5月15日の「空気を読むを科学する」セミナーin埼玉にお越し下さった皆さん!本当にどうもありがとうございました。
30名の笑顔、カラスの足跡があるないにかかわらず(いや、冗談です😅笑)、に囲まれ大変あたたかな雰囲気の中、お話をさせて頂き感謝申し上げます。現在、皆さんに書いて頂いたアンケート一つ一つを読ませて頂いております。アンケートの内容から多くの学びを頂いております。今後とも精進させて頂きたいと思います。
さて、一昨日のセミナーでも話題にもなりましたが、本日はうつ病と表情に関する最新の研究をご紹介させて頂きたいと思います。
ボトックスってご存知ですか?
ボツリヌス菌A毒素を製剤化したものを顔に注射することで、顔のしわをとり、見た目の印象を若くする美容整形の方法の一つです。
近年、このボトックスを用いてうつ病の症状を改善させようとする試みがアメリカで注目を集めています。
この治療法を簡単に説明いたしますと、うつ病患者が顔に表す否定的な表情をボトックス注射によって顔から取り除いてしまおう、というものです。
「怒り」や「悲しみ」「恐怖」といった否定的な感情を表す時に使う顔の筋肉―眉間の周りや眉の上―にボトックス注射をすることにより、その筋肉の活動を止めてしまい、物理的に否定的な表情を顔に出せないようにするのです。
それでは、なぜこの方法がうつ病の病状を改善させると言えるのでしょうか?
一つに、これまで多くの研究が「否定的な表情の表出」と「うつ病」との間に相関があることを認めていることが関連しています。
二つに、「顔面フィードバック仮説」(Strack et al, 1988など)というものがあります。
「顔面フィードバック仮説」とは、私たちの表情が脳にフィードバックし、感情に影響を与えるというものです。言い換えるならば、「悲しいから泣く」だけでなく、「泣くから悲しくなる」という現象のことです。
この説を前提にすると、「泣く」ときに使う顔の筋肉の動きを止めてしまえば、たとえ悲しくても「泣き顔」、「悲しみ」表情が形成されず、「泣き顔」が取り除かれた顔の情報が脳にフィードバックされます。そうすると『「悲しみ」表情が顔に浮かんでいないのだから、「悲しい」感情ではない。』と脳は判断するのです。
そこで、
「否定的な表情に使われる筋肉にボトックスを注入することは、うつ病の症状改善に貢献する。」
という仮説が立てられました。
そしてこの仮説が近年、科学実験によって実証されました(Eric and Norman, 2014)。
この治療法には、まだ問題が残されてはいるものの、際立った副作用などの心配がなく、治療費も低コストであるため、近年アメリカで注目されている治療法のようです。
日本の精神医療の世界にはどんな影響があるのでしょうか。
今後の動向を追ってみます。
いち早く情報を知りたい方は、Eric及びNorman博士のwebサイトを覗いてみて下さい。http://www.botoxfordepression.com/
清水建二
参考文献
Strack F, Martin LL, Stepper S. Inhibiting and facilitating conditions of the human smile: a nonobtrusive test of the facial feedback hypothesis. J Pers Soc Psychol 1988;54(5):768e77.
E. Finzi, N.E. Rosenthal. Treatment of depression with onabotulinumtoxinA: A randomized, double-blind, placebo controlled trial. Journal of Psychiatric Research 52 (2014) 1e6