病患者さんの表情読解能力は、そうでない人に比べ、「高い」という研究もあれば、「低い」という研究もあります。
結局どちらなのでしょうか?
うつの程度によって表情読解能力の違いがあることを明らかにした研究があります。
実験参加者(大学生)のうつ傾向を計測し、高うつ傾向のグループと低うつ傾向のグループに分けます。それぞれのグループに表情読解テストを受けてもらいます。さらにテストを受けている間の目の動きを計測します。その結果非常に興味深いことがわかりました。
高うつ傾向のグループは低うつ傾向のグループに比べ、表情読解の正答率は同じものの、表情を素早く識別出来ていることがわかりました。
さらに高うつ傾向のグループは、表情識別をする際に、目線が顔の左側に向かい、注目しているということがわかりました。
これらの知見と人の本心は顔の左側に出やすいという知見とを合わせて考えると、合点がいきます。
また、私たちは通常、楽観的に物事を捉える傾向にあるものの、うつ病の人々は驚くほど現実をありのままに把握する能力が高い、ということが知られています。
これも今回の研究の知見と同方向を向いています。
こうした知見を見ていると、現実は少し歪んでー自分にとって好意的にー見えていた方が幸せだということなのでしょう。ありのままに現実を直視できるほど私たちは強くないのかも知れません。
清水建二
参考文献
Lingdan Wu, Jie Pu, John J. B. Allen, and Paul Pauli. Recognition of Facial Expressions in Individuals with Elevated Levels of Depressive Symptoms: An Eye-Movement Study. Depression Research and Treatment. Volume 2012 (2012), Article ID 249030, 7 pages