微表情

フラッシュのように一瞬で表れては消え去る微妙な表情、微表情。このブログでは、微表情、表情、顔を始めとした非言語コミュニケーションの研究や実例から「空気を読む」を科学します、「空気」に色をつけていきます。

本音で話さざるを得ない説明会?!

博報堂さんが表情分析の技術を使い「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」を実施されたようです。

 

誰に対する説明会かというと就職活動中の学生さんです。

 

ワークライフバランスなど学生さんの質問に対して、社員さんが正直に答えているか否かを表情分析アプリで推測するイベントです。

 

画期的でワクワクするような説明会ですね!詳しくは以下のURLよりご覧下さい。説明会の様子も動画でご覧になれます。

 

www.advertimes.com

 

これはまさにディスコさん主催のセミナーで2年ほど前から実施させて頂いている「面接官のホンネを微表情から読んで、面接の流れを変える」私のセミナーテーマと方向性が同じですね。

 

実は私のセミナーでは、面接時の面接官の表情・微表情の読みとり方だけでなく、それを活かすための準備の大切さや会社説明会でリクルーターの方やOB・OGの本音を推定するための表情・微表情の読みとりや質問法も説明させて頂いているのです。

 

ここでCMです。5月14日(日)東京ビックサイトで面接官の表情・微表情を読み方・活かし方セミナーを行います。ご興味ある就活生の皆様、ぜひ参加申し込みをして下さい。

job.career-tasu.jp

 

博報堂さんがディスコさんと私に追いついたようです笑。。まぁ、機械での計測なので人の目よりも博報堂さんのアプリの方が正確だと思いますが。。。では私はそれに対抗してコンタクトに埋め込むタイプのアプリ開発に動こう笑

 

冗談はさておき、博報堂さんで紹介しているものは記事から察するにウソを直接見抜くものではなく、感情のブレを測定しているようですね。

 

今回のようなウソ検知のようなアプリの実用化に向けて、私は次のような注意が必要だと考えます。本ブログでも何度も取り上げさせて頂いているように表情分析からウソを直接検知することは出来ません。ウソ検知における表情分析の目的は、表情の変化や文脈と表情とのズレから感情のブレを特定し、その理由を深堀するための質問・調査ポイントの発見です。こうしたことを表情分析技術の使い手は認識する必要があると思います。研究・開発側と運用側との意思疎通が上手くいかないと、ポリグラフ検査機、いわゆるウソ発見器で生じてきたような論争がこうしたアプリでも繰り返されることになりかねません。

 

こうした考えなくてはならない側面はあるものの、新しい技術の可能性を既存の色々な価値や場面と組み合わせる今回の試みは、とても素晴らしく心躍るものだと私は感じます。

 

近年、表情分析の技術の応用がますます加速度化しています。アプリや機械がその内部で何をどう分析しているのか、表情分析の専門家と機械の目・判断プロセスでは何が同じで何が違うのか、日本人の表示規則をどう加味し計測するか、そんなことがわかる表情分析の日本人専門家や感情心理学者の育成が急務なのかも知れません。

 

 

清水建二

最近目にした気になる表情

 

眉を八の字にした店員さんが、

 

「申し訳ございません。あちらのカウンターでお願い致します。」

 

1分後、笑顔で先ほどの店員さんが、

 

「お待たせいたしました。店内でお過ごしですか?ご」

 

店員さんの「ご注文」という言葉が出てくる前に、

 

「はい。ドリップコーヒー、アイス、トール、氷なしでお願いします。」

 

と私。

 

現在、たまたまこの記事をスタバで書いているのですが、つい5分前に私が目にした光景です。やっぱり、スタバは心地よいですね。

 

似たようなことが昨日もありました。一人でふらっと入ろうとした肉バル。予約表か何かを観ながら、眉を八の字にした店員さんが、

 

「申し訳ございません。今、お一人様席ご用意できないのです。すみません。またお待ちしております。」

 

と最後まで八の字眉毛が維持されたまま、私を店の外まで見送ってくれました。前回の焼き鳥屋さんとは異なり「二人分払うから、席用意ください。」という嫌がらせのようなセリフを言いたくなる気持ちは起こらず、次回はタイミングよく来店したいなと自然に思われてきました。

 

悲しみ感情は、大切なヒト・モノ・コトの喪失を原因に起こります。表情の特徴は、八の字眉毛で、この動きは本当に悲しい、申し訳ないと心から思えないと動かない筋肉の一つだと言われています。

