微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

表情研究のターニングポイント 「微表情の発見」

 自殺の徴候というものはあるのでしょうか?「確信的な徴候はない」というのが、一応の答えです。しかし優秀なセラピストの中には、ほとんどミスすることなく、直感的にうつ病患者の自殺の徴候を読みとれる人がいるようです(Motto, 1991)

 

 セラピスト自身も説明できない彼らの直感力とは何でしょうか?微表情の発見に至ったある象徴的な事例があります(Ekman, 1985)。

 

 重度のうつ病を患い精神病棟に入院していた患者さんが面談中、担当医に一時退院の許可を申し出ました。その患者さんは満面の笑顔で、もうすっかり元気になったので退院したいと言っていたのですが、担当医が直感的に不審に思い、一時退院の許可を出しませんでした。

 

その時記録用に撮っておいた面談中の様子を分析すると、

 

患者の笑顔の隙間から何度もコンマ何秒の速さで「悲しみ」の表情が漏れ出ているのが観察されました。

 

後にその患者が語ったことは、

 

「一時退院が出来たら、自殺しようと思っていた」

 

ということです。

 

このコンマ何秒の「表情のかけら」が後に「微表情」の発見へとつながります。

 

他にも複数人のうつ病患者さんの表情を分析し、自殺の徴候を探ろうと試みた研究があります。例えば、HellerHaynal (1997)は、インタビュー中のうつ病患者の表情を記録し、以下の知見を見出しました。

 

自殺を試みたグループとそうでないグループを比べると、自殺を試みたグループの表情は、

 

「左右非対称に表情が動き、顔の上の部分の表情(まゆ、額、鼻の周辺など)の動きは乏しく、「軽蔑」もしくは「嫌悪」表情を顔に浮かべる傾向にある。」

 

 他にも様々な自殺とうつ病患者の表情に関する知見があります。他の研究はまたの機会にご紹介できれば良いかと思いますが、往々にして、同じうつ病を患っていたとしても、自殺しようと思っている人とそうでない人との間には表情に違いが生じているようです。ただし個人差もかなりあるようなので、冒頭に申しました通り、結論付けるには慎重にならなくてはいけません。

 

 

清水建二

参考文献

Ekman, P. (1985). Telling lies. New York: Norton.

Heller, M. & Haynal, V. (1997): Depression and suicide faces. In Ek­man, P. & Rosenberg, E.L. (eds.): What the face reveals. Oxford, England : Oxford University Press, pp 339-407.

Motto, J.A. (1991). An integrated approach to estimating suicide risk. Suicide & Life Threatening Behavior, 21, pp74-89.