微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

ウソ検知の科学⑬―ウソを読み解くのが得意な人たち

 

通常、ウソを検知する私たちの能力は偶然レベルを超えることはないのですが、この能力に秀でた人々が存在します。

 

真実の魔術師(Truth wizards)

80%以上の精度でウソを検知できる人々がおり、彼らは「真実の魔術師(Truth wizards)」と呼ばれています(O’Sullivan & Ekman, 2004)。詳細は以下に記載します。

 

左脳損傷患者

左脳損傷患者は右脳損傷患者や脳に何の損傷も受けていない人々に比べ、感情に関わるウソを検知する能力に優れています。左脳の損傷により、言語を扱う能力に制限が加えられたことにより、非言語の使用に長けた結果だと考えられています(Etcoff, Ekman, Magee, & Frank, 2000)。

 

虐待経験者

虐待を受けて育った子どもや施設で育てられた子どもは、感情に関わるウソを検知する能力に優れています(Bugental, Shennum, Frank, & Ekman, 2000)。

 

これらの3つの中でも、「真実の魔術師」に対して研究者は注目し、世界中から「真実の魔術師」を探すプロジェクトがなされています。2004年時の報告によれば(O’Sullivan & Ekman, 2004)、「真実の魔術師」の数は、12,000人の中からわずか29人しか見つかっていません(※)。彼らのウソ検知力の高さがどのようにして得られたかについてEkmanらは明らかにしていませんが、生育環境や就いた職業に関連がある可能性を指摘しています(O’Sullivan & Ekman, 2004)。

 

「真実の魔術師」らの能力の謎を明らかにするために、ウソを見抜いているときの彼らの目の動きを調査した研究があります(Bond, 2009)。研究の結果、各「魔術師」によって異なるストラテジーが採られていることがわかりました。ウソを検知するとき、ある「魔術師」は、表情に注目し、またある「魔術師」は、身体の動きに注目していたことがわかりました。

 

しかし「真実の魔術師」が存在したとしても、何が「真実の魔術師」ならしめているのかは、依然としてその多くがベールにつつまれたままです。

 

「真実の魔術師」プロジェクトの進展が期待されます。

 

ところで、皆さんの周りには「真実の魔術師」がいたりしませんか?!

 

※統計的な議論をすれば、「真実の魔術師」の出現率は、偶然によるもので、「真実の魔術師」など存在しない、ということが言えます。しかし、「真実の魔術師」がウソを検知する様を私は見たことがありますが、彼女は、適確にウソのポイントを指摘し、偶然、ウソを見抜けていたに過ぎないようには見えませんでした。

 

 

清水建二

参考文献

O’Sullivan, M. & Ekman, P. (2004). The wizards of deception detection. In Granhag, P. & Strömwall, L. (Eds.), The detection of deception in forensic contexts (pp. 269–286). Cambridge, England: Cambridge University Press.

Etcoff, N. L., Ekman, P., Magee, J. J., & Frank, M. G. (2000). Lie Detection and Language Comprehension. Nature, 405, 139.

Bugental, D. B., Shennum, W., Frank, M., & Ekman, P. (2000). “True Lies”: Children’s Abuse History and Power Attributions as Influences on Deception Detection. In Manusov, V. & Harvey, J. H. (Eds.), Attribution, Communication Behavior, and Close Relationships (pp. 248-265). Cambridge, United Kingdom: Cambridge University Press.

Bond, G. D. (2009). Deception detection expertise. Law and Human Behavior, 32, 339-351.