 

覆面調査、いわゆるミステリーショッピングの調査項目の中に、店員さんのおもてなし力というか、感情接客力みたいなものを観るために、状況別の適切な表情を採点するような項目があれば良いのに、と思う今日この頃です。

 

入店を断られるとき、店員さんの表情(気持ち)一つが、お客さんの次回の来店動機に大きな影響を与えているのではないかと個人的には思います。

 

 

追伸:

セミナー登壇情報です。ディスコ様主催で昨年度まで登壇させて頂いておりました「感」「伝」「治」セミナーですが、「面接LABO」としてリニューアルいたしました!就職面接で悩んでいる学生さんに、感情を上手に扱い、面接を突破するためのTipsをお届けいたします。科学知見と人事や経営者の生の声をもとにしたハイブリッド型コンテンツです。場所は、東京ビックサイト西展示棟のセミナーB会場です。清水の登壇日時は、5月14日(日)10:00~11:00と11:30~12:30の2回です。参加申し込みは以下のURLよりお願い致します。https://job.career-tasu.jp/2018/event/detail/168/#page-05

 

 

清水建二

微表情を観ればアドバイスの受け入れ具合がわかる

 

私は仕事柄、人前で話すことが多いため、日々プレゼンの方法を研究しています。研究方法は色々ありますが、オーソドックスな方法としては色々な人のプレゼンを観る、という方法です。

 

私が思うプレゼンが抜群にうまい人がいる業界は、大学受験業界です。私も予備校や塾にそこそこ身を置いていたからこそわかる世界なのですが、授業アンケートの結果が悪いとすぐにクビになるため、いかに生徒にわかりやすく、いかに生徒の成績を上げれるか、いかに生徒にやる気になってもらえるかについて、本当に必死に考え、授業を練ります。結果として一流の講師になればなるほどプレゼンもピカイチになるわけです。

 

そこで私は今でも大学受験予備校の先生のプレゼンから色々学ばせて頂くことがあるのですが、先日、スタディサプリというオンライン予備校の講師を決めるための番組でとても面白い動画を発見しました。まずはこちらをご覧下さい。

 

 

 挑戦者の方のプレゼンから学ぶところも大いにありますが、微表情的に興味深いシーンは、5:27以降の講評のところです。挑戦者の方は、現役のスタディーサプリの看板講師の方々から、授業をよりよくするためのアドバイスを受けています。

 

このときの微表情がとても興味深いです。挑戦者の方のプロフィールや実績、背景を鑑みると色々思うところがあり、この微表情が出ることは、ある意味、納得と言いますか、同感できるところがあります。

 

しかし、さらに興味深いのは次の動画です。この挑戦者の方が2回目に授業のプレゼンに挑戦した動画です。こちらをご覧下さい。

 

 

6:29以降の講評のシーンで、最初の動画で現れていた微表情が基本的に消えています。この1回目から2回目の授業プレゼンの間、あるいはもっと直前の2回目のプレゼン合否判定後に、心境の変化があったのではないかと推測されます。

 

単に前回より今回の方が受け入れやすいアドバイス・講評であった可能性も否定は出来ませんが、その他の微表情や感情から考えるに、挑戦者の方のアドバイスの受け入れ度合いに変化が生じたのだと思います(放送の関係でカットが様々入るので、カットされていないときの微表情はわかりませんが)。

 

微表情の解説を含め、あまり人の心の中のことを推定し、書いてしまうと誤解が生じたり、具合が悪くなると困るのでこれ以上は書きませんが、率直な感想としては、心境の変化や心の成長、他者に対する態度の変化というものは如実に表情に現れるのだな、ということです。

 

プレゼンの方法を研究するために観ていた動画から偶然発見した今回の動画。

 

挑戦者のプレゼン、講評の仕方、微表情から垣間見る心境の変化ととても多くの学びを得ることが出来た動画でした。

 

 

清水建二

微表情の意味を即断しない忍耐力―微表情は深堀ポイント

 

微表情という言葉が広がりつつあることに嬉しさを覚えると同時に微表情の意味を即断し、微表情=ウソとナイーブに結び付けてしまう言説が散見されるようになってきました。

 

そこで本日は微表情をウソ検知に利用する際の注意点について書かせて頂こうと思います。

 

まずはこちらの動画をご覧下さい。

 

 

どちらかの女性が指輪を盗んだのに盗んでいないとウソをついています。なお1:15に答えがわかってしまいますので、ご自分で答えを出したい方は、1:14あたりで動画を止め、何度も見返して下さい。

 

さて、動画に登場した微表情について解説します。➡は清水が面接者だったら心の中で何を考えるかを示しています。

 

面接者:指輪を盗みましたか?

