感情伝染理論(The emotional contagion theory)というものがあります。文字通りの意味ですが、詳しく言うと「他者の表情、声、姿勢、動きを無意識に真似し、同調することにより、他者の感情が伝染する現象」という意味です(Hatfield, Cacioppo, & Rapson, 1992)。
Face to Faceのやり取りが行われる社会の様々な場でこの現象が観察されています。サービス業の分野に限定して言えば、サービス提供者、つまり店員さんの非言語の振る舞いがお客さんの接客に対する満足度に影響を与えたり、購買行動までをも左右する結果を生み出すことがわかっています。
様々なクレームを好転させるスキルを持つ店員さんに出会うと、その感情・表情コントロールの秀逸さに敬服する思いがします。お客さんの怒りを、ときには笑顔で、ときには悲しみで、ときには共感心を持って巧みに対応しているのです。
はっきり言って、そんな素晴らしいスキルを持った店員さんは稀です。
様々なクレームに対して、ニコニコ顔で対応し続けられる店員さんは稀だということを示す研究があります。
こんな実験がなされました。
実験では、空港の手荷物受取場において大切な手荷物が届いていないことに対して怒っている、もしくは怒っていないお客さんとそれに対応するサービス係の状況が設定されました。
お客さん役は「怒り」もしくは「怒っていない」演技をリアルに演じられる役者が担当しました。
そんなお客さんのクレームを聞いているサービス係=空港の職員の役を実験協力者が担当します。実験協力者はみな接客対応の実務経験がある人々です。
実験協力者らはお客さん(役)からのクレームに対処しようと試みます。
そんなクレーム対応しているときの実験協力者らの顔が計測されました。
計測の結果、
「怒っていない」客に対応している場合と比べ、「怒り」客に対応しているサービス係の表情は、微細な否定的な表情で対応していることがわかりました。
具体的には、「怒り」客に対し、サービス係は、「目をそらす」「否定的なスマイルをする」「唇をなめる」「眉が下がる」「瞬きが増える」「唇をきつく閉じる」という表情を見せました。
お客さんの否定的な感情がサービス提供者の心にも伝染する可能性を示唆する研究結果です。
さて、実験状況で観察された微細な否定的な表情をどれだけ実際の場でお客さんが感知出来るのかについて議論の分かれるところですが、いくつかの実験から「微表情」は、それを目にしている側は、意識的には検知できなくても無意識に検知できるという知見が得られています。
ということは、クレームを述べているお客さんは、店員さんのニコニコ顔の隙間から漏れ出る否定的な表情を感じ取り、より怒りを爆発させたり、クレームが解決されても不満が残ったままになっている可能性が考えられます。
では、サービス提供者の側はどうすれば良いのか?
続きはまたの機会に。
清水建二
参考文献
Dallimore, K., Sparks, B., Butcher, K. 2007). The influence of angry customer outbursts on service providers' facial displays and affective states. Journal of Service Research, 10(1), 78-92.