回答者1:いいえ。

➡(0:46秒)眉が中央に引き寄せられ、鼻孔が開いた。怒りの微表情何に対する怒りだろうか?無実なら普通の反応である。

面接者:あなたが盗んでいるところを目撃した人がいるということはありえますか?

回答者1:ないと思います。

➡(0:51秒)眉が中央に引き寄せられると同時に、下唇が引き上げられている。熟考の微表情。(0:52秒)鼻のまわりのしわ。嫌悪の微表情。この質問に対して、一瞬考え、嫌な質問だと思った。しかし、その理由は何だろうか?

 

面接者:指輪を盗みましたか?

回答者2:いいえ。

➡(1:04秒)口角が引き下げられ、下唇が引き上げられている。悲しみか熟考の微表情。熟考ならば、答えるのに簡単な質問に対する反応として、違和感を抱く。しかし、悲しみなら無実の人間の反応として普通の反応。

面接者:あなたが盗んでいるところを目撃した人がいるということはありえますか?

回答者2:ないと思います。ケイシーが私をそこで私を見ていたので、ケイシーが保証してくれると思います。

➡(1:29秒)肩が引き上げられると同時に唇がプレスされる。自信がないことを意味する微動作と熟考の微表情。言動が一致していない。ケイシーが保証してくれるかどうか自信がないのだろう。ケイシーに後でコンタクトを取り、回答者2をどこでいつ見たかを聴いてみよう。

 

Norah博士が1:15に答えを述べてしまっているので、もう結果はわかっているのですが、答えがわからないとして続けてみます。

 

博士は、ウソ検知において証拠を利用する重要性を説いています。博士は、特定の犯罪や出来事について知っていなければ、知りえない情報のことを証拠と定義づけています。そこでここから映像では、指輪の窃盗が起きた場所においておいた特別な人形を証拠にして、ウソ検知を試みています。この人形は特別に作られたものなので、指輪を盗んだ場所にいなければ見ることが出来ない人形のようです。

 

面接者:見せたいものがあります。この人形を見たことがありますか?

回答者1:いえ。

面接者:その根拠はありますか?

回答者1:だって見たことないんですもの。

➡(2:28秒)自信がない言動が一致している。特に問題はない。

 

面接者:見せたいものがあります。この人形を見たことがありますか?

回答者2:はい。そのへんで見ましたよ。机のあたりで。

➡(2:48秒)口角が引き下げられ、下唇が引き上げられる。熟考の微表情。何に対する熟考だろうか?イラストレーターが出ており、視線が上を向いていることから、どこかで見たのだが、そこがどこか自信がないのかも知れない。口を滑らせてしまったのか、あるいはどこかで似た人形を見ただけかも知れない。どこでいつ見たか、深堀して質問していく必要がある。

面接者:その根拠はありますか?

回答者2:わかりません。だって本当なんですもの。

➡(3:15秒)唇がプレスされると同時に口角が下がり、下唇が引き挙げられている。熟考の微表情。人形を見たけど、やはりどこで見たのか自信がないようだ。認知面接のテクニックを用いて、記憶を呼び起こしてもらえるように質問を続けよう。

 

この映像のテーマは、言語・非言語だけでなく、証拠を戦略的に使ってウソを検知しようというものですが、微表情の意味を解釈するプロセスを説明する上で好例なので使わせて頂きました(証拠を戦略的に使ってウソ検知する方法を以前にブログで書いたかどうか忘れました。またいつかブログで書くかもしれませんが、本日は触れません)。

 

結果としては、回答者2が指輪を盗んでいます。「➡」以下を見て頂いておわかりのように、微表情の意味を解釈するときは、即断はぜずに(とは言え、清水もときどき判断しようとしてしまいますが、あくまでも疑わしきは罰せず、もしくは違和感レベルで止めます)、保留し、深堀質問をすることでその意味を明確にしようとすることが重要です。回答者1と2を比べると、2の回答内容の方が微表情の数―特に熟考の微表情―が多く、より慎重に深堀して質問する必要がある、質問を多くする必要があることがわかります。そんなときは、面接者(質問者・捜査官)側が勝手に回答者の微表情の意味を決めつけず、忍耐強くあらゆる角度から質問し、その意味を明らかにしていくことが大切です。その過程で、アリバイが崩れたり、自ら罪を告白してくれることもあるでしょう。もしくは正確な記憶が呼び起こされ、論理的でクリアな言説となり、無罪が証明されるかも知れません。

 

今回のブログ記事を通じて、微表情はウソの証拠として使うのではなく、深堀質問をするために使うキッカケだということを、今一度、注意喚起させて頂ければ幸いです。

 

 

清水建二

 

学術論文を読もう第一回―表情から消費者の感情を計測する:要約・導入編

 

 表情分析のプロになるには、一般書を読むだけでなく、専門書や学術論文を読み、より詳細な専門知識を習得することが必須だと考えます。とは言え、いきなり(日本語・英語問わず)学術論文を一人で読むことは大変だと思います。そこで本シリーズ、「学術論文を読もう」では、表情を始めとする非言語コミュニケーション及びウソ検知に関する珠玉の学術論文を題材に、内容の要約を提示しながら、論文を読んでいるときの私の思考の道筋を見える化し、学術論文を読むためのサポートをさせて頂こうと思います。

 

一人でも多くの表情分析官が育ちますように。

 

さて、第一回の課題学術論文は、

 

Matsumoto, D., Hwang, H. S., Harrington, N., Olsen, R., & King, M. (2011). Facial behaviors and emotional reactions in consumer research. Acta de Investigacion Psicologica (Psychological Research Records), 1(3), 441-453

 

です。

 

本論文のロジック、内容の要約及び私のコメントを➡で書かせて頂きます。

 

要約

 

消費者研究において消費者の感情を計測することは重要なことであるが、これまでの研究では消費者の自己報告に基づき感情を計測しており、信頼性に疑いが残る。そこで本研究では、消費者の表情から感情を計測することにした。研究の結果、嫌悪と社会的微笑が多く、真の微笑が生じることはまれであることがわかった。また表情筋の動きは弱く、短い間しか発現しないことがわかった。

 

➡なるほど。消費者動向というか、満足度などをこれまでは質問紙などの自己報告で測っていたものを、表情から計測しようとする試みなのね。面白い。言葉よりも表情の方が正直な場合が多いし。どんな研究手法で計測したのかな?

 

導入

 

第①パラグラフ

消費者研究において感情を計測することは重要である。感情は、商品そのものや購入行動・意思、購買価値と関連があることが知られている。現在の消費者研究は、質問紙などを用いた消費者の自己報告に基づくものが主流である。

 

第②パラグラフ

しかし、こうした自己報告に基づく計測法には限界がある。感情は瞬時に変化するものなので、こうした計測法で消費者の複雑な感情反応を正確に計測できているか疑問である。

 

➡確かに。紙やwebで満足度アンケートやっても全部「大変満足」とか自分はしてしまうし。そもそもそんなに真剣にアンケートに答えないことが多いし。

 

第③パラグラフ

こうした限界を乗り越える一つの方法として、消費者の中枢神経系や自律神経系を計測する方法がある。

 

第④パラグラフ

しかしこの手法にも限界がある。自律神経系の活動はポジティブ・ネガティブ感情を超えて、個別感情の測定が出来ることを示すデータがない。また脳の活動から感情を計測することは可能だが、特別な機器を用いて消費者を寝た状態にして、計測する必要があり、不自然である。

 

➡ウソを検知する研究でも似たような問題があったな。脳波からウソをついている人間を驚くべきほど正確に測定する装置があるのだけど、大規模な機械の中に人を入れる必要があるとか。でも最近の研究で顔の表面温度からウソを検知できる、録画画像でも可、とか開発された気が…。おっと、余計なことを考えすぎた。論に戻らないと。

 

第⑤パラグラフ

こうしたアプローチの代替策が、消費者の表情を計測するという方法である。消費者の自己報告に頼らず消費者の個別感情を客観的に計測することが出来るのである。

 

➡なるほど。

 

第⑥パラグラフ

表情から感情を計測する手法は、感情の質を詳細に計測できる点でも有効である。ネガティブ感情と一くくりにされる怒り・恐怖・悲しみには、それぞれ独自の発生原因、物理的・行動的関連性、社会的意味があるのである。

 

➡確かに。ネガティブ感情には様々な種類があるし、機能もそれぞれ違うのでちゃんと区別することは重要だろう。

 

第⑦パラグラフ

さらに表情筋の動きを客観的に計測することによって、様々な幸福表情を区別することが出来る。特に真実の微笑と社会的微笑を区別することが出来るのである。

 

➡微笑の種類を区別しない研究で、愛想笑い(本論で言うところの社会的微笑)を本当に喜んでいるって誤判断している可能性がある疑わしいものがあったな。確か。

 

第⑧パラグラフ

いくつかの表情を計測するためのシステムがあるが、FACSは最も包括的に顔の動きを計測できるシステムとして広く認知されている。

 

➡そうそうFACS。視認可能な顔の筋肉の動きを包括的に記述できるシステム。

 

第⑨パラグラフ

消費者の表情を計測し、消費者の感情を把握しようとした研究がこれまでに2つ提示されている。しかし、二つには方法論的な問題がある。一つの研究は、表情の測定者が認定FACSコーダーでもなければ、他の表情分析の手法をマスターしていないものによって計測されている。表情はとても複雑な現象なので、無資格の測定者による測定には、多くの見落としや測定ミスがあると考えられる。

 

➡研究の世界でもこうした問題があるのね。ビジネスの世界ではもっとあるな。表情分析する資格を持っていない人が表情を分析して、解説してる…。

 

第⑩パラグラフ

もう一つの研究は、子どもの味覚を表情から測定しようとした研究であるが、この研究にも方法論上の問題がある。単独のFACSコーダーによってしか計測されていない点とAUに対する感情のラベル付けに理論的根拠がない点である。

 

➡そうそう、AUと感情とを結び付けるのに膨大な論文を読む必要がある。これまでの研究で結構、AUと感情との関連性が明らかになってきたけど、まだ研究で明らかになっていないAUコンビネーションの意味とかあるんだよな。

 

第⑪パラグラフ

我々はこうした限界を正し、表情が消費者の変化する感情を把握するためのマーカーとして利用できる可能性を模索するために記述的な研究を行う。

 

➡どんな方法で研究して、どんな結果が見出されるのか、楽しみだな。

 

 

次回の本シリーズは一ヶ月前後に更新します。論文の方法論・結果を解説します。本論文の復習・予習を念入りにお願いします。

 

 

清水建二

表情観察からウソを推定する方法

 

前回のブログでは「表情分析からウソを推定する方法」を紹介させて頂きました。今回のテーマは「表情観察からウソを推定する方法」です。分析と観察とでは何が違うのか?ざっくり言うと、カメラで記録して精査するか目視でリアルタイムかの違いです。

 

前回ご紹介した表情分析の分析プロセスは、録画された対象人物の表情筋の動きを時間をかけて精査する手法です。どれくらい時間をかけるかというと、1分の動画を1時間かけてコード化することもあります。

 

本日は、リアルタイムで対象人物の表情を観察し、ウソを推定するプロセスをご紹介します。リアルタイムで行うには、前提条件として対象人物と対面する必要があります。対象人物と対面しながら、オープン質問、表情観察、戦略質問、情報の統合という4つのフェーズを繰り返します。

 

①オープン質問

➡オープン質問とは「はい」「いいえ」や短い単語で答えることの出来ない質問法のことを言います。例えば「〇〇の出来事について、あなたが知ってることを出来るだけ詳しく教えて下さい。」といった質問法です。

 

②表情観察

➡オープン質問の回答を述べている対象者の表情を観察します。対象者の言葉と表情が一致しない、もしくは、特定の微表情が表れたら、その箇所を覚えておきます。状況が許せば、メモをとってもよいでしょう。原則的に対象者がオープン質問の回答を終えるまで、質問者が話をさえぎってはいけません。

 

分析で時間をかけていた表情筋の変化をリアルタイムで認識することが可能なの?と疑問を持たれる方がいるかも知れません。当然、分析の時より精度は落ちますが、リアルタイムで何の機器も使わずに微表情を検知することは可能です。方法や効果などについて知りたい方は参考文献に書かせて頂いた論文(Matsumoto & Hwang, 2011)を読んで下さい。

 

また分析のときは表情分析マニュアル(FACS)の手順に沿い、コンマ毎に表情筋を分析しますが、リアルタイムのときは、写真をとるかの如く表情をとらえます。専門的なトレーニングにより表情筋の組み合わせの形状と感情との関係が目に焼きついているため、対象人物の表情筋の動きを瞬間にとらえ、またそれをとらえた瞬間に感情との結びつけが出来るのです(とは言え、FACSによる表情分析よりは精度は落ちます)。

 

③戦略質問

➡言葉と表情とが不一致の話題や特定の微表情が表れていた話題について、その他の話題よりも優先的に追加的な質問をします。質問の仕方は様々ですので、ここでは書ききれませんが、要は、対象人物の感情のブレの理由を明らかにしていくフェーズとなります(もちろん、ここで表情観察の結果のみを頼りにする必要はありません。声・動作で気になる箇所があればそこを追加的に質問するべきですし、単純に不明瞭な内容があれば、それについて質問するべきです)。

 

④情報の統合

➡①~③で得られた対象人物の感情の流れや回答内容に不明瞭な点や矛盾がないか、証拠などで証明可能な回答内容はどの話題かを確認します。その後は①~③の繰り返しをし、回答内容の裏取りとなります。

 

こんな感じです。ウソを推定する、と題に書きましたが、実は積極的にウソを見抜こうとするのではなく、効率的になるべく多くの情報を正確に収集しようとしているのです。

 

伝統的な警察の取り調べ手法を尋問アプローチと呼びますが、今回ご紹介したアプローチは情報収集アプローチと言い、科学的に尋問アプローチより効果的だと証明されている真実解明のための手法です(Vrijら, 2015)。

 

 

清水建二

参考文献

Matsumoto, D. & Hwang, H. S. (2011). Evidence for training the ability to read microexpressions of emotion. Motivation and Emotion, 35(2), 181-191.

Vrij, A., Leal, S., Mann, S., Vernham, Z., & Brankaert, F. (2015). Translating theory into practice: Evaluating a cognitive lie detection training workshop. Journal of Applied Research in Memory and Cognition, 4, 110-120.

表情分析からウソを推定する方法

 

これまで拙著やセミナー、ブログなどでウソの見抜き方について扱ってきましたが、今一度、このプロセスについて明確にしたいと思います。

 

表情分析を用いたウソの推定方法は、表情分析、科学知見の統合、個人差の検討という3つのフェーズから成ります。3つが揃えば揃うほど正確な分析が可能となります。

 

①人物の表情分析

➡対象人物の表情を表情分析のマニュアル(FACS)に基づいてコード化します。次にそのコードを感情に変換します。必要に応じて、表情の非対称性・強度・持続時間なども記録しておきます。

 

②科学知見の統合

➡これまで科学的に証明されている「ウソと関連のある人間の表情の動き・感情」と①でわかった表情の動き・感情とを比較します。例えば、①で「幸福」の微表情が検出されたとしましょう。ウソをつくとき、微表情が出現しやすいという科学知見とウソをつく人間の感情と関わりのある「騙す喜び」という科学的にわかっている感情の存在から、①の分析対象人物から検出された「幸福」の微表情は、ウソに関連している可能性があると考えます。

 

ここで分析対象人物が「幸福」の微表情を表出していたときに話していた話題について、他の話題(ウソに関連する表情・感情が表出していない話題)よりも優先的に精査するという段階に移行します。依頼が画像分析のみで私自身が最後まで真相解明に携わらなければ、「〇〇の話題について優先的に精査して下さい。理由は…」という私の分析レポートがクライエントに通知されることになります。

 

これが一番簡易的なウソ検知における表情分析の活用法です。これ以降は表情という情報以外の情報からウソの核心に迫っていきます。尋問が可能ならば戦略的質問法のアプローチを用いたり、ウソの可能性が考えられる話題について証拠収集することになります。

 

しかし、表情分析のみから可能な限り厳密にウソを推定したい場合で、かつ豊富に分析動画が入手可能ならば、③まで行います。

 

③個人差の検討

➡ウソをつくとき、多くの人は統計的に〇〇のような行動をとる可能性が高いが、今回の分析対象人物は例外かも知れない、という個人差の問題を考慮する段階です。具体的には、分析対象人物が確実にウソをついているときと確実にウソをついていないときの表情を分析します。そして①②の結果と比較するのです。

 

例えば、分析対象人物がウソをついているときは「幸福」の微表情が表出し、ウソをついていないときは「眉間にしわを寄せる」表情を表出することがわかったとします。①②の結果から分析対象人物はある話題のとき「幸福」の微表情を表出していたことがわかっています。このことから分析対象人物はウソをついている可能性が高いと推定し、精査ポイントをより高い精度で絞り込むことが出来るのです。

 

ここまで厳密に分析したとしても、この結果がウソを断定することやウソの証拠になるわけではありません。表情分析からウソを検知しようとする試みは、あくまで捜査や調査を効率的に進める上での補完的なツールであることは言うまでもありません。

 

 

清水